ドリフトを理詰めで解き明かす
2年目のルーキーが挑むD1最前線!
名門クスコのサポートを受け、2024年のD1ライツで鮮烈な活躍を見せた多田選手。しかし本人は、それまでドリフトをあくまで趣味の延長として捉えており、競技として深く意識したことはなかったという。
「最初にD1地方戦へ出たのも、仲間と一緒に自分の走りがどれだけ評価されるのか試してみたかったから。上を目指す意識はなく、失敗も気にせず、うまく走れて勝てたら嬉しいくらいの感覚でした」。

転機となったのは31歳を迎え、結婚を控えていた2023年だった。生活環境が変わることで、周囲の仲間たちと同じようにドリフトから離れる可能性を考えたことがきっかけとなり、「やるなら本気で挑戦しよう」と競技へ向き合う姿勢が一変する。
その結果、D1地方戦最終戦のYZサーキットで優勝。シリーズ5位となり、D1-Aライセンスを獲得した。「半分はドリフトをやめるきっかけを作るつもりで挑んだシーズンだった」という挑戦は、皮肉にも新たな目標への扉を開くことになった。
「D1ライツは地方戦よりも注目度が高い舞台ですし、トヨタ社員として出場するなら、それまで乗っていたチェイサーではなく、新しいGR86で走りたいと思って車両製作を始めました。でも完成が間に合わなくて…。そこで仕事で関わりがあったクスコの長瀬社長へ相談したところ、前半戦はFDJ2で使用されていたGR86を貸していただけることになりました」。
そして迎えたD1ライツ開幕戦では優勝、第2戦は準優勝という鮮烈なデビューを飾る。シリーズ争いの中心となったことで、前半戦限定だったマシンの継続使用も決定。同時に、D1GPへの思いもより強くなっていった。
「最初に長瀬さんへD1GPに出たいと話した時は、正直そっけない返事でした。でも10月に開催されたFIAモータースポーツゲームスへ、クスコ所属選手の日程が重なった関係で代役として選んでもらい、予選3位、追走5位という結果を残せたんです。マシンは松山北斗選手がFDJで使用した後、まだドライバーが決まっていなかったGR86でした。帰国後、長瀬さんから『来年はお前がD1GPでこのクルマに乗るぞ』と言われて。本当に自分の実力を認めてもらえた気がして嬉しかったですね」。

2025年からD1GPへの参戦が決まると、最初に取り組んだのは、それまで松山選手向けに煮詰められていたセットアップを、自身の理想へ作り替えることだった。
「松山選手のセットは、荷重をあまり動かさず、平面で走らせるイメージ。フロントを軸にキビキビと向きを変えるセッティングでした。でも自分の好みとは正反対だったので、もっと前後のストロークを使い、荷重をしっかり溜められる挙動になるよう変更していきました」。
ドリフトは、進入で荷重を作る瞬間、振り返しでリヤ荷重が抜けて角度が一気に増す瞬間、アクセルオンでリヤタイヤへトラクションを掛ける瞬間、そしてフロントタイヤで狙ったラインへ導く瞬間など、場面ごとに求められる足まわりの動きが異なる。
多田選手は、それぞれの挙動を細かく分解し、あらゆるセッティングパラメータを理論的に分析。本番車をドライブできる機会が大会期間中しかない状況でも、「どこをどう変えれば理想の動きになるか」を頭の中でシミュレーションしながらセットアップを組み立てていく。
一方で、ドライバー側の操作にバラつきがあれば、セット変更による違いも正確には判断できない。そこで2024年D1ライツ名阪大会で苦手意識を感じたことをきっかけに、ハンドル、アクセル、ブレーキ、サイドブレーキといったすべての操作を見直し、自身の入力をゼロから矯正。常に同じ操作ができるよう徹底的に身体へ叩き込んだ。
こうして築き上げた”D1GP屈指の理論派ルーキー”というスタイルは、時に弱点にもなった。参戦1年目は第5・6戦エビスまでセット変更を繰り返して迷走。しかし、第7戦オートポリスでようやく方向性が定まり、それ以降は安定した成績を残せるようになった。

2026年は、マシンをさらに理想へ近づけるべく、エンジンを2JZ-GTEへ換装するとともに東名パワードの3.6Lキットを導入し排気量を拡大。昨シーズンは3.4L仕様で追走時の加速力を確保するため、最大2.7キロものブーストを掛ける場面もあったが、その影響でオイルリークが頻発していた。
そこで今年は排気量アップによって高ブーストに頼らない仕様へ変更。最高出力は3.4L時代と同じ約1100psながら、レースを戦い抜ける高い信頼性を手に入れた。

タービンは昨年から引き続きGarrett G40-1150を採用。エンジン製作は愛知県のファクトリーベースが担当する。クスコ車両の製作を数多く手掛けていることに加え、多田選手の自宅から近かったことが縁となり、D1ライツ参戦時からタッグを組むようになった。今では現地でのメンテナンスまで任せる、欠かせない存在だという。

オイルシステムには、マシン製作時からクスコ製ドライサンプキットを導入。長時間の大きな横Gが掛かるドリフト競技では、オイルの偏りによる油圧低下を防ぐことが重要であり、信頼性向上を目的とした装備となる。

ミッションは、ラリー競技で高いシェアを誇るサデフ製シーケンシャルドグ6速を採用。国内ドリフトシーンではあまり見かけないユニットだが、多田選手は「他社製よりシフトの入りが分かりやすく、何より耐久性が抜群」と評価。このGR86では4年以上ノンオーバーホールで使用を続けているという。

足まわりには、伸び側・縮み側を独立調整できる2ウェイ式のクスコTN_R車高調を前後に装着。さらに、多田選手が強いこだわりを持つハルスプリング製の低反発スプリングを組み合わせることで、荷重をしっかり前後へ移動させられる、扱いやすいセッティングを実現している。

フロントにはクスコオリジナル設計のアームキットを投入。松山北斗選手時代から仕様が煮詰められていたこともあり、多田選手へドライバーが交代してからもナックルを含め基本レイアウトはそのまま使用している。

一方、リヤには定評のあるワイズファブ製アームキットを装着。さらに、スプリングと同じくらい重要視しているのがMBR製バンプラバーだ。バンプタッチからフルボトムまで徐々にレートが高まる特性を持ち、車高調の減衰設定と組み合わせることで、アクセルオン時にリヤタイヤのグリップを使って車速をコントロールする際の挙動を細かく調整している。


ボディは、2022年にクスコレーシングがFDJ参戦用として製作したものをベースに使用。ロールケージやダッシュボードなどコクピット周辺は当時の仕様をほぼそのまま受け継ぐ。ガズーレーシングの刺繍が入ったステアリングは、松山選手時代にチームの遊び心から製作されたものだが、現役トヨタ社員ドライバーである多田選手も気に入り、そのまま愛用している。

迎えた2026年開幕戦・愛知大会では、2日連続で予選を突破。さらに第2戦では予選6位に入り、好調ぶりを印象付けた。
「課題も見つかりましたが、改善する方向性はもう見えています」と多田選手は語る。

ドリフトを感覚ではなく理論で組み立て、走るたびに課題を分析し、一歩ずつ理想へ近づけていく。2年目のルーキーは、その知性と探究心を武器に、2026年シーズンもさらなる飛躍を目指す。今後の活躍から目が離せない。
TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) /PHOTO:Miro HASEGAWA (長谷川実路) &Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

