Corso Pilota

座学、レーシングコース走行、そしてロガー解析

今回インストラクターを務めたアンドレア・ファウスティ氏。
今回インストラクターを務めたアンドレア・ファウスティ氏。

モータースポーツこそフェラーリの核心である。ワンメイクレースのフェラーリ・チャレンジや各種GT3カテゴリーレース参戦、あるいはF1やWECに参戦したマシン、そのものでサーキット走行を楽しむなど、涼しい顔でモータースポーツを嗜むフェラリスタは多い。そのきっかけとして用意されるのが「コルソ・ピロタ」だ。

コルソ・ピロタとはつまりドライバートレーニングを意味しており、モータースポーツ活動への端緒として、フェラーリが用意するスクールである。イタリア本国では1993年に始まり、日本でも過去に単発で開催されたことがあるが、今年6月24〜25日に富士スピードウェイで、7月22〜23日に鈴鹿サーキットで開催予定だという。それに先駆けて、鈴鹿サーキットでメディア向けの体験イベントが開催された。

主なメニューはシートポジションなどの基本を学べる座学に始まり、レーシングコース走行、パイロンを並べたジムカーナ、そしてインストラクターによるレーシングコースでのロガー解析だ。本来のプログラムは2日間開催され、初日の8時から2日目の18時までみっちりと様々なトレーニングを受けられるといい、運転訓練だけでなくフィジカルやメンタルのアドバイスもあるという。今回我々が取材したのは、朝8時集合、14時解散の簡易的体験イベントだったが、十分に盛りだくさんの内容であっという間の時間だったことは最初に報告しておく。

スクールカーはアセットコルサ仕様296GTB

アセットコルサ仕様の「296GTB」
アセットコルサ仕様の「296GTB」

座学ではステアリングの回し方や適正なシートポジションいった基本的に始まり、ラインどりをどう考えるべきか、前後荷重の重要さとともに説明された。30分の座学の後、さっそく実力チェックがわりにレーシングコースを走行する。ちなみに参加にあたってはレース装備の持ち込みは不要だ。ヘルメットはフェラーリ側が用意してくれるので、スポーツ走行できる服装(ペダル操作しやすい靴など)で気軽に参加できる。

スクールカーとして用意されるのはアセットコルサ仕様の「296GTB」。3.0リッターV6ツインターボエンジンをミドに搭載するPHEVで、システム最高出力830PSを誇るスーパースポーツカーである。すべてコルソ・ピロタの趣旨に沿ったレーシングヘリテージを凝縮したカラーリングが施される。スポーツ走行に適したバケットシートを備え、軽量パーツを装備し、アセットフィオラーノ仕様となっている。半面、オーナー自らの車両で参加はできない。

インストラクターを助手席に乗せて、マネッティーノはスポーツモードでコースインする。改めて感じたのは296GTBの走行性能の高さだ。昨年「296スペチアーレ」でフィオラーノサーキットを走った際に、これは“別格”と感じたが、標準の296GTBも、まさに速さもコーナリングも一線級とも言える性能を示した。スペチアーレ登場が示唆するように、そのモデルサイクルは、終盤に差し掛かっているが、スーパースポーツカーとしての眩しいばかりの輝きは失っていない。

走行中の目線の動きも記録

アイ・トラッカーのデータ
アイ・トラッカーのデータ

レーシングコース走行は全域全開ではなく、ストレート後半やデグナー手前など合計4ヵ所のアクセルオフ区間が設けられ、速度が上がりすぎない工夫が施されていた。これでリスクの高い鈴鹿も安心して走行できる。毎回同じ区間でアクセルオフすることで、それ以外の区間での成長は定量的に確認できる。また速度を低下させることでブレーキやタイヤの負担も軽減でき、マシントラブルも防げる。ちなみにタイヤはピレリPゼロ・トロフェオRSでトロフェオRよりもロングライフが期待できるという。

