バイクブーム真っ只中に生まれたフルサイズ50

たとえるなら、NSR50の17インチ版? そんな言い方をしたくなるのが、ホンダ・NS50Fだ。ただし、厳密にいえばNS50Fの登場は1987年2月で、NSR50は同年5月発表。つまりNS50Fのほうが少し先輩にあたる。
コンパクトな車体で人気を集めたNSR50に対して、NS50Fは前後17インチホイールを採用したフルサイズ系のゼロハンスポーツ。全長1855mm、シート高760mmという車格は、50ccとは思えないほど堂々としており、ホンダも「本格的な装備をもつ大型ボディのロードスポーツバイク」と謳っているほど。ちなみにNSR50は、全長1580mm、シート高665mmである。大柄なライダーからも支持されたというのも納得できる。
エンジンは、水冷2ストローク単気筒49cc。先代MBX50Fから受け継いだ流れを持ちながら、ハーフカウル、アルミ製S字断面ホイール、プロリンク式リヤサスペンションなどを備え、見た目も中身もかなり本気。50ccという小さな枠の中に、スポーツバイクとしての要素をこれでもかと詰め込んでいたのだ。
今回取材したのは、1990年型の最終モデル。オーナーは通勤のアシとして使っており、2ストならではの排気音や加速感、低速度域でも“攻めている感覚”を味わえるところが気に入っているという。

フロントにはディスクブレーキを装備。軽い車体との組み合わせにより、試乗でも制動力に不足は感じなかった。

セミアップタイプのハンドルは角度がきつすぎず、街中でも扱いやすい。スポーツ感と日常での乗りやすさを両立している。
速さのロマンだけじゃない! 回して走る2ストエンジンの気持ち良さ

