連載

自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄

自工会(JAMA)会長とは、どんな仕事なのか?

トヨタ自動車の社長交代は大きな話題となった。右が佐藤恒治現社長、左が近健太次期社長。

JAMA会長ポストはトヨタ、日産、ホンダが交代で務めてきた。会長会社はJAMA会長の仕事を補佐する専任スタッフを用意し万全の体制を整える。その数は20〜30名になる。JAMAはただの親睦団体ではない。日本のGDPと就業人口の約1割を占める自動車とその周辺の産業の代表であり、政治案件とも向き合わなければならない。そうした団体の代表が会長であり、まさに自動車産業の「顔」である。だから、政治的中立を維持しながらも業界および自動車ユーザーにとって不利にならないような提言を政府与党や行政に対して行なってきた。

たとえば自動車関連の税金だ。JAMAは昔から一貫して「日本の実情にあった適切な個人負担」を求め、政府に意見表明をし続けてきた。しかし、これは一筋縄ではいかない。「取りやすいところから取る」のが税金であり、自動車を買えば自動車税や自動車重量税、燃料を買えばガソリン税や軽油取得税などが問答無用で徴収される。税金を払わなければ「自動車の便利さを利用することができない」ように、自動車税制は制度設計されている。

日本自動車工業会(JAMA)の会長は、佐藤恒治トヨタ自動車社長(4月以降副会長)、副会長は片山正則いすゞ自動車CEO、鈴木俊宏スズキ社長、イヴァン・エスピノーサ日産自動車社長、三部敏宏ホンダ社長、設楽元文ヤマハ発動機社長、松永明常勤専務理事。理事にはSUBARU、ダイハツ、日野、マツダ、三菱自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックス各社のトップが名を連ねる。

それは仕方ないにしても、一般消費者には見えないところで自動車関連の税金はいろいろと画策されてきた。その最たるものが3つあった。

ひとつは二重課税。燃料小売価格にはすでにガソリン税が上乗せされている。しかし、消費税が導入されて以来ずっと「燃料コスト+ガソリン税」に消費税がさらに課せられてきた。税金×税金の二重課税である。これは現在も続いている。

ふたつめは、道路整備を進める目的で創設された「暫定税率」だ。本来、ガソリン税(揮発油税)は1リッター当たり24.3円だが、1974年度からは2倍の48.6円になった。さらに地方揮発油税も本来の1リッター当たり4.4円が5.2円になり、合計すると1リッター当たり53.8円の税金が課せられていた。この暫定税率は昨年末にやっと廃止された。ここはJAMAの勝利である。

3つめは道路特定財源として徴収されるガソリン税と自動車重量税を、使徒自由の一般財源にすることだ。2006年に一般財源化が認められ2009年には道路特定財源制度そのものが廃止された。欧州では一般財源化が趨勢だが、日本では「なし崩し」的な一般財源化だった。JAMAは政治的中立を保ったが、結果は敗北である。

JAMAにとって3つの政治的懸案のうち、残るは燃料二重課税の問題だけになった。財務省は二重課税を放置している。高市政権はここに切り込めるだろうか。佐藤JAMA会長は、この最後の懸案解決に向けて動くだろうか。

日本には約40の自動車関連団体がある。製造側では日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、販売側では日本自動車販売協会連合会、日本中古自動車販売協会連合会、自動車公正取引協議会、使用側では全日本トラック協会、日本バス協会……など、あらゆる領域をカバーしている。そのなかでも自動車を作り世の中に提供するOEMの団体であるJAMAは中心的存在だ。とくに諸外国からはそのように見られる。

そのJAMA組織内には9つの委員会がある。次世代モビリティ委員会、安全技術・政策委員会、環境技術・政策委員会、サプライチェーン委員会、総合政策委員会、モビリティショー委員会、大型車委員会、軽自動車委員会、二輪車委員会である。各委員会に専門部会とタスクフォースがあり、その数は現在39。すべて各OEMで実務にあたっている社員が参加し、自社の問題ではない共通の課題について活動を行なっている。また、JAMAはワシントンD.C.とブリュッセルと北京に事務所がある。

