モーター、バッテリー、燃料電池をすべて刷新。モーター最高出力は先代の113kWから150kWへ

現状、電気自動車(EV)向けの充電設備ほどには水素充填ステーションの整備は進んでいない。充填ステーションは存在しても営業日に限りがあったり、営業時間が短かったりと、決して使い勝手がいいとは言い切れない。水素を燃料に空気中の酸素と化学反応させて電気をつくり、その電気でモーターを駆動して走る燃料電池電気自動車(FCEV)を使ってみると、そこを不便に感じるし、そこが改善されないと「おすすめですよ」とは言いづらい。

しかし、ニワトリと卵である。日本の道路上にFCEVが走っていなければ、水素ステーションが存在する価値はなく整備が進む道理もない(逆も言えるわけだが)。その意味で、トヨタだけにFCEVの普及を任せず、NEXO(ネッソ)という最新のFCEVを日本市場に導入してくれた韓国のヒョンデには感謝である。しかもこのNEXO、FCEVであることを抜きにしても、非常に魅力的なクルマなのだ(ついつい、FCEV以外にもパワーユニットの選択肢があるといいのだけれど……という思いが湧き上がってしまう)。

2018年に登場した先代NEXOは2022年に日本に上陸。全世界で累計約4万台を販売したという。新型NEXOは2025年にデビュー。日本での販売は2026年4月から始まっている。後席下に搭載する高圧水素タンク(70MPa)は3本で、これに計162L、6.69kgの水素を貯蔵することができ、約5分の充填で1014kmの一充填走行距離(参考値)を実現するという。

PE(パワーエレクトリック)システムも燃料電池システムも新作だ。PEシステムはモーター、インバーター、減速機を一体化した3 in 1構造を採用。従来は間接水冷方式を採用していたモーターは直接油冷方式に変更。これにより冷却効率が大幅に向上。連続走行性能が強化され、さまざまな走行条件において安定したパフォーマンスを発揮できるようになったという。最高出力は先代NEXOの113kWから150kWへと約33%向上している。

インバーターのパワー半導体には新たにSiCを採用して損失を低減。走行状況に応じて内部の回路構成を切り換える2段インバーターを採用したことで高い効率と優れた出力特性を両立できたそう。モーターの最高出力を高めたいっぽうで、最大トルクは従来の390Nmから350Nmへと約10%ダウンしている。これに対しては、減速比を従来の7.98から10.657に高めることで、実際にタイヤに伝わるトルク(モーター最大トルク×減速比)は約20%向上させている(3112.2Nm→3729.95Nm)。

ラゲッジスペース下に搭載するバッテリーはシステム全体のサイズを維持しながら最高出力を従来の40kWから80kWへと倍増。同時にエネルギー密度を向上させることで容量を1.56kWhから2.64kWhへと約69%増やしている。

燃料電池システムは燃料電池スタックに送り込む水素と空気の量を増やすとともに、各コンポーネントの改良を積み重ねた結果、最高出力を従来の95kWから110kWへと約16%向上させた。スタック内部に残った水分が凍るような冷間時の始動性や信頼性についても改良を加えている。

上質な室内と余裕のある後席・荷室。全長4750mmなのに実寸よりひとまわり小さく感じる

動力源であるPEシステムや燃料電池システムが一新され、性能が大きく向上しているのも魅力だが、何より、品のいいモダンなルックスを手に入れた点が新型NEXOをより魅力的に魅せている。室内はまるで品のいいモダンなホテルの、品のいいモダンな部屋で過ごす感覚だ。

インテリアの装備は充実しており、かつ機能的(撮影車はLounge)。スマホのワイヤレス充電パッドは2つ付いている(ベースグレードのVoyageを除く)ので助手席の乗員と奪い合いになることはないし、前席はシートヒーターだけでなくシートベンチレーションも付いている(ベースグレードのVoyageを除く)。運転席だけでなく助手席もパワーシートだ。ウインカーレバーはヒョンデの他のモデルと同様、日本車と同じ右側である。