走行後は、ロガーによる解析が行われ、インストラクターが改善すべき点を指摘してくれる。今回体験取材した私の場合、ブレーキを徐々に戻しながらターンインするトレイルブレーキングが不十分、操舵タイミングの遅れ、減速不足とその反対の過度なブレーキングの改善をアドバイスされた。目標走行データとして5秒程度速い走行データを用意し、さらなる改善点を見出すというステップアップも用意されるという。

走行中の目線の動きを記録できるアイ・トラッカーのデータを元に理想的な視線の置き方まで細かくチェックされた。ブレーキングでコーナーに進入する際に、ある程度走行ラインが定まったら、視線は早めに次のコーナーへ移すことが望ましい。私はデグナーカーブなどでイン側の縁石を見続けてしまう傾向があり、それを改善するようにアドバイスされた。

短いコースの反復で得られる学び

散水車でウエット路面を作る
散水車でウエット路面を作る

今回のスクールで面白かったのはレーシングコース走行だけではなく、1周15秒ほどの小さなジムカーナコースや散水車で作ったウエット路面でのスピン体験も用意されていたことだ。

鈴鹿サーキット内の交通教育センターに用意された特設コースは、ここでフェラーリを走らせるの?というほど狭く短いコースだった。ギアは2速固定でステアリングは持ち替えずにコーナリングするが、アクセルもブレーキもステアリングもすべての操作がコンマ1秒ずれただけで曲がりきれないほどタイトだ。しかし、これは本国でもこのサイズで行われているという。パイロンで囲まれた視覚的コースサイズの小ささは、万が一この美しいボディにパイロンタッチでもしたら……と緊張感を増幅させる。

まずはインストラクターの助手席で理想の走りをインプットする。その後に運転を交代して助手席に座るインストラクターがアクセル、ブレーキ、操舵のタイミングを教えてくれる。これは操作の正確性やブレーキング後、惰性でコーナリングすることの重要性など、短いコースの反復で得られる学びがあった。

ウエット路面ではマネッティーノを切り替えることでESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)やCT(トラクション・コントロール)の制御の違いはもちろん、そのありがたみが痛感できた。これまでフィオラーノサーキットでスポーツモードとレースモードを試したことがあるが、いかにこの制御に助けられているのだろうか。その自然な制御から存在は気づきにくい。

参加費はなんと286万円!

アセットコルサ仕様の「296GTB」
アセットコルサ仕様の「296GTB」

それらを踏まえて最後にもう一度レーシングコースを走ると、明確に自分の変化を感じた。コルソ・ピロタは特に初歩クラスの場合、ラップタイムを削ることが目的ではなく、クルマの挙動を理解し、きれいに走らせることに主眼を置いている。狭いジムカーナコースでのレッスン後はクルマに対する理解が進み、より安全にきれいに走れるような改善を感じた。

今回われわれが取材したのは、コルソ・ピロタ・スポーツというエントリーレベルのプログラムだったが、他にもより高度なサーキット運転技術をマスターするためのコルソ・ピロタ・エボルツィオーネ+、実際のレース参戦を目指すコルソ・ピロタ・レース、さらに高度なビスポーク的プログラムもイタリア本国では実施されるという。

2日間のプログラム参加費は1泊宿泊代、ランチ2回、ディナー1回の食事代込みで286万円(ゲストは11万円)となかなかの金額だ。今回の半日体験取材だと70万円くらいだろうか……。それでもフェラーリの卓越した走行性能を体感しながら受けられるなら適正価格とも言えるし、これらのプログラムを順当に経て、ゆくゆくフェラーリのモータースポーツの門をこじ開けられるなら、結果として最短ルートの王道なのかもしれない。

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フェラーリ12気筒FRの進化「12チリンドリ」と「812スーパーファスト」を比較試乗して考えた

通常ラインナップの頂点に位置するV12気筒FRモデルだが、その立ち位置はモデルによって微妙な変化があるようだ。フェラーリが12チリンドリに込めた狙いと目的は何か。先代の812スーパーファストと比較して明らかにしてみよう。(GENROQ 2025年12月号より転載・再構成)