世界の自動車史上最大のモーターショー

今年の北京モーターショーは、規模といい重要度といい、世界の自動車史上最大のモーターショーだったと言っていい。どのくらい大きいかと言えば……
会場の面積は約38万㎡(25年の上海モーターショーが約36万㎡。上海には負けないという北京の意地が窺える)。これは、東京ビッグサイトの約3.3倍だ。
出展企業は約2000社、展示車両は1451台、ワールドプレミア181台。そしてプレスデーに開催されるプレスカンファレンスは125回にも上る。

ご存知のとおり、北京モーターショーと上海モーターショーは隔年開催だ。かつてパリとフランクフルトで隔年開催だった”世界最大級のモーターショー”は、いまや、その地位を北京と上海に譲っている。取材する我々としても、はるばるヨーロッパまで行っても出展社は限られているしコストも高い。北京に行けばほぼ全世界の自動車メーカーの現状がわかるのだから、報道陣にとっても重要度も格段に北京の方が上だ。
北京モーターショーに出展しない大手自動車OEMはテスラ、ルノーくらい(スバル、三菱、スズキの日本勢も)。
今回は、北京モーターショーレポート技術編をお届けする。
主役はOEMではなくAI企業

一見すると、「中国製BEVとAI技術の祭典」だが、会場をくまなく歩き回って感じたのは、それとは少し違った”先の見えない不安”だった。
主役はもちろん中国OEMで、日米欧の存在感はマーケットシェアと同様、かなり低くなっている。そして2年前の北京、1年前の上海ショーと比べて、中国自動車市場そのものの風向きが変わりつつあることがわかった。
BEVが当たり前になった結果、中国市場の競争軸は「AI」「高級化」「大型化」「PHEV」へと移り始めている。その主役は、個々の自動車メーカーではなく、ファーウェイ、モメンタのようなAI、OS、ADAS技術開発会社、そしてBYDやCATL、CALBのような電池メーカーで、彼らがOEM並みに前面に出てきている。
ファーウェイとモメンタは、どちらも中国ADAS競争の中心にいる。しかし両者の思想は大きく異なる。
ファーウェイは、OS、AI、半導体、コックピットを統合し、“Huawei ecosystem”そのものを自動車 産業の中心へ置こうとしている。目指しているのは、自動車版アンドロイド帝国だ。

Huawei EcosystemにはHIMA=Harmony Intelligent Mobility Allianceとして、
・AITO(問界)
・Luxeed(智界)
・Stelato(享界)
・Maextro(尊界)
などが入っている。ここに対してファーウェイはADAS(先進運転支援システム)、Harmony OS、LiDAR、センサー、AI、モーター、電子アーキテクチャーを一気通貫に供給する。
供給を受ける自動車メーカー側からすれば、ソフト、AI、UX、クラウド、モーターなどのハードウェアなどを一括で購入でき、短時間で高級スマートBEVがつくれるメリットがある。つまりかつてのPCが「Intel Inside」だったように、「Huawei Inside」になってきているわけだ。



一方のモメンタは、OEM横断型のAI基盤を提供する。完成車ブランドの背後に入り込みながら、数十社へ“共通の頭脳”を供給する姿は、むしろ自動運転時代のボッシュに近い。モメンタは
・トヨタ
・日産
・ホンダ
・BMW
・Audi
・GM
・メルセデス・ベンツ
などの従来からの自動車メーカーとも協業している。もちろん、多くの中国自動車メーカーもモメンタと協業している。ファーウェイに自動車開発の主導権を渡したくないOEMの受け皿になっている。中国以外の外資系OEMがモメンタを選ぶのは、クルマの知能部分をファーウェイに握られるのを避けたいからだろう。ファーウェイに依存することでブランド支配力、UI、顧客データ、ソフト主導権を失うことを警戒している。だから、AIだけ力を借りたいOEMがモメンタへ流れているとも言える。
中国版NVIDIA「Horizon Robotics」
今回の北京モーターショーで始まっていたのは、単なるEV競争ではない。「誰のAIを積むのか」という、新しい主導権争いだ。ファーウェイ vs モメンタに割り込む第三極はHorizon Roboticsかもしれない。Horizon Roboticsは、ADAS用AI半導体やSoC(システムonチップ)、車載AI基盤などを供給する会社で中国版NVIDIAを目指していると言っていいだろう。経済安全保障上からもNVIDIA依存から脱却したい中国、中国OEMにとって存在感が増している。Horizon Roboticsは、北京モーターショー直前に、新型「Starry」チップを発表。これは「5nm/650TOPS/ADAS+コックピット統合/AI大規模モデル対応」のチップだという。
電池戦争は次のフェーズへ
もうひとつのテーマは「車載電池」を巡る競争だ。こちらも完全に次のフェーズに入ったと言える。
競争するのは、
・超急速充電性能
・電池交換
・ナトリウムイオン
・半固体系
だ。