JAMA会長は、各委員会・部会の決定事項には関与しないが、決定の背景については知っていなければならない。そして記者会見ではつねに代表者である。ACEA(欧州自動車工業会)など海外の自動車団体や関係官庁との会合にはもちろん出席する。まともにこなそうと思ったら仕事量は物凄い。

そして、必要な知識と現状認識のための情報は、各委員会や部会による報告およびブリーフィングだけでなく会長会社の社内でも用意する。その時点での最新の知識を身につけておくため、政治案件がからむテーマについては会長会社の広報渉外部、法務部などが情報収集と分析を行ない会長へのブリーフィングを行なう。完璧に会長職をこなそうと思ったら仕事量は膨大であり、体力と気力を消耗する。

もうひとつ、JAMA会長には在籍する会社の舵取りを任せられた経営トップという立場がある。もう30年以上前のことだが、日産とホンダから出たJAMA会長から「予想以上に仕事はしんどい」と、よく聞かされた。会社側も「本音を言えばJAMA会長は引き受けたくない」という姿勢だった。

副作用も心得ておかねばならない。JAMA会長として何かを主張すれば、反対勢力と向き合わなければならないことがある。ときには会社としての不利益を覚悟しなければならない。過去2度の日米自動車摩擦の折には、JAMA会長は総理大臣に呼ばれ協力を求められた。日米同盟への貢献を迫られたのである。そこでいつも率先して自腹を切ったのは、業界トップのトヨタだった。だからJAMA会長は「トヨタに任せたい」が日産とホンダの本音だった。

佐藤恒治JAMA会長は何を考えているのか?

では今回の佐藤恒治JAMA会長は何を考えているのか。記者会見では「いまが日本の自動車産業にとってラストチャンス」と語った。だから「公務に専念する」と。各社の自助努力だけでは越えられない壁を感じ、政治的に立ち回る必要性を訴えた発言だと受け止められる。

ここから先は過去の事実と現在の状況証拠からの推測である。その点をご理解のうえ、お読みいただきたい。

まず、日本の自動車産業が置かれた立場である。とっくの昔に国内よりも海外での自動車生産のほうが多く、海外事業からの利益が重要になった。2024年実績は海外での自動車(4輪車)生産1468万台に対し国内は823万台。昨年実績は速報値レベルで海外生産1617万台。生産の海外シフトはまだ終わっていない。

米国はもっとも日系OEMの現地生産車が多い。昨年はトランプ関税にもかかわらず米国向輸出台数は増えた。輸入142万台に対し米国・カナダ・メキシコでの生産台数は460万台(Autodate調べ)だった。しかし関税により利益は減り、従来は優遇関税だったカナダとメキシコでの生産分にも関税がかかるようになった。

今後、米国では共和党だろうが民主党だろうが、だれが大統領になっても「関税は引っ込めないだろう」と言われている。世界が米国との交渉に臨み、そこで了解を得た関税合意であり、米国には税収が転がり込むのだから絶対に手放さない、と。

さきごろ米最高裁は「トランプ関税は違憲」との判断を下したが、すぐさまトランプ大統領は動いた。自動車については「2国間合意であり撤回はない」が日米両政府内の認識だが、何か動きがあればJAMAは必ず声明を出す。

JAMA会長は、表立っては政治的な交渉はしないものの、政府に対し「どこまでなら業界として呑めるか」の意見は述べる立場だ。日米同盟重視の姿勢を堅持しながら、海外市場からの利益がなければ体制を維持できない日本の自動車産業の立場は説明するし、要請があれば渡米して説明する役割もこなすだろう。

また、前バイデン政権で導入されたIRA(インフレ抑制法)でのBEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の購入税控除がトランプ政権下で廃止された件では、HEV(ハイブリッド車)を多くラインアップする日系OEMはやや有利になった。しかし、これが次期政権でも続くとはかぎらない。米国での生産計画に影響を与える案件であり、規制動向をJAMAとしても注視している。

次に欧州。昨年の欧州はEU(欧州連合)+EFTA(欧州自由貿易連合)+英国で日系ブランド車の販売台数167万台。日本ブランド車の販売台数規模は米国より小さいが、ビジネスは欧州のルールには従わなければならない。

