“工場の時間”が残る空間

「すごい施設だった」
そう感じた理由は、単純な規模の大きさだけではない。かつてトヨタ自動車東日本の東富士工場として稼働していたこの場所は、プレス工場の骨組みや床、さらには天井クレーンに至るまで、当時の姿を色濃く残している。高い天井の下には、IHI製の30トン、あるいは40トンクレーンがいまも架かり、空間全体に“工場の時間”が封じ込められているようだった。





この工場は53年にわたり稼働し、累計約752万台のクルマを生産してきた。トヨタ・スポーツ800やセンチュリー、さらにはJPNタクシーまで、多様な車両がここから送り出されている。延べ7000人が働いた場所でもある。
だが、この場所は一度、取り壊されるはずだった。2018年の工場閉鎖後、再開発の計画が進むなかで、その運命は変わる。きっかけとなったのは、当時の社長である豊田章男氏と現場の従業員との対話だったという。「ものづくりの歴史とフィロソフィーを残したい」。その思いから、工場そのものを活かし、未来へつなぐという選択がなされた。

“つくる・試す・つながる”ための拠点

こうして誕生したのが「Inventor Garage」である。
単なる開発施設ではない。ここは、トヨタのモノづくりの過去と、ウーブン・シティが目指す未来が交差する場所だ。30社以上のインベンターへのヒアリングをもとに、ラボ機能、モノづくり機能、テストエリア、イベント・交流スペース、さらには宿泊機能までを一体化。開発と実証のスピードを高めるための“仕組み”として設計されている。
今回のイベントのタイトルは「KAKEZAN 2026」。掲げられたテーマは「Heritage × Innovation」だ。その言葉通り、この空間では過去の遺産と最先端技術が同時に存在している。
象徴的なのが、豊田佐吉による発明を再現した「豊田式木製人力織機」の展示だ。トヨタグループの原点ともいえる存在と、最新のAI技術が同じ空間に並ぶ。その違和感こそが、この施設の本質を物語っている。

会場では、豊田章男氏の言動や判断を学習した「豊田章男AI」も紹介されていた。ファンとの交流だけでなく、社内のリーダー層が意思決定を行う際の“壁打ち”としても活用されているという。
AIが加わる“新しいモノづくり”

さらに、今回の発表の核となるのが「カケザン」という概念だ。トヨタのものづくりの知見と、ウーブン・バイ・トヨタのソフトウェア技術、そして外部企業の専門性を掛け合わせることで、新たな価値を生み出す。その中心に位置するのが、このInventor Garageである。
会期は5日間で、延べ3500人の参加が予定されている。初日はトヨタグループ向け、その後は国内外のメディアやサプライヤーが訪れる。実際に会場には海外メディアの姿も多く見られ、その関心の高さが窺えた。

Inventor Garageは、完成品をつくる場所ではない。未完成のアイデアを持ち込み、試し、磨き上げていく場所だ。そして、そのプロセスそのものを価値に変えようとする試みでもある。
トヨタは今、クルマをつくる会社から、“組み合わせを設計する会社”へと変わろうとしている。その変化は、この巨大な空間の中で、静かに、しかし確実に進んでいる。
今回紹介された新しい技術については、別稿で詳しくお届けする。

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