連載

福祉の車窓から 〜福祉車両などの情報を利用者の視点で〜

車いす仕様車の乗降において、もっとも手間と時間がかかるプロセスが「固定作業」。その常識を覆す装備が、今回の一部改良でトヨタ・ノアおよびヴォクシーのスロープタイプ車に新たに設定された「ワンタッチ式固定装置」だ。

「ガチャン」と一瞬。スイッチひとつで完了する固定作業

この装置の最大の特徴は、文字通り「ワンタッチ」で作業が完了する点にある。車いす側のアンカーバーを車両側の固定アームがホールドするため、指定の場所に車いすを進めれば、その後は電動スイッチの操作だけで確実に固定ができる。

これまで一般的に普及してきた「ベルト・ワイヤー式」の固定方法では、介助者が車内外で車いすの4ヵ所にフックを掛け、手動や電動で締め込む必要があった。ワンタッチ固定装置は、この物理的な手間を劇的に解消し、誰でも迅速かつ確実に固定できる環境を実現している。

個人の介護から施設送迎まで、現場の負担を大幅に軽減

この利便性は、日々の介護現場において極めて大きな価値を持つ。

  • 個人の介護において: 介助者の身体的負担を減らすだけでなく、雨の日や急いでいる時でもスムーズに乗降ができるため、外出への心理的ハードルを下げることにつながる。
  • 介護施設において: デイサービス等の送迎では、1日に何度も車いすの乗せ下ろしが発生する。1回あたりの時間が短縮されることで運行効率が向上し、さらに手順の簡略化によってベルトの掛け間違いや締め忘れといった事故を未然に防ぐ安全性の確保にも寄与する。

メーカーの枠を超えた「標準化」への歩み

実は、このワンタッチ固定装置の歴史は先代の80系ノア/ヴォクシーから始まっており、当時は専用車いす「ウェルチェア」とのセットでラインアップされていた。現在はハイエースの「ウェルジョイン」などにも採用されているが、その歩みは、実は当初よりトヨタというひとつのメーカーに留まったものではなかった。

というのも「車椅子簡易固定標準化コンソーシアム」という組織のもと、国内主要メーカー(トヨタ、ホンダ、日産、スズキ、ダイハツ、三菱など)と車いすメーカー計13社が参画し、規格化・普及に向けた動きをみせている。

現在では、トヨタ以外の採用実績も具体化しており、スズキでは「スペーシア」や「エブリイワゴン」の車いす移動車において、アンカーバーに対応した簡易固定装置を純正アクセサリーとして設定。メーカーの垣根を超えて、共通の利便性を提供し始めている。

車いす仕様車“タイプⅠ”(車いす1名仕様)・引き出し式スロープ<ベルト/ワイヤー式固定装置>※ベース車はノアS-G(ハイブリッド・2WD・7人乗り)

誰もが「ガチャン」で済む幸せな未来へ

コンソーシアムが目指すもののひとつは、車種や車いすのメーカーを問わず、規格に適合した「アンカーバー」さえあれば、どこでも「ガチャン」とワンタッチで固定できる社会だろう。

この標準化が進み、将来的に路線バスや鉄道、航空機、船舶などの公共交通機関へも導入されれば、介助者の手を借りずとも利用者本人が自ら固定して乗車できるケースも考えられる。「もっと安心して、スムーズに、車いすのまま移動できる」。そんな幸せな結末をもたらすインクルーシブなインフラの黎明期に、私たちは「ワンタッチ式固定装置」とともに立ち会っているのかもしれない。

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