NS50Fを語るうえで、当時のゼロハンスポーツらしい最高速ロマンは外せないだろう。リミッター解除でメーター読み100km/hオーバー!そんな話が自然に出てくるあたり、当時の50ccスポーツがどれほど本気で遊ばれていたかが伝わってくる。NSR50、NS50F、NSR-MINIを所有していた筆者の印象では「嘘ではない」印象。もちろん、原付一種の公道走行は法定速度厳守。ここで語りたいのは、違反をすすめる話ではなく、当時のゼロハンスポーツが持っていた“ポテンシャル”と“夢”の話である。
実際に乗ってみると、NS50Fはただ回るだけのピーキーなマシンではなかった。スタートは4000rpm以上をキープしてクラッチミートすれば、しっかり加速につなげられる。いきなりドカンと来るタイプではないが、回転を落としすぎずに乗れば、50ccとは思えないほどスムーズに速度を乗せていく。
実用域は7000rpm以上。そこから8000〜11000rpmあたりが、いかにも2ストスポーツらしいおいしいゾーン(パワーバンド)だ。タコメーターの針を視界の中で意識しながら、回転を落とさずにつないでいく感覚は、まさにギヤ付きスポーツ車の醍醐味。ノーマルマフラーでも、3速で引っ張ると60km/hに届くか届かないかというところまで伸びる。メーター読みとはいえ、ポテンシャルの高さは十分に感じられた。
そして何より印象的なのが軽さだ。車体が軽いから、向きを変える動きがとても素直。ハンドリングに変なクセがなく、思ったラインへスッと入っていける。ブレーキも、絶対的なスペックだけを見れば現代のスポーツ車とは比べられないが、車体が軽いため前後とも制動力に不足はない。むしろこの車格と速度域では、しっかり効くという印象の方が強い。
エンブレ時の歯切れの良い音も気持ちいい。前日にメンテナンスされていたこともあり、吹け上がりや戻りも良好。高回転を使って走る楽しさだけでなく、アクセルを戻した時の“パパパッ”という2ストらしい音まで含めて、NS50Fは乗り手をその気にさせてくれた。
実走チェック! 軽さと素直さでライダーを育てる
今回改めて試乗してみて、その素性を一言で表すならば「スポーツライディングの伝道者」だ。
前傾がきつすぎないライディングポジション、扱いやすい車体、2ストらしい加速性能、そして高い接地感。ビギナーでも気負いなく乗れる敷居の低さがありながら、ちゃんとスポーツバイクらしい走り方を教えてくれる。だからこそ、当時のライダー達はNS50Fでバイクの楽しさを覚えたのだろう。
大排気量車のようなパワーで押し切る走りはできない。回転を落とさないこと、シフト操作のタイミング、ブレーキング、ライン取りが大事になる。これがおもしろい。速さそのものよりも、速く走らせるためにライダーが考えることが多いのだ。
街中でも、NS50Fは扱いやすい。セミアップタイプのハンドルは角度がきつすぎず、極端な前傾姿勢にならない。発進時には少し回転を意識する必要があるものの、4000rpm以上を保ってクラッチをつなげば十分に流れに乗れる。7000rpm以上を使えば、車体の軽さもあってキビキビ走る。通勤のアシとして今も使われているという話にも、実際に乗ると納得できる。
いっぽうで、ワインディングを想像するとエキサイティングな素性が顔を出す。前後17インチの安定感があり、路面に対する接地感も高い。低い速度域でも“ちゃんと攻めている感覚”を味わえるため、峠の下りではかなり楽しかったはずだ。当時、地元スペシャルとして県外ナンバー車を撃沈……なんて武勇伝が生まれたのも、この軽さと扱いやすさがあったからだろう。
50ccだからナメてはいけない。NS50Fは、ライダーを育てるバイクだった。
公道の血統はNS-1へ、ピュアスポーツの魂はNS50Rへ
当時のライバル車といえば、スズキRG50ΓやヤマハRZ50、そして1990年に登場するTZR50などが挙げられる。いずれも魅力的なゼロハンスポーツだが、総合的な完成度ではNS50Fが一歩抜きん出ていたと言っていい。
ただし、NS50Fのような純スポーツ路線は、公道モデルとしてはそのまま続かなかった。後にメットインスペースを持つNS-1が登場し、実用性も取り込んだ新しいゼロハンスポーツへと進化していく。
いっぽうで、NS50Fの類まれなるスポーツ性はレースの世界へ受け継がれた。HRCからはレースベース車としてNS50Rが登場。リヤショックはリンク式から直付けへ変更されるなど、サーキットで戦うためのマシンとして進化していく。
つまりNS50Fは、公道で乗れる50ccスポーツとして、かなりピュアな存在だった。便利さでも、かわいさでもなく、17インチの車体でスポーツライディングを覚えるための一台。現代の目で見ても、これほど本気なゼロハンはなかなかない。
小さな排気量に詰め込まれた本気装備


タコメーター付きのコクピットも本格派。レッドゾーンは1万1500rpm付近から。高回転まで回して楽しむ水冷2ストスポーツであることを、メーター周りがしっかり主張している。

水冷2スト単気筒エンジンは49ccながらクラス最高の7.2psを発揮。高回転まで回して走る感覚は、まさにゼロハンスポーツの醍醐味。1軸バランサーにより不快な振動を低減しており、回して楽しいだけでなく、扱いやすさにも配慮されている。NSR50より低中速に振った特性だ。

ボリュームのあるタンクは10L容量を確保。エアプレーンタイプの燃料キャップも、レーシーな雰囲気を高めている。

シートカウル下には小物スペースを用意。大きな収納ではないが、薄手のウインドブレーカー程度なら入りそうなスペースが確保されている。
MODEL HISTORY|ハーフカウルからデュアルライトへ進化
SPECIFICATIONS|ホンダ NS50F・1990年型

全長×全幅×全高:1855×630×1065mm
シート高:760mm
ホイールベース:1260mm
車両重量:92kg
エンジン:水冷2ストローク単気筒
総排気量:49cc
最高出力:7.2ps/10000rpm
最大トルク:0.65kgm/7500rpm
変速機:6速
ブレーキ:前ディスク/後ドラム
タイヤ:前2.75-17/後3.00-17
当時価格:22万5000円
※この記事は月刊モトチャンプ2020年9月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】



