ボッシュ:水電解装置のコンポーネントを開発

Hydrogen renewable energy production – hydrogen gas for clean electricity solar and windturbine facility. 3d rendering.
ボッシュは水電解の中核コンポーネントであるスタックを開発した。2020年代末までに、この新事業分野に最大5億ユーロを投資する予定。

 グリーン水素に関して、ボッシュがアクセルを踏み込む。 効果的な気候変動対策を実現するために、ボッシュはこの新しい燃料を利用するだけなく、これを製造する企業として参入することを計画している。このためボッシュは、電気分解によって水を水素と酸素に分離する、水電解装置のコンポーネントの開発に着手する。

 このための電気は、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーで生成され、いわゆる「グリーン水素」と呼ばれる水素の生成が理想的。「気候変動対策をこれ以上遅らせることはできません。私たちが目指すのは、ボッシュの技術を用いて欧州での水素製造が急拡大するように支援することです」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長シュテファン・ハルトゥング氏は年次記者会見の場で語った。

「私たちは、この開発に燃料電池技術のノウハウを活用します」と、ロバート・ボッシュGmbHの取締役会メンバーであり、モビリティ ソリューションズ事業セクター統括部門長であるマルクス・ハイン氏は語る。こうしたノウハウを足掛かりに、ボッシュは、水電解装置のコンポーネントの開発をモビリティ ソリューションズ事業セクターに委ね、2020年代末までにこの事業に最大5億ユーロを投資する計画。

 エネルギーの多様化、脱化石燃料、CO2排出量削減の必要性から、鉄鋼、化学、大型貨物などのエネルギー消費量の多い産業だけでなく、民間の不動産においてもグリーン水素の需要が急速に増大している。EUによると、需要は2030年までに年間約1,000万トンまで増大すると見られている。ボッシュは、水電解装置のコンポーネント市場は2030年には全世界で約140億ユーロ規模に拡大し、なかでも欧州は最も高い成長率を示すものと予測している。企業や社会が化石燃料への依存を減らし、新しい形態のエネルギーを活用できるように、ボッシュは、今後3年間で約30億ユーロを電動化や水素などのクライメートニュートラル技術に投資する意向。

ボッシュは水電解の中核コンポーネントであるスタックを開発

 燃料電池と同様に、水電解の重要なコンポーネントとなるのがスタック。これは直列に接続された数百の個別セルから構成される。各セルで、電気を用いて水が水素と酸素に分解される。これは、水素と酸素を結合することで電気が生成される燃料電池とは逆反応。両方のケースで、プロトン交換膜(PEM)によって化学反応が促進される。ボッシュは多くのパートナーとともに、水電解システムのスタックにコントロールユニット、パワーエレクトロニクスおよび各種センサーを組み合わせた「スマートモジュール」の開発を進めている。来年にはパイロットプラントの稼働を予定しており、2025 年以降、これらのスマートモジュールを電解プラントメーカーや産業サービス事業者に供給する予定。

 シンプルなプロセスを用いて、ボッシュはこれらの数多くのコンパクトなモジュールを組み込む。これらのモジュールは、10メガワット以下の容量の小型装置からギガワットレベルの陸上および洋上プラントまで、また、新設プロジェクトのみならず既存プラントでグリーン水素製造に転換する場合にも使用することが可能。水素製造の効率を最大化し、スタックの耐用年数を延ばすために、スマートモジュールはボッシュのクラウドに接続される予定。同時に、水電解装置にはモジュラーデザインが採用され、メンテナンスにおける柔軟性の向上が期待されている。例えば、定期的なメンテナンス作業では、施設全体ではなくプラントの一部区画のみの停止で済む。ボッシュは、循環型経済を推進するために、コンポーネントのリサイクルを含めたサービスコンセプトにも取り組んでいる。

ボッシュの強みである量産とスケールメリットを活用

 現在市場に出ている多くの水電解装置のコンポーネントとは異なり、ボッシュのスマートモジュールは量産される予定。そのため、製造過程でスケールメリットが生まれる。「水素製造の拡大には、スピードとコストという2つの重要な要素が関わってきます」とハイン氏は語る。「ボッシュの量産技術や自動車でのノウハウが活かされるのです」。

 ボッシュは、バンベルクおよびフォイヤバッハ(ドイツ)、ティルブルフ(オランダ)、リンツ(オーストリア)、チェスケー・ブジェヨビツェ(チェコ共和国)という欧州の複数拠点で、できるだけ早く量産を開始する予定。

ボッシュの製品ポートフォリオの拡大が雇用を維持

 自動車業界における現在の変革は、業界全体にとって大きな課題となっている。これまでと同様、ここでのボッシュの対応は革新的なもの。新事業分野への参入により、新たな非自動車部門をモビリティソリューション事業セクターに加えることで、ボッシュはさらなる雇用を守る好機を得ている。今後数年間で水電解装置のコンポーネントへの事業拡大によって、数百人の従業員の雇用が創出される見込み。「私たちは、環境、経済、社会という3つの側面から重要な貢献をしています」と、ハインは語る。

ボッシュはモビリティ用途および定置用燃料電池に注力

 ボッシュは水素を未来の燃料と確信し、モビリティ用途および定置用燃料電池にも取り組んでいる。定置用燃料電池は、都市、データセンター、ショッピングモール、ビジネスパークなどの小規模のオンサイト発電所、および電気自動車の充電スポットとしての利用が想定されている。ボッシュは、モビリティ用途の燃料電池を利用して、当初はトラックによるクライメートニュートラルな商品および物資の輸送を推進する計画。ボッシュのこの分野における車両向け製品ポートフォリオは、個々のセンサーから、電動エアコンプレッサー、スタック、燃料電池モジュール一式などのコアコンポーネントに至るまで多岐にわたる。生産は年内に開始する予定。

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