一昨年の12月、ACEAのルカ・デ・メオ会長(ルノーCEO)はEU委員会のZEV(ゼロエミッションビークル=無排出車)化堅持方針を「世の中はまだ準備が整っていない」と痛烈に批判した。これが昨年12月の2035年規制見直し案につながった。

もし、何か問題が持ち上がれば、ACEAとJAMAは連携する。すでに欧州では、昨年12月発表の「2035年ZEV規制見直し案」に対して「現実的ではない」との批判が出ている。EU委の規制案は今後議会に諮られるが、当然、日本のOEM各社にとっても大きな関心事である。

また、EU委員会が新設を決めた小型BEVのカテゴリー「M1E」は、日本の軽自動車を参考にした制度であり(記者会見でルカ・デ・メオACEA会長が明言した)、1台販売すればCO₂クレジットは1.3倍にカウントされる。この「×1.3」は欧州現地生産車もしくは欧州製部品の採用比率(ローカルコンテンツ)を一定以上にする案が持ち上がっている。この点がどうなるか、必要なら日本としても意見を述べなければならない。

中国にどう向き合うのか?

次に中国問題。政治とは別の、自動車という商品の問題だ。この国の自動車市場はすでに飽和状態だが中国OEMは減産しない。どんどん作り、過剰在庫は「走行ゼロkm中古車」または輸出で売りさばこうとしている。世界各地で安売りし、同時に輸出先の相手国政府との約束を守らないなどのルール違反も平気で行なう。

自由主義経済圏では、企業活動は法と秩序を守った上での自由競争であり、基本は企業努力である。しかし、中国は国家が莫大な補助金をばら撒き、それが企業にとって大きな利益源になっている。補助金の使途には関与しないし、中国の国内法に抵触さえしなければ活動は自由。北京政府はOEMの海外活動に関与しない。

かつて中国自動車産業の発展期には、地理的に近い日本が多大な協力を行なった。この点に対しては中国の歴代政権が評価している。しかし、現在の中国は違う。自動車とその周辺の産業は中国経済圏を広げるためのタスクフォースであり、政府補助金がそのまま「実弾」である。

自動車とその周辺向けの政府補助金は、LIB(リチウムイオン電池)やFC(フューエルセル=燃料電池)、自動運転AI、さらには太陽光発電パネルや風力発電風車、近年ではベアリングなど機械部品にも拠出されている。自動車とその周辺で拠出された補助金は、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以降、昨年までで推定2兆ドル以上とも言われる。

このなかには北京政府だけでなく地方政府の補助金や輸出奨励金も含まれる。「これでは公正な競争にならない」とは、中国以外の多くの国または企業が思っていることであり、中国対策は日本を含めた多くの国の共通目標である。

EUは2024年秋、欧州向け完成車輸出を行なっている中国OEMに対して反補助金調査を実施した。理由は「不当なダンピングからEUのOEMの利益を守る」ためだった。EUでは中国製の安価なBEVとPHEVが安売りされた。補助金調査はEUによるダンピング(不当廉売)調査であり、「どれくらいの補助金をもらっているのか」の調査結果と調査への協力度合いで追加の関税率を決めた。

この調査を拒否した国営上海汽車などには最大35.3%という高率の反補助金関税が課せられたが、昨年のEUでは一昨年以上に中国製BEVが売れた。中国OEMが大規模な値引きを行なったためだ。

日本では「中国ではBEVが飛ぶように売れている」と報じられるが、中国の統計はあてにならないし、工場を出たばかりのBEVが「走行ゼロkm中古車(零公里二手車)」として市場に出回るほか輸出もされている。輸出分は国内出荷と輸出の二重登録となり、しかも省政府が輸出奨励金を支払うケースがほとんどである。

実は、過去にJAMA中国事務所が統計の誤りを指摘したことがある。中国汽車工業協会(CAAM=日本のJAMAに相当)は指摘を受けて修正したが、現在のCAAMは北京政府の代弁者であり、こうした指摘に対しては聴く耳を持たない。中国OEMも北京政府の意向を無視して事業を行なうことはできない。国営企業も民営企業も、さらには外資が出資する合弁企業でも、中国が進める産業政策への協力が求められる。「NO」は言えない。

