細かな注文はせず「サイレントヒルワークスらしく」
前後14インチホイールを採用し(※スーパーカブは前後17インチ)ひと回り小さな「リトルカブ」をベースにカスタム。高い位置にセットされたワンオフのロボットハンドル、限界までベタッと落とした車高、スプリンガーフォークにシシーバー。ぱっと見はフリスコチョッパーのようなのに、レッグシールドや長く伸びたリヤフェンダーのおかげで、ちゃんとカブにも見える。アメリカン一辺倒でもなく、昔ながらのカブカスタムとも違う。この何とも言えない国籍不明なバランスが会場でも目を引いていた。
ちなみに“フリスコ”とは、アメリカ・サンフランシスコ周辺で生まれたとされるチョッパースタイルのひとつ。細身で軽快な車体、高めにセットしたハンドルなどを特徴とし、街中を走ることも意識したスタイルとして知られている。そのフリスコ的なテイストを取り入れながら、前後14インチの小径ホイールやレッグシールドといったリトルカブらしさを残し、「サイレントヒルワークス」独自のスタイルへ落とし込んでいる。
このマシンを手掛けたサイレントヒルワークスは、スーパーカブやモンキーなど4MINI※1を中心に独創的なカスタムを生み出してきたビルダー。プライベーターながら、プロでも二の足を踏みそうな加工までこなし、全国にファンを持つという。リトルカブのオーナーhiroさんもそんなファンのひとりだ。
そして長年の念願が叶い、この夏にカスタムが完成。hiroさんからのリクエストは「とにかくサイレントヒルワークスらしいスタイルにしてほしい」というもの。パーツや寸法を細かく指定するのではなく、憧れてきたビルダーのセンスを信頼して製作を任せたのだ。お話しを伺っている際も「サイレント色に染めてもらいたかった」とあり、この姿はオーナーとビルダーの信頼関係から生まれた1台というわけだ。
※1 4MINI(ヨンミニ):4ストローク・ミニミッションの略

長く伸ばしたリヤフェンダーに、高い位置へセットされたテールとシシーバー。バッグまで含めて、オールドチョッパーを思わせる雰囲気たっぷりの後ろ姿。

こちらがノーマルのリトルカブ。1997年に登場した、前後14インチの小径ホイールを採用するコンパクトなカブだ。hiroさん号も14インチやレッグシールドを残しているだけに、見比べると変貌ぶりがよく分かる。
純正フォークからスプリンガーまで作ってしまった
もともと前後14インチでコンパクトなリトルカブを、さらに思い切ってローダウン。フロント周りで目を引くスプリンガーフォークは、市販品をポンと装着したものではない。純正フロントフォークをベースに、内部のショックとスプリングを取り外し、純正のスイングリンクを生かしながらロッドを追加。その先端をスプリングを介してステム部へ固定することで、ワンオフのスプリンガー機構を成立させている。
リヤにはショートタイプのサスペンションを組み合わせ、タイヤがホイールハウスへ深く入り込むほど車高をダウン。さらにリヤフェンダーを後方へ長く延長することで、“ベタ低”のシルエットをいっそう強調している。前後14インチの小径ホイールをそのまま生かしているからこそ、ベタッと落とした車高がさらに強調されて見える。
そして、単なるチョッパーカブで終わらせていないのがカブのアイデンティティである、レッグシールド。カスタムでは取り外されることも多いパーツをあえて残し、ステム下付近でカットして低い車体へ合わせている。フリスコ的なスタイルへ振りながら、“カブらしい顔”を完全には消さない。このセンスはさすがだ。

前後14インチの小径ホイールはそのままに、車高をグッとダウン。延長したリヤフェンダーも効いて、低く長い独特のシルエットを作り出している。

純正フロントフォークをベースにワンオフ製作したスプリンガー。純正フォークを生かしつつ、ロッドとスプリングを追加して機構そのものを作り込んでいる。

純正メーターを活かしてレッグシールドの内側へ移設。純正品ならではの見やすさを残し、インジケーター類もしっかり機能する。
3カ所リンクのジョッキーシフトまで装備
エンジンは中国製のカブ互換ユニットへ換装。4速仕様で、セルモーターをエンジン下側に備えるタイプを使用している。吸気系にはイタリア発祥のパーツメーカーNIBBI製キャブレターを装着し、レッグシールドに設けた開口部から大胆に露出。カブらしい外装のすぐ脇にむき出しの吸気系が顔を出す景色も、このマシンならではだ。
排気系はメガホンサイレンサーを加工して製作したワンオフマフラー。細身の形状を艶消しブラックで仕上げることで派手に主張させすぎず、車体全体のクラシカルなチョッパーテイストへ自然になじませている。
さらに強烈なのがシフト周り。シート脇から後方へ伸びた長いジョッキーシフトは、3カ所のリンクを介してシフト機構へ接続される凝った作り。高くそびえるワンオフのロボットハンドルと組み合わせることで、まるで馬にまたがって手綱を操るような独特のライディングポジションになるという。
しかも足側のシフト操作も残されているため、状況によって手と足を使い分けることができる。さらにキックペダルには、昭和の自転車用ペダルを流用。ハーレー系カスタムでも見られる手法を小さなリトルカブへ持ち込むなど、細部までサイレントヒルワークスらしい遊び心が詰まっている。
パーツをただ足していくのではなく、残すところ、作り替えるところ、あえて違う文化の手法を持ち込むところまで含めて1台のスタイルにまとめる。hiroさんがお願いした「サイレントヒルワークスらしく」という言葉、その答えがこのリトルカブなのだ。

シート脇へ伸びたジョッキーシフトは、3カ所のリンクを介してシフト機構へ接続。見た目だけでなく、操作方法そのものまでカスタムしている。

キックペダルには昭和の自転車用ペダルを流用。ハーレー系カスタムでも見られる手法を、リトルカブサイズで取り入れているのがおもしろい。

吸気系にはNIBBI製キャブレターを装着。レッグシールドの開口部からファンネルを露出させた大胆なレイアウトだ。

メガホンサイレンサーを加工して製作したワンオフマフラー。細身な仕上げがフリスコテイストにもよく似合う。
このリトルカブを撮影したイベントはこちら!




今回のリトルカブを撮影したのは、2026年7月19日に森の駅箱根十国峠で開催された「十国峠原付祭十周年」。今年で10周年を迎えた十国峠原付ミーティングには、関東・中部を中心に全国から100台を超える原付カスタムマシンが集合した。もともとはスーパーカブオンリーのイベントとしてスタートし、現在ではさまざまな原付カスタムが集まるイベントへと広がっている。
十国峠で出会ったほかのマシンたちも、これから1台ずつじっくり紹介していくのでお楽しみに。
【モトチャンプ編集部】