最新VVTに備わる「中間ロック機構」とは何か[内燃機関超基礎講座]

オットーサイクルは、シリンダー内にいつどれだけの量の混合気を吸い込ませるかが性能を決める大きな指標となる。さらにバルブの開閉時期を自在に変化させれば——燃費、環境性能、そして性能。アイシン精機はVVTですべてを実現させようとした。

アイシン精機のVVTの最新型は、中間ロック機構を2ヵ所に持つのが特徴だ。通常のVVTならば吸気側に備える場合、非動作時の規定位置を作用角中の最遅角側とする。カムシャフトの回転方向からVVTのベーンがハウジングの壁に当たるところ(つまり最遅角側)で待機させるのが、機構上もっともふさわしいからだ。すると、VVTは進角方向にしか取り代がない。せっかく作用角は大きく持っていても、これではVVTの美点を生かしきれない。そこで、中間ロック機構が考案された。

連続可変の名称どおり、VVTはエンジン運転中、常に作動している。進角側の油圧と遅角側の油圧をバランスさせ、バルブの開閉タイミングを自在に動かしているのだ。つまり、エンジン油圧がかからない状態では、一定の位置に止めておくことができない。そこで、機械的にロックすることで、作用角の中間位置で保持できるようにした。これが中間ロックだ。これならば、エンジン停止前に中間ロックを働かせ始動に最も適したカムタイミングにしておけるとともに、エンジン始動後は遅角側にも進角側にもVVTを働かせることができる。

中間ロック式VVTの高機能版。2ヵ所のロックポイントを持つのが最大の特徴で、従来型の冷間始動時HC低減に加え、遅角側のミラーサイクルを両立した。2013年9月の日産・パスファインダーハイブリッドへの搭載(QR25DER)が初事例。大きく遅角側に振り2ndロックを備えたことで、ハイブリッド車のEV走行中エンジン再始動時の振動低減にも大きく寄与している。

かつては困難で夢物語だと思われていたことも、実現してしまえばもっと多くを要求し始めるのは世の常。中間ロック機構で始動時のエミッション対策とアイドル安定を両立できると、さらに遅角方向に作用角を拡大してほしいという要望が寄せられる。吸気バルブの遅開き~遅閉じ、つまりミラーサイクルの実現だ。

アイシン精機の小林昌樹氏率いる動弁第3チームは、当初は従来の機構を用いて制御で解決する方法を模索したが、結果、中間ロック機構をふたつ備えることで機能を満足させた。ひとつ目は、冷間始動時に有効なポジション、そしてもうひとつは最遅角側で遅開き/閉じを実現するポジションだ。

最進角。矢印に示すとおり、ベーンは油圧室の壁に張り付く状態。
中間ロックその1:アイドル安定。ベーンが油圧室の中間で、ロック機構によって固定されているのがわかる。
中間ロックその2:ミラーサイクル。最遅角までは届かないがその手前の角度で固定し、吸気バルブの開閉タイミングを遅くする。

エンジンが停止するなど、VVTへの供給油圧が充分でないときにも安定したバルブタイミングを得るために、ロックキーによって締結する。万一、エンジン停止時にロックポイントにキーが収まらなかったとしても、カムを回転させたときにロックキーがワンウェイでポイントに収まるように、ラチェット機構を採用している。

シングルポイントとマルチポイントの比較

シングルポイント(SP:左)とマルチポイント(MP:右)を比較すると、SPに対し作用角が増えたことがわかる。この増加分がミラーサイクル領域である。MPの作用角のポテンシャルは最大90°CA(クランクアングル)。小林氏は、現状で要求される性能はほぼ満足できるという。MPがSPにロックポイントをひとつ増やした構造であることもわかるだろう。

SP中間ロックVVTは吸排気バルブオーバーラップをねらったタイミング(ABDC:下死点後40~60°CA:クランクアングル付近)で固定し、始動時のHC排出量を40%も低減する。大変換角中間ロックVVTは、ABDC 90~110度付近まで作用角を拡大。冷間始動時のHC低減とミラーサイクルによる燃費向上を両立させた。また最遅角に2ndロックを備えることでハイブリッド車のエンジン再始動時振動低減も狙える。中間ロック位相=1stロックをABDC 80~90°CA付近に設定し、エミッションより始動時も含めた燃費を優先する場合もある。

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