NEDO:「燃料アンモニアのサプライチェーン構築」に着手

NEDOは、グリーンイノベーション基金事業の一環で、脱炭素燃料の候補の一つとして期待される燃料アンモニアの社会実装を進める「燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト」(予算総額598億円)に着手する。本事業では、従来のアンモニア製造法からのさらなる効率化や低コスト化を実現する技術、また、発電利用時に高混焼・専焼化を可能にするバーナなどに関する技術の開発に取り組む。これにより燃料アンモニアの利用拡大・普及に向けた技術的課題を解決し、燃料アンモニアサプライチェーンの構築を目指す。

 日本政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げた。この目標は従来の政府方針を大幅に前倒しするものであり、実現するにはエネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションなど現行の取り組みを大きく加速させる必要がある。このため、経済産業省は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に総額2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業などを研究開発・実証から社会実装まで10年間継続して支援するグリーンイノベーション基金事業を立ち上げた。

 なお、NEDOは本基金事業の取り組みや関連技術の動向などをわかりやすく伝えていくことを目指し、「グリーンイノベーション基金事業 特設サイト※1」を公開している。

 本基金事業はグリーン成長戦略※2で実行計画を策定した重点分野を支援対象としており、その一つとして「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」が挙げられている。アンモニアは水素と同様に燃焼時にCO2を排出しないことから、カーボンニュートラルの実現に向け発電や船舶などに用いる脱炭素燃料として期待されている。特に発電用途では従来の化石燃料をアンモニアに代替し、火力発電の脱炭素化を進める効果が見込まれている。またアンモニアは水素を含むことから水素キャリアとしても利用可能であり、既存のインフラを活用して安価に製造・輸送できる特長がある。このため燃料としてのアンモニアへの注目は世界的に高まっており、今後はアジアを中心に需要が急拡大していくと予測されている。

 しかし、アンモニアを燃料として活用するには製造・供給の高効率化や低コスト化だけでなく、供給の安定化や利用拡大に向けた技術的な課題を解決していく必要がある。また、発電利用においては、アンモニア着火・燃焼の安定性、NOx及び未燃アンモニア対策などの課題があった。これらを踏まえNEDOは、経済産業省が策定した研究開発・社会実装計画※3に基づき、このたび「燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト※4」の公募を行い、5テーマを採択した。

事業内容

 本プロジェクトではアンモニアの供給コスト低減のために必要な技術を確立し、2030年に10円台後半/Nm3(熱量等価での水素換算)への引き下げを目指す。また、アンモニアの発電利用における高混焼化とアンモニアだけで発電する専焼化技術の確立にも取り組み、2050年の国内導入想定量である3000万トン/年(専焼で10~20基、高混焼で20~40基程度の導入に相当)を実現することを目標とする。本プロジェクトを通じてアンモニア製造の高効率化・低コスト化から利用拡大までの技術的な課題を解決し、需要と供給が一体となった燃料アンモニアサプライチェーンの構築を目指す。

実施期間:2021年度~2030年度(予定)
予算:598億円

実施テーマ:

▶︎ 研究開発項目1:アンモニア供給コストの低減

 ▷ 1-1:アンモニア製造新触媒の開発・実証
 → 燃料アンモニアサプライチェーン構築に係るアンモニア製造新触媒の開発・技術実証
 燃料アンモニアの利用拡大に向けて、製造コストの低減を実現できるアンモニア製造新触媒をコアとする国産技術を開発する。

 ▷ 1-2:グリーンアンモニア電解合成
 → 常温、常圧下グリーンアンモニア製造技術の開発
 水と窒素を原料とした電解反応を活用し、常温常圧でアンモニアを製造する方法を開発する。

▶︎ 研究開発項目2:アンモニアの発電利用における高混焼化・専焼化

 ▷ 2-1:石炭ボイラにおけるアンモニア高混焼技術(専焼技術含む)の開発・実証
 → 事業用火力発電所におけるアンモニア高混焼化技術確立のための実機実証研究
 アンモニアと微粉炭を同時に燃焼するアンモニア高混焼微粉炭バーナを新規開発し、事業用火力発電所においてアンモニア利用の社会実装に向けた技術実証を行う。
 → アンモニア専焼バーナを活用した火力発電所における高混焼実機実証
 アンモニア専焼バーナを開発し、事業用火力発電所において従来の微粉炭バーナと組み合わせ、アンモニア混焼率50%以上での実証運転を行う。

 ▷ 2-2:ガスタービンにおけるアンモニア専焼技術の開発・実証
 → アンモニア専焼ガスタービンの研究開発
 ガスタービンコジェネレーションシステムからの温室効果ガスを削減するため、2メガワット級ガスタービンに向けた液体アンモニア専焼(100%)技術を開発する。

※1 グリーンイノベーション基金事業 特設サイト 別ウィンドウが開きますグリーンイノベーション基金事業 特設サイト
※2 グリーン成長戦略 日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための産業政策として、2021年6月18日に経済産業省が関係省庁と連携して「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。
※3 研究開発・社会実装計画 グリーンイノベーション基金の適切かつ効率的な執行に向けて、経済産業省においてグリーンイノベーション基金で実施する「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの内容を「研究開発・社会実装計画」として策定した。
別ウィンドウが開きます「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの研究開発・社会実装計画を策定しました
※4 燃料アンモニアサプライチェーンの構築プロジェクト プロジェクト概要:別ウィンドウが開きます燃料アンモニアサプライチェーンの構築

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