堤 優威が語る
ボトム速度を上げる手法
速く走りたい、タイムを削りたいと思ったときに、「突っ込みで稼ぐ」「ブレーキングで詰める」という発想に行きがちですが、それはちょっと旧いドライビングの考え方だと僕は思います。
クルマが凄く進化し、ボディ剛性、サスペンションジオメトリー、空力、そしてタイヤの性能も向上していることを考えると、ブレーキで頑張っても得られるリターンは大きくないんです。
それよりも、ブレーキを早くリリースして、コーナーを高いスピードからクルマを旋回させることが大事。これが今回のテーマ、ボトムスピードを上げつつ曲げるテクニック。
僕もタイムが出ないとき、ブレーキを詰めていきたくなることがあります。
しかし、それだとコーナリングのボトムスピードが落ちて、そのためエンジンの回転数も下がり、そこから立ち上がっても車速を乗せていくまで時間が掛かり、結果的にタイムが伸びない。ブレーキを奥まで詰めれば詰めるほどネガティブな方向、負のスパイラルに陥るのです。
そこで、ブレーキをより手前でリリースしきって、コーナーのボトムスピードを上げることを意識します。そうすることで自然にタイムが上がるのが、いまのスポーツカー、最新タイヤの傾向なんです。
これは市販車からGR86/BRZ Cupの車両、S耐、スーパーGT、スーパーフォーミュラライツまで、どんなクルマやタイヤにもいえることです。
GR86/BRZのように、車両重量がある程度大きく、NAエンジンでは、とくにボトムスピードの高低がタイムに影響します。
86/BRZでブレーキ重視、突っ込み重視の走り方をすると、1周で0.5~0.6秒ぐらい失っていることがよくあります。
ボトムスピードが3~4km/ h異なると、立ち上がって、次のコーナーの進入までのトップスピードが結構変わる。ここでタイムを稼ぐことを優先するのがポイントです。

早くブレーキを離しても
進入は2~3㎞/hの違い
そのドライビングでは、ブレーキ開始はやや早く、ブレーキを抜きつつ舵角開始。手前ではもうブレーキを残さないようにして、クリップまでにしっかりロールの姿勢に持ち込む。
リアのサスペンションもタイヤもストロークして、外輪2輪に荷重移動したロールの姿勢になると、高いボトムスピードでも、クルマがググッと曲がるオイシイ瞬間が来るのです。
そのタイミングで早く右足をアクセルに戻す。アクセルを全閉にしている時間を短くして、クリッピング付近は軽いパーシャルスロットルでアクセルでも曲げつつ通過。
そうすることでボトムスピードを高め、エンジンの回転数も高めの状態をキープします。ブレーキを早いタイミングで抜いてしまうといっても、突っ込んだ走りとロガーで比較して進入車速は2~3km/hも違いません。
でも、突っ込み重視だといつまでも前荷重のままで、横へのロールになるのが遅く、リアもストロークせず、曲がるオイシイ瞬間は来ません。
このボトムスピード重視の走り方をすると、ブレーキを早く戻して、ステアリングを切り始めるタイミングも早くなるのですが、その結果として、最大舵角量が小さくて済むようになります。
フロントタイヤをこじらないのでタイヤのデグラデーション(=劣化)が小さくなりますし、四輪のタイヤをきれいに使って走ることができるので、周回しても速いタイムを連続して出すことができるのもこの走らせ方のメリットです。
この走らせ方がとくに活きるのは、車速レンジが高い国際コースです。筑波のようなテクニカルなコースのヘアピン、あるいは雨の日では、ブレーキを詰めて、V字に曲がる走り方でもタイムは出ます。しかし、鈴鹿や富士、もてぎ、岡山国際などの大きなコースでは、ブレーキングで頑張っても速いタイムは望めません。
エンジン回転を落とさない
走り方に行き着いた

僕がボトムスピード重視の走り方に目覚めたきっかけは、カート時代です。カートでエンジンが遅かったとき、どうやって速く走るかを考え抜いた結果、コーナリング中、エンジンの回転数をできるだけ落とさないようにすることに行き着きました。
そして、4輪にステップアップしたときにも、その走り方を車種の性格にアジャストして実践してきました。
とくにABSがないクルマはブレーキングで詰めようとしても難しいし、ブレーキを掛けながらステアリングを切るとロックするだけなので、ブレーキで詰めるのをやめました。進入で頑張っても速くはならないことは、データ上でも明らかだったので。
そこで大事になってくるのがブレーキの踏み方と抜き方です。