後席は足元も頭上もゆったりしているし、空調の吹き出し口があり、USBタイプCのポートが2口用意されている。なんなら100V電源のコンセントも備わっている。シートはリクライニングの調節が可能だ。足元のセンター部がわずかにふくらんでいるのはプロペラシャフトを通すためではなく、構造上の理由だそうである。後席ドアは最大90度まで開くので、乗り降りの助けになりそうだ。

ラゲッジスペースは広々としている。クルマのサイズの割りにずいぶん広いなと感じたのだが、カタログを見て驚いた。横浜(神奈川県)のみなとみらい周辺を運転した際に受けた感覚としては全長4500mmクラスのつもりでいたのだが、実際には4750mmである。1865mmの全幅と1690mmの全高も含めトヨタ・ハリアーと同等だ。外から見た感じも、運転して感じる印象も、実際のサイズよりひとまわり小さく感じる。

目まぐるしく切り替わる走行モードを感じさせないスムーズな走り。V2L・V2Hで家への給電もできる

メーターには燃料電池&PEシステムがどのような状態にあるか、文字とグラフィックで表示される。停止中は「待機モード」と表示されたり、「充電モード」(燃料電池で発電しバッテリーに充電)と表示されたりする。発進後は「走行中充電モード」(燃料電池で発電しモーターを駆動しつつバッテリーに充電)と表示されたり、「燃料電池モード」(燃料電池で発電しモーターを駆動)や「走行モード」(バッテリーの電力でモーターを駆動)と表示されたりする。モードはアクセルペダルの微妙な動きに応じて目まぐるしく変化する。

モードが切り替わっていることは体感上まったくわからない。システムが巧みに制御し、効率を考えながらドライバーの要求に応えているのだ。その様子が目まぐるしく切り替わる表示から伝わってくる。アクセルをオフにすると「回生ブレーキモード」(モーターで発電しバッテリーに充電)に切り替わる。左右のパドルで減速の強弱を調節できるのは、ヒョンデの他のモデルと同様だ。

最新の電動車にしては高周波系のノイズが車室内に侵入してくる度合いが大きめだが、車速に連動して周波数とボリュームが上下するので気になるほどではない。電動車らしい、静かで、応答性が良く、リニアな走りは存分に味わえるし、力強さが欲しいシーンでは充分な力を出してくれ、爽快な気分にさせてくれる。車両感覚はつかみやすいし、見切りは良く、扱いやすい(だから、実際のサイズよりコンパクトに感じたのだろう)。

右リヤフェンダーには100V電源のコンセントが付いており、アダプター不要で家電などへの電力供給が可能(V2L機能である)。また、燃料電池システムが収まるフロントのコンパートメントにはCHAdeMO規格のポートが設置されており、外部給電器を用いれば燃料電池システムで発電した電力を住宅に供給することも可能である(V2Hだ。最大出力は10kW)。NEXOは水素を燃料とする発電機を積んだクルマ、という見方もできる。

そうした多機能性も合わせて考えると、ますますNEXOが魅力的に感じられるし、つくづく水素インフラの現状がうらめしい。

ヒョンデNEXO Lounge 主要諸元

全長×全幅×全高:4750mm×1865mm×1690mm
ホイールベース:2790mm
トレッド(前/後):1615mm/1625mm
最低地上高:160mm
車両重量:1970kg
車両総重量:2245kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.5m
駆動方式:前輪駆動
燃料電池システム:固体高分子型(PEMFC)
燃料電池最高出力:94kW
燃料:圧縮水素
水素タンク:3本・計162L(54L×3)
公称使用圧力:70MPa
モーター:交流同期電動機(DE4N)
定格出力:50kW
最高出力:150kW(204PS)/4200-5000rpm
最大トルク:350Nm/0-4000rpm
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
総電圧:240V
総電力量:2.64kWh
燃料消費率(WLTCモード/自社測定値):145km/kg
一充填走行距離(参考値):970km
サスペンション(前/後):マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ:245/45R19
車両本体価格:820万円