主役のひとつ、BYDはブレードバッテリー2.0を前面に打ち出した。10%→70%の充電が5分間、9分で10%→97%の充電が可能。ー30℃環境下で20%→97%を12分で充電できるというデモをブース内で行なっていた。
BYDの戦略は明快だ。BEVの弱点である充電時間を改善し、給油時間に近づけるという発想だ。しかも、充電インフラまで自前でやろうとしている。BYDは、2026年末までに中国国内に2万基、海外に6000基の充電器を整備しようとしている。

もうひとつのキーワードはLMFPだ。LMFPは、Lithium Manganese Iron Phosphateで、LFP(Lithium Iron Phosphate=リン酸鉄リチウム)にマンガン(Mn)を加えたものだ。これは従来のLFPバッテリーをより高性能化した電池だ。LFPが「安くて安全な電池」だとすれば、LMFPはその進化版だ。マンガンを加えることでエネルギー密度を高め航続距離を伸ばしながらLFPの低コスト性と安全性は維持する、そんな電池だ。BYDもLMFPを前面に出していた。

対するCATLは第3世代 Shenxing(神行)超急速充電バッテリーと第3世代Qilin(麒麟)バッテリーを発表した。
特に注目を集めたのは、QIlin Condensedという高密度系電池。これは半固体寄りの技術とも言われていて、最大1500kmの航続距離を視野に入れているという。

そして、もっとも重要なのは、ナトリウムイオン電池を2026年に量産すると発表したことだ。Naxtra Batteryと名付けられたナトリウムイオン電池は、リチウムよりも安く、資源制約も少ない。また低温特性に優れて安全性が高いという。つまり、CATLは次の電池まで手にしようとしているわけだ。
また、CATLは電池交換式を打ち出している。標準化された交換式バッテリーという考えだ。CATLが考えているのは、「BEVの乾電池化」とも言える。これが実現すると、電池を所有する時代が終わることになる。今後の流れに注目する必要があるだろう。


NCM(ニッケルマンガンコバルト)かLFPか、いつ全固体が量産化できるかを議論している間に中国電池OEMは、次のステージに向かいつつある。
中国も“エンジン”を語り始めた

EV一本化ではなく、PHEV(プラグイン・ハイブリッド)やREEV(レンジエクステンダーEV)回帰のトレンドもあって、内燃機関の再定義もテーマのひとつ。中国OEMは競ってエンジンを展示し、「エンジン技術でも世界に追いつきはじめた」ことをアピールした。
中国OEMは「次」を探している


中国OEMは、強い技術ナショナリズムを意識し始めている。自社製チップ、AI、OS、SiC、そして熱効率を誇る自社製エンジン。まさに、中国自動車産業が第2フェーズに入ったことを示すショーだった。
とはいえ、中国OEMにとって未来が明るいかといえば、そうとも言えない。不動産不況に端を発する中国経済の不調、「内巻」と言われる過当競争など環境は厳しくなるばかりだ。



北京モーターショーでは、中国OEMによる、より利益の大きい大型車、とくにフレーム付きのクロスカントリーSUVのコンセプトが多く見られた。しかも、どれもランドローバー・ディフェンダーかトヨタ・ランドクルーザーに似ている。
競争が激化する小型でアフォーダブルなクルマから大型・高級車へ以降を狙うが、ピックアップトラックや大型クロスカントリーSUVのマーケットが中国でどの程度の規模に成長するかは不透明だ。
新車開発期間が20ヵ月とも18ヵ月とも言われる「チャイナ・スピード」は、デザインも技術も模倣する対象があるうちは大きな武器になるが、「とりあえず中国市場では日米欧OEMより前に出た」段階に来ると、次に何をつくり出していいのか、わからなくなっているように見えた。
“Last Dance”なのか






中国OEMは、大型クロスカントリーSUVに未来を賭ける。日欧米OEMはいかにして中国化しながらブランド力をキープするかの戦いに四苦八苦している。世界を席巻した中国電池メーカーは、次の電池を巡る戦いにエネルギーを使う。AI・半導体メーカーは中国自動車産業はおろか世界の自動車産業の主役の座を狙う。
旧知の中国人ジャーナリストは、こう言った。
「2030年までに、淘汰が進む。今年の北京モーターショーの壮大さは、中国自動車産業のLast Danceかもしれない」

2026年の北京モーターショーは、世界自動車史上最大のモーターショーだった。が、次回(2028年)、次々回(2030年)がこれ以上の規模になるかはわからない。少なくとも出展企業、参加ブランド数は今回以上にはならないだろう。生き残れるのはどこか?世界をもっとも速く走り始めた中国自動車産業は、いま誰も地図を持たない荒野へ踏み込みつつある。
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