S2000はあらゆる点が特別な1台

S2000はホンダ創業50周年を記念するクルマとして1999年に発売されたオープン2シーターだ。その魅力は9000rpmまで回る超高回転型エンジンと、レーシングカーのような鋭いハンドリングと言えるだろう。
搭載される2.0L 直列4気筒 F20C型エンジンのスペックは最高出力250ps/8300rpm、最大トルク218Nm/7500rpm。リッターあたりの出力は125psに達し、9000rpm時のピストンスピードは当時のF1エンジンをも凌ぐ。
極端な高回転化に耐えるために、鍛造ピストンや鍛造コンロッド、特殊鋼を用いた鍛造クランクシャフトが奢られるほか、オイル流量確保や動弁系のフリクションロスを低減する工夫が凝らされたF20Cは実質上、S2000専用エンジンだ。
エンジンヘッドに組み込まれた可変バルブリフト機構“VTEC”は5850rpmからハイプロファイルカムへと切り替わり、レブリミットの9000rpmまでよどみなく回る。その際に発せられる甲高いVTECサウンドは多くの人を虜にしたS2000の専売特許と言えるだろう。
S2000はこの超高回転型のハイレスポンスエンジンを6速MTで操る。この世代の6速MTと言えば自動車メーカーを問わずアイシン製を用いるのが通例となるなか、S2000の6速MTは驚くほどショートストロークかつ高精密に造り込まれたホンダの自社製だ。
そして、S2000はシャシー設計もパワートレインに負けないだけの魅力を備えている。エンジンは前車軸よりも後方へ配置した完全フロントミッドシップレイアウトであるうえ、前後フードをアルミ製とすることでオーバーハングの軽量化を徹底した。
サスペンションは、初代NSXにも採用されたアッパーアームとロワアームをホイール内側に収めたインホイールタイプのダブルウィッシュボーンを採用し、これによる足まわりの低全高化はS2000の一際低いボンネットラインにも寄与する。
一般的なオープンスポーツカーは、サイドシルを高くすることで剛性を稼ぐ手法が一般的だが、S2000ではセンタートンネルをメインフレームとして前後のサイドメンバーにつなぐ独自の“ハイXボーンフレーム構造”により、オープンカーらしからぬ高い剛性を備えながら乗降性も犠牲にしていない。なによりオープンボディは低重心化にも大きく貢献する。
市販車らしからぬS2000の鋭いハンドリングは、こうしたマス集中の徹底によって成り立っている。
S2000より速く乗りやすいスポーツカーは数多く存在するだろう。しかし、これほど特別感に溢れ、純粋に走りだけを追求したオープンスポーツカーは他に類を見ないと言っていいだろう。登場以来、S2000が神格化されている理由は、市販車の常識を覆す独創的なメカニズムの結果と言えるだろう。
中古車価格は走行距離20万kmオーバーでも200万円以上


1999年4月から2009年9月まで販売されたS2000は、排気量2.0LのAP1型と、排気量が2.2Lに拡大されたAP2型に大別され、中古車価格にも明確な差がある。
2005年11月のマイナーチェンジで登場したAP2型に搭載されたF22C型エンジンのスペックは242ps/7800rpm、221Nm/6500-7500rpmだ。レブリミットはF20C型から1000rpm引き下げられた8000rpmだが、低中回転域のトルク増強と足まわりのリセッティングにより扱いやすくなっている点が特徴だ。
AP1は比較的販売台数が多かったため市場の流通量は比較的多い。ただし、走行距離が20万km前後に達している過走行車であっても200万円以上の価格となっており、走行距離5万km以下の個体を探すとなれば400万円以上の予算が必要だ。
AP2は年式が新しいうえに、生産台数も少ないことから相場はさらに上がる。走行距離が10万km前後の車両でも300万円以上の値段がつけられ、5万kmを下回る極上車は500万円以上の高値で取り引きされている。
S2000は改良の度にサスペンションセッティングが見直されており、年式が新しくなるほど挙動がマイルドな方向へと調整されている。また、利便性や外観にも少しずつ変更が加えられている点も見逃せない。
2000年7月には、VGS(可変ギヤレシオステアリング)によってよりクイックなハンドリングを実現した“タイプV”を追加。2001年9月以降のモデルは、リヤウィンドウが耐久性の高いガラスへと変更されている。2003年10月のマイナーチェンジではホイールサイズが17インチ化され、それに伴うシャシーの最適化が行なわれた。
2005年11月には前述した通りAP2型へと移行し、2007年10月のマイナーチェンジでS2000初となる横滑り防止装置“VSA”を搭載。このタイミングで、専用フロントスポイラーと大型リヤスポイラーが特徴となるタイプSが追加された。
S2000らしい尖ったハンドリングを味わいたいのであれば最初期型が狙い目だ。より洗練された走りと安心感を求めるのであれば最終モデルを選ぶとよいだろう。しかし、最終モデルの価格は10万km超でも450万円以上、5万km以下は600万円以上と相応に高額だ。
超高額でも乗ってみたいと思わせるS2000の魔力

プレミア化した中古車価格により、S2000はおすすめの中古車とは言い難い。また、オープンカーであってもカジュアルな乗り方を許容するクルマではないため、万人におすすめできるクルマでもない。
リヤサスペンションのアライメントを非常に細かく調整できる構造になっている点も、S2000の特殊性を物語る。とくにAP1は、オーバーステアを許容する特性であるうえ、リヤサスのバンプステアもより強く働くセットアップになっている。
アライメント設定次第で挙動や安定性がまったく異なるものへと変化するため、性能を引き出すためには、しっかりと足まわりをセットアップできるショップとの付き合いが必須だ。こうした点だけを見ても、S2000は乗り手を選ぶクルマと言えるだろう。
最大の懸念点は部品の供給体制だ。すでにS2000は壊れると致命的な絶版パーツがいくつか存在している。
こうしたなか、ホンダは2026年4月から“ホンダヘリテージワークス”を始動した。現在の対象車種はNSXのみだが、メーカーが旧車の部品復刻や維持のサポートを強化している事実はS2000にとっても明るい話題だろう。また国内には、メーカー以外にもS2000に強い専門ショップが数多く存在する。
加えて、S2000の熱狂的なファンは世界中にいるため、海外から部品や情報を入手することもできる。手間と費用を惜しまない覚悟さえあれば、S2000を趣味車として維持していくことも不可能ではないだろう。
今後も中古車価格が下がることは考えにくく、むしろS2000の希少価値は高まる一方だ。憧れの名車を手に入れたいのであれば、今が好機と言えるかもしれない。
