
レトロブームの中で誕生した“本格50ccクルーザー”
デカくてラグジー。だけどカワイイ! バラエティに富んだ原付がたくさん登場した70~80年代。実用面でも遊びの面でも原付の基盤はそこでほぼ完成したと言ってもいいだろう。90年代以降はバブル崩壊の影響もあってか車種統合が進められ、フレームやエンジンを共通としながら別モデルとして展開することも多くなった。これは部品が共有できたりしてレストアやカスタムでは有利に働くこともあったが……。さておき、当時は「レトロブーム」も盛んで、ジョルノやビーノ、YB-1、ベンリィ50Sといった主に〝外観〟を意識した車両が各社から登場。イメージキャラクターに芸能人を起用するなど、ファッショントレンドと結び付けながら若者たちへアピールしていた時代でもあった。
そんな90年代半ば、ホンダからは傑作とも言える一台が登場する。その名も「マグナフィフティ」。1995年に登場したこのモデルは、先だって発売され高い人気を獲得していたVツインマグナ(
250cc)の弟分としてデビューした。ホンダ公式発表によると、開発テーマは「本格派クルーザーの魅力を50ccクラスに凝縮すること」。単なるエントリーモデルではなく、本気で作り込まれた原付アメリカンだったのである。
NSR50のようにきっちりとスケール感を合わせて小型化されたわけではないものの、兄貴分の250ccモデルとクリソツなシルエットに全長1960mmの大柄なボディを実現。アメリカンに憧れを抱く原チャリ小僧達のハートをがっちりと射止めたのだ。原付の本格アメリカン(チョッパー)と言えば1986年に登場したジャズがメジャーだが、マグナ50は当時流行していたクルーザースタイルを採用することで差別化。ジャズがチョッパー路線なら、マグナ50はより現代的で都会的なクルーザーという立ち位置だった。現在に至るまでジャズとともに50ccアメリカンの二大巨頭として中古市場を賑わせているのも納得である。


SPECIFICATIONS
▪型式:A-AC13 ▪全長×全幅×全高:1960×760×945mm ▪ホイールベース:1320mm▪最低地上高:165mm ▪シート高:635mm ▪車両重量:96㎏(乾燥87kg) ▪総排気量:49cc ▪内径×行程:39.0×41.4mm▪圧縮比:10 : 1 ▪最高出力:3.9ps/8000rpm ▪最大トルク:0.38kgm/6000rpm ▪始動方法:セル ▪燃料タンク容量:8.0L▪タイヤサイズ(前・後):80/100-16・4.50-12 ▪ブレーキ(前・後):ディスク・ドラム ▪価格:29万9000円 ※スペックは1995年時のもの。
見た目だけじゃない! ホンダらしい作り込みも魅力
マグナ50のディテールを見ていくと、かなり手が込んでいるのがわかる。
パワーユニットは伝統の空冷横型エンジンを搭載しつつセルスターターを標準装備。キック始動が当たり前だった時代に、気軽にエンジンを掛けられる扱いやすさも備えていた。ホイールではリヤにディッシュタイプのミラードホイールを採用し高級感を演出。さらにフロントには往年のホンダロードスポーツが採用していたアルミ製ブーメランコムスターホイールを装着し、個性的な足周りを演出している。さらにフロントにはディスクブレーキを装備。当時の50ccクラスとしてはかなり贅沢な仕様で、ホンダの気合いの入り具合が伝わってくるポイントだ。

ダブルクレードルフレームにセルスターターモーターを備えた空冷4ストOHC 横型エンジンを搭載。吸気はジャズやモンキーR 用よりも若干口径が小さいPB 型キャブを搭載している。

φ31フロントフォークにφ240mmローターと1ポットキャリパーの組み合わせ。優れた制動力を発揮する

左側のサイドカバーはコインでも開閉可。中には車載工具が入った筒状のケースをセット。

ボディデザインに沿わせたスタイリッシュなシングルシート。お尻がすっぽり収まり、表皮も滑らか!
各部のクロームメッキや跳ね上がったメガホンマフラーなど、Vツインマグナ250のイメージを受け継ぎながらも独自の世界観をしっかり構築。シート高はわずか635mmと低く、足つき性も抜群だった。タンクオンメーターや8Lの大容量燃料タンクなど、見た目だけでなく実用面にも配慮されていたのはホンダらしいところだろう。

タンクオンメーターでハンドル周りをスッキリと。ステムにはインジケーターのみ表示される。なおタンク容量は8.0Lと多めだから航続距離も稼げるのだ。

アンダーチューブに直付けされたステップ& ペダルでフォワードコントロールを実現。ミッションは4速リターン式。

重厚感を与えるディッシュホイールは磨けば磨くほど輝きが増す! 99年以降はタフアップチューブを標準採用して耐パンク性を向上させていた。
トルクで走るからクルージングが気持ち良い!
試乗してみると、最高出力は3.9psとジャズ(4.0ps)や同時期のスーパーカブ50(4.5ps)よりも控えめ。しかし実際には低回転域がトルクフルで発進からグイグイと車体を押し出していく。スペックだけを見ると大人しい印象だが、街中では数字以上の力強さを感じさせてくれる。3速から4速もクロス気味で、シフトチェンジ後の加速もスムーズ。信号の多い市街地や流れの速い幹線道路でも扱いやすい。
また、寝すぎていないフロントフォークとワイドなリヤタイヤの組み合わせによって直進安定性も良好。アメリカンらしいスタイルながら、さまざまな道路状況が想定される街中で軽快かつ安定して走らせることができた。見た目重視のファッションバイクかと思いきや、走らせると意外なほど真面目。そんなギャップもマグナフィフティが長く愛される理由のひとつだろう。
80年代から続くゼロハンスポーツやハイパワースクーターの文化と、90年代のレトロカルチャーが混合する中にあって生まれた〝マグナフィフティ〟。1999年の排出ガス規制をクリアしながら販売が継続され、実に14年近くラインアップに残り続けた。原付でありながら250ccクラス顔負けの存在感を放ち、所有する喜びまで味わわせてくれる一台。90年代ホンダが生んだ紛れもない名車と言えるだろう。

身長179cm、体重65kgのアラフォーが跨ってみた。車体がコンパクトなので足を大きく投げ出す姿勢ではないけれど、前方にステップがあるから窮屈さは感じない。ハンドル幅は約700mmで操作がしやすく、高さも控えめでリラックスしたポジションがとれる。全長はジャズよりも大きい1960mm。程よく寝かせたキャスター角(32°25)と16インチのコムスターホイール、ローハンドルのフロント周りがゴージャス!

※この記事は月刊モトチャンプ2023年12月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】