
2026年のWRCラリージャパンは、これまでとは少し違う風景で幕を開けた。
5月28日、大会開幕に先立ち、名古屋城に隣接する名城公園南遊園で、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)によるデモンストレーションランが開催された。その後、愛知県体育館前ではセレモニアルスタートが行なわれ、多くの観客がWRCマシンとトップドライバーたちを迎えた。
ラリージャパンが愛知・岐阜で復活した2022年以来、大会の中心舞台は豊田市をはじめとする三河地域だった。しかし今年、大会は初めて名古屋市中心部へ進出した。その意味は決して小さくない。

平日の名古屋城に集まった大勢の観客







デモンストレーションランの主役となったのは、モリゾウこと豊田章男トヨタ自動車会長だった。
豊田会長はGRヤリス Rally2のステアリングを握り、限られたスペースのなかで豪快なドリフトターンを披露。タイヤスモークを上げながらマシンを振り回すたびに、大きな歓声が上がった。
続いて登場したのはTGR-WRTのチーム代表、ヤリ-マティ・ラトバラ。こちらはトップカテゴリー車両であるGRヤリス Rally1をドライブした。
現役時代からWRC屈指のスピードを誇ったラトバラだけに、その走りは圧巻だった。限られた特設コースでありながら、観客は世界最高峰ラリーカーの加速と迫力を存分に味わうことができた。
印象的だったのは観客の数だ。
平日の午後開催であるにもかかわらず、名古屋城周辺には想像以上に多くのファンが集まっていた。会場周辺には早い時間から人が集まり、スマートフォンやカメラを構えてドライバーたちの登場を待つ姿が見られた。
モータースポーツイベントとして考えても、かなり高い注目度だったと言っていいだろう。
ラリージャパンはなぜ名古屋へ出てきたのか

その後行なわれたセレモニアルスタートでも、多くの観客が愛知県体育館前に詰めかけた。これまでラリージャパンといえば、豊田市を中心とした山間部のスペシャルステージと豊田スタジアムのサービスパークが象徴的な存在だった。

もちろん競技の本質は今も変わらない。実際の勝負は山岳路や林道を舞台に繰り広げられる。しかし大会として見れば、今回の名古屋進出は新しい段階に入ったことを示しているようにも見える。ラリーはF1やスーパーGTと違い、競技そのものが山の中で行なわれる。その魅力は独特だが、一方で一般の人々にとっては接点を持ちにくい競技でもある。
だからこそ名古屋城という誰もが知るランドマークを舞台にしたデモランには意味がある。アクセスしやすく、話題になりやすく、偶然通りかかった人の目にも留まる。
ラリーファンだけでなく、新しい観客層へ大会を知ってもらうための試みとして見れば、今回の名古屋開催は十分な成果を上げたのではないだろうか。
「山の競技」から「街のイベント」へ

もっとも、ラリージャパンをここまで育ててきたのは豊田市をはじめとする三河地域である。
大会の顔とも言えるオープニングイベントが名古屋市内で行なわれたことについては、さまざまな見方もあるだろう。
それでも、現地で目の当たりにした熱気を見る限り、ラリージャパンがさらに多くの人に親しまれるイベントへ成長していくためには、こうした都市部での発信も必要なのだと感じた。
名古屋城を背景に響いたGRヤリス Rally1の排気音。その光景は、ラリージャパンが単なる競技大会から、地域を巻き込みながら成長する大規模イベントへ変わりつつあることを象徴していた。
2026年のラリージャパンは、そんな新しい一歩から始まったのである。