①進入でフルブレーキが必要なコーナーで、ABSを効かせられない人は、まずABSが効くまでしっかりブレーキが踏めるようになるまで練習しましょう。
②次にABSが作動して、フロントが沈み、リアが浮き気味になって少し不安定なるぐらいピッチングさせられるようになったら、ブレーキのリリースコントロール力を磨いてください。
ボトムスピードの速いコーナリングを体現するときのポイントは、このブレーキの抜き方にあるんです。後で詳しく説明しますが、僕にとってのよりよいブレーキングは、ブレーキの踏力がMAXになる時間は一瞬で、早いタイミングで強いブレーキを一瞬踏んだら、即リリースしていくのが理想です。
ABSが作動したらいつまでもABSを効かせっぱなしにしないで、一瞬ABSを効かせて、あとはABSがギリギリ効かない範囲をキープ。
それができたら、ABSが入ったらブレーキを徐々にリリースして、リリースすると同時にステアリングを切り始め、クルマの姿勢をピッチングからローリングにきれいにつなげていく練習をしましょう。
高いボトムスピードには
リアと遠心力を活用する
いちばん速いコーナリングは、フロントタイヤとリアタイヤのいずれもが最大の横力(CF=コーナリングフォース)を発揮しているときです。
突っ込み重視で旋回制動状態だとアウト側のフロントタイヤのグリップ力は使いきっていますが、リアタイヤの横力は余っています。
リアの横力を使うには、クルマをきれいにロールさせる必要があるので、ブレーキを残す進入はNGなんです。
クラブマンは前荷重のみ意識して、フロントタイヤに荷重を掛け過ぎつつハンドルを切って、タイヤが負けて、通称「タイヤを倒してしまう」パターンが多い。
これだとアンダーでクルマが前に抜けてしまい、横にロールせず、曲がる力がリアから発生できません。
フロントタイヤのグリップばかり気にするクラブマンが多いですが、僕は進入でもつねにリアタイヤのことばかり考えて走っています。フロントタイヤのグリップはどうでもいい(笑)。「リアで走っている」ともいえます。
逆にフロントタイヤの荷重を抜いて余力を残して進入することで、クリップまでに前後タイヤの横力を最大に発生させる走り方といえます。
ブレーキリリースとステアリング操作のタイミングで、遠心力を使ってクルマをロールさせて曲げていきます。前後タイヤの横力が最大となり、この遠心力で、クルマの中心を軸に、舵角以上にググっと曲がっていくイメージです。
この曲がる感覚がつかめてくると、どんどんリリースポイントが手前になって、ボトムスピードが上げられるようになるはずです。そういう意味で決定的に異なるのは、コーナリング中、どこに意識を持っていくかです。
突っ込み重視派の人は、アウト側のフロントタイヤをずっと意識しながらコーナリングしていると思いますが、ボトムスピード重視型では、フロントタイヤはどうでもよくて、リアタイヤで走ることを意識しています。
ブレーキを踏み続けるより
制動距離を短くするテク

シミュレータのロガーグラフを見てもわかるんですが、お手本になるブレーキは、スッと踏力が立ち上がり、リリースも斜めに直線的なグラフになります。
ブレーキペダルはスイッチではないので、ドンと踏んでパッと戻すのはよい操作ではありません。
フロントに荷重を残しつつ、ゆっくりリリースしながらステアリングを切っていくとアンダーステアになりにくく、素直にフロントが入っていきます。
要はフロントタイヤを止める方向ではなく、転がす方向で使うということ。ステアリングを切ってもタイヤが転がらなければクルマは曲がってくれません。
だからブレーキをリリースして、クルマをフロントタイヤの向いているほうに動かしてやる。それがコーナリング速度を高める秘訣なのですが、だからといってフロントの荷重が抜けてからステアリングを切ってもアンダーしか出ない。
だからブレーキのリリースと、ステアリングの切り込むタイミングをオーバーラップさせるのが大事なコツです。クラブマンでも、ブレーキとステアリングをオーバーラップさせているでしょう。
しかし、ロガー上のブレーキの波形が立ち上がって、そのMAXの頂上の時間が長く、グラフが台形になるようなブレーキの踏み方をして、ステアリングを切り始めるタイミングが遅い人は、いまの車両、いまのタイヤでタイムを出すのに苦戦しているはずです。
Part2 コーナーのボトムスピードを上げるカギは「リアと遠心力の活用」

10月11日 19:10~配信予定
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