未完成の色気を纏う異端ハチロク
チューブフレームで再構築されたAE86の現在地
クルマは作業工程の途中において、「未完成の格好良さ」のようなものを時折見せることがある。今回紹介するイシカワボディのAE86も、まさにそんなクルマだ。
パイプで組まれたフレームに、アルミで造形されたワンオフのフェンダーが仮留めされた姿は妙に色気を放ち、完成途上のアートを盗み見してしまったような官能を呼び起こす。

製作の経緯をイシカワボディ代表の石川 昌さんに聞くと、ベースのAE86はもともと書類もないドリフト専用機だったのだが、ある時クラッシュして大破。ならば好きなように自分が格好良いと思うAE86をイチから作ってみようと思い立ったのがきっかけだそうだ。
「まずはエンジンをフロントミッドシップに搭載するパッケージを自分で作ってみたかったんです。それとエンジンが下ろしやすくて整備性が良く、とにかく軽いハチロクも作ってみたかった。それでオリジナルのボディをフレーム修正機に載せて寸法を出した上でフロアを25cmくらい後ろに下げて、その分、エンジンも後ろに搭載するパイプフレームを作りました」。

詳しい製作工程は、石川さんが自ら撮影&編集を行なっているYouTubeの動画を観ていただいた方が分かりやすいと思うが、純正位置より約25cm後ろに、高さを15cmほど下げたフロアを角材でコの字型に囲んで溶接。それをベースにエンジン搭載用の鋼管フレームをタイヤの切角を意識して少しナローにして溶接してある、というのが基本骨格となっている。
ナックルもドリフト専用に作ったものを取り付けてある。ストラットタワーの左右位置は純正から変わらないようにフレームを組み、ロワもAE86純正メンバーで支持。車高調は手元にあった部品を組み合わせたお手製だ。


リヤサスはホーシングやラテラルロッドを踏襲する一方で、コイルオーバーのマウントは自由演技で位置決め。ブレーキはFC用のキャリパーとローターを流用している。


縦横無尽に張り巡らされた室内側のパイプフレームも、「なんとなくこの辺を通っていたらいいかな?」というフリーハンド感覚で溶接。ステアリングはギヤ比をクイックにできる海外製のラック&ピニオンを使いつつ、かなり後方に下がったドライバー位置に合わせてハンドル位置を延長。乗降性は極めて悪いので、クイックリリースも必需品だ。トランスミッションはRX-8の6速MTをそのまま移植してあるが、シフターの位置合わせはミッショントンネル上部を大きく切り出して後方へとスライドさせた。

シートはレカロのレース用フルバケットで、石川さんの理想とするドライビングポジションに合わせ込んである。燃料タンクは助手席スペースに置かれる予定だ。

ボディパネルはラジコンのように上からガバッと嵌め込む構造としてあるが、「シャシーをドロップした分、フロントガラスをちょっと寝かせたかった」ということで、ルーフも5cmほどチョップ。「真横から観た時にノーマルのハチロクではあり得ないような、低くて、長くて、シャープな造形を作りたかった」という狙い通りのスタイリングを実現してみせた。

大型スプリッター付きのフロントバンパーは、取り付け専用のフレームを別に設けて、車体側フレームに差し込んむようにして装着。脱着を容易にさせているが、とにかく低くて、かつ前に突き出している姿は異様だ。


鈑金塗装は石川さんの本業だが、アルミの成形はチャレンジのひとつだそうで、型紙を使ってある程度の形を決めて、曲げ加工を行なっている。リヤは既に完成しているが、フロントは取材時点で鋭意製作中。エンジン上部はボンネットというより「ダクトカバー」のようなイメージのパネルで覆う計画とのことだ。あとは灯火類だが、それも様々なアイデアからベストな姿を思案しているところである。

ホイールはウェッズのRACING FORG FGを装着。小径かつ深リムを実現できて、AE86のスタイリングにもばっちりハマることから迷いなくの選択だ。サイズは12.0Jマイナス25×15。タイヤは285/30R15というかなり変わったサイズが選べるVitour(ヴィツアー)のTEMPESTA P1を組み合わせる。

そして、逆側にはもともとセンターロックを採用していたハヤシレーシングのホーネットをリバレルしたオリジナルホイールも装着。切り出した三角形のディスクを削り出しのリムに溶接してある。

エンジンはRX-8の13B-MSP型を搭載。ノーマルはインジェクションかつ電子制御スロットルだが、それをケーヒンのFCRキャブレターとSA22純正のデスビを使った機械式アナログ制御にダウンチューニングすることを選択した。

「単純にFCRのキャブが付いている見た目が格好良いからという理由で取り入れたんですけど、正直これはうまくいきませんでした。一度パワーチェックしたら、最初は38psしか出なくて(笑)。キャブの調整をやり直しても80psが限界で。どうも4連というのが良くないみたいで、インマニを作り直して再挑戦する予定です。鈑金塗装以外は素人のオジサンが趣味でやっていることなので、温かい目で見守っていただけると嬉しいです(笑)」。

そう語る石川さん本人にも未だ完成形が見えていないAE86。どのようなカタチに進化していくのか楽しみだ。
●取材協力:イシカワボディ 静岡県浜松市浜名区三ヶ日町下尾奈1140-1