現在の自動車産業行動指針のひとつは、2020年10月に中国汽車工程学会(日本の自動車技術会に相当)が政府の諮問を受けて答申した「節能および新能源汽車技術路線図2.0」である。このなかに2035年には節能車(低燃費車)と新能源車(新エネルギー車/NEV=New Energy Vehicle)が「それぞれ50%ずつを占めることが望ましい」と記されていた。

NEVとはBEV、PHEV、FCEV(燃料電池電気自動車)の3カテゴリーを指す。NEV50%は単なる政治目標ではなく、中国汽車工程学会という技術集団が示した「国内のエネルギー消費に過度な負荷がかからない適正値」である。北京政府もこれを行動指針として承認した。

その一方で、景気動向は読めなかった。2021年9月の恒大集団債務不履行、さらにはゼロコロナ政策の影響で中国は急速に景気が悪化し、中国の不動産バブルは崩壊したと言われる。2026年の自動車需要見通しについてCAAM(中国汽車工業協会=日本のJAMAに相当)は、めずらしく弱気の数字を発表した。前年比1%増である。

2023年にタイで中国製BEVが売れ始めた。タイと中国との二国間協定がきっかけだったが、その一方でタイ政府と中国OEMが約束した「タイに完成車輸出した台数は翌年以降に現地生産する」件が守られていない。さらに進出先の市場で大幅値引きが横行している。いわゆる「内巻=ネイジュアン」と呼ばれる業界内競争であり、中国OEMはすでに欧州や東南アジアで暴れている。

日本としても、ただ行方を見守るだけでなく日系OEMの利益を守る必要がある。国と国の話だけでなく、JAMAと各国・各地域の自動車団体との連携が必要だ。

中国自動車産業の「996」に日本の働き方改革は対抗できるか?

対中国という点でのもうひとつの焦点は、日本の「働き方改革」である。いま中国自動車産業の技術開発現場では「996」が常態化している。「朝9時から夜9時まで、週に6日働く」という意味だ。日本よりも圧倒的に多い数の技術者(後述する)が週60時間、年間3000時間働く。会社はどんどん採用し、同時に厳しく選別する。働かない技術者は解雇される。

日本で「開発時間が足りない」と言われ始めたのはコロナ禍の前だ。会社は残業させない。しかし新型車の発売時期は決まっている。以前はファミレスやコーヒーショップに集まって社外残業をする開発チームが多かった。しかし、ほとんどの企業でセキュリティ面の必要性から「会社以外でのノートPC起動禁止」「データコピー禁止」となり、社外残業もできなくなった。

このまま「働き方改革」が続けば、日本企業の開発スピードは間違いなく遅くなる。筆者が日常的に取材するOEMやサプライヤーの開発現場では「労働基準法適用外にしてほしい。このままでは商品力が落ちる」との声をよく聞かされる。

よく、中国の有力OEMの開発現場を「垂直統合」などと礼賛する向きもあるが、やっていることは人海戦術×長時間労働であり、中国自動車産業が21世紀に入ってからの25年間で日本に追いついた理由は「人数×時間」にほかならない。

中国の国家統計によると、昨年末時点での自動車製造業従事者は約495万人、アフターマーケットまで含めた自動車産業従事者全体は2228万人である。日本は550万人だから中国はその4倍。このうち研究開発関係が3%だとしても111.4万人。一方、日本は推計で18万人であり、中国はその6倍。労働時間が日本の1.6倍だとして年間のマンパワーは日本の約10倍だ。

そういう中国と、日本の自動車産業は闘わなければならない。研究開発部門内部から労働時間制限撤廃を求める声が出てくるのは、ごく自然なことだ。競争に負ければ会社は潰れる。

JAMA佐藤会長が「公務に集中する」と宣言した理由は、以上のような状況証拠が背景にある。競争領域とは別に、OEMオールジャパンとして協力し合うべき部分がある。この課題に向き合えるのはJAMAだけだ。政治ではない。日本の自動車OEM全社を合わせると、総撤退したロシアを除いては、およそ工場や販売店を持っていない地域はない。

その一方でこうも思う。「いまこそが日本の踏ん張りどきだ」と痛感している人物が、なぜ世界最大の自動車メーカーのトップなのか。ここはいささか皮肉である。

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