期待と落胆……ブランニューマシンゆえのマイナートラブル

BRZ四駆ターボデビューはそう悪いものではなかった。期待と不安が入り混じるSS1においては、今、全日本ラリーでは別格の速さを見せる新井大耀選手(GRヤリスラリー2)に対して5秒以上の差をつけられたものの、そのほかのラリー2勢に対しては1秒~3秒差程度の差だった。特に前半のスプリットタイムではラリー2車両と同等のタイムを刻んでおり、ポテンシャルの一端を窺わせた。

一方で、左フロントのドライブシャフトが折れ、3WD走行を余儀なくされたことから、その後はタイム的には伸びなかった。加えて、謎のパワーダウンも発生。データロガーには表れていなかったが、インタークーラーのパイプにわずかな緩みがあったようだ。

BRZ四駆ターボのポテンシャルとラリー2車両との差
競技初日(会期2日目)を除けばその後は大きなトラブルは無かったものの、その後のタイムは伸び悩んだ。
もちろん、初実戦となった新車だけにある程度大事をとってのドライブであることは間違い無いのだが、一部でラリー2と伍したタイムを出しながらそこ以外では及ばなかった大きな理由として、エンジンが挙げられた。

ラリー2車両は完全なコンペティションマシンとして作られており、エンジンもレーシングエンジンだ。一方で、BRZ四駆ターボのエンジンはいくらチューニングしているとは言っても市販型のFA24がベース。排気量で言えばラリー2車両の1.6Lに対し2.4Lと約800ccも余裕があるように思われるが、ラリーにおいて排気量は絶対的なアドバンテージにはならないと新井敏弘選手は言う。

では何がBRZ四駆ターボとラリー2車両の差になっているかと言えば、それはエンジンレスポンスだと言う。ラリー2車両のコンペティションエンジンのレスポンスは市販ベースのFA24を大きく上回っており、アクセルのオンオフが多いセクションや上り勾配で特にその差が顕著だとか。一方で、全開区間が長かったり、傾斜の緩いセクションではその差が出にくいようだ。

好タイムを記録したSS1前半はその条件に当てはまり、加えて右に左に連続的なコーナーが続くセクションだっただけに、ハッチバックのGRヤリスやシュコダRSに対して低車高・低重心のBRZ四駆ターボのボディワークが生きた形となった。

コドライバーの安藤裕一選手もこのSSでのBRZ四駆ターボのフットワークの良さは美点として挙げていた。加えて、WRX S4に対して軽くなったことによるタイヤへの攻撃性の低下も挙げており、WRX S4時代からは確実にポテンシャルアップしているのは間違いない。

WRX S4時代はラリー2車両との差を埋めるためにモアパワーを求め、その代償として信頼性に問題を抱えることになった。BRZ四駆ターボでもさらなるエンジン性能の向上(特にレスポンス面)は望まれるところではあるが、車体側のポテンシャルを考えればWRX S4ほどにはエンジンに負担を強いなければならないことは無いだろう。

BRZ四駆ターボの可能性と期待
前述したとおり、BRZ四駆ターボはSS1前半のスプリットタイムにおいてはラリー2勢と伍したタイムを記録し、その可能性を示した。一方で、その後はマイナートラブルにより思うようにタイムを伸ばすことはできなかった。

テスト期間も短く熟成も不十分な状態でのデビュー戦だけに完走してデータや課題を持ち帰れたことは大きな成果だ。今回の実戦データをもとに課題を解決していけばBRZはさらに速くなるだろう。長らく遠ざかっているポディウム、あるいはその頂点も見えて来るかもしれない。

しかし、現状用意されているBRZ四駆ターボはこの個体1台のみ。スペシャルメイドのワンオフマシンだけに仕方のないところではあるが、この1台でテストして実戦を走らせて……というのは、いくらメンテナンスを重ねるとはいえマシンの負担も大きい。

まして、ライバルであるラリー2マシンは、シュコダ・ファビアRSにせよGRヤリス・ラリー2にせよ、すでにコンペティションで多くの実戦を重ねたマシンであり、蓄積・共有されるデータは膨大だ。そこにブランニューのワンオフマシンで対抗していくのは、BRZ四駆ターボのポテンシャルをもってしても容易ではないのは明らかだ。


モータースポーツ活動は常に予算とリソースの戦いでもある。ワンオフマシンであるBRZ四駆ターボがおいそれと作れるマシンではないのも間違いないだろう。とはいえ、テストと実戦を1台のマシンでやりくりしていては、名手・新井敏弘選手といえど実戦で思い切ったドライブも難しいかもしれない。クラッシュしてしまってはシーズンを棒に振る可能性もあり、その後の熟成もままならくなるからだ。

それでも、ラリー2勢との差を早急に埋めるにはテストを重ねて熟成を進める以外に道はない。となれば、もう1台(と言わず2台でも3台でも)BRZ四駆ターボを用意して、テスト用やスペアカーとして使いたいところ。

ラリー飛鳥で希望を見せたBRZ四駆ターボだけに、そのポテンシャルをいち早く開花、結実させるために、スバル/アライモータースポーツにはBRZ四駆ターボへのより一層の注力を大いに期待したい。

次戦は6月19日(金)〜21日(日)に愛媛県で開催される『久万高原ラリー』。ラリー飛鳥に続くターマックラウンドとなるので、デビュー戦で得た知見を活かすことができるのか?1ヶ月でどこまでマシンを進化させられるのか、気になる一戦だ。

ディーラーメカニックの奮闘
スバルのモータースポーツ活動といえば「ディーラーメカニック」の存在だ。古くはワークス参戦以前のサファリーラリーや、近年ではニュルブルクリンク24時間レースがその舞台となっている。

今回のラリー飛鳥にも全国のスバルディーラーから選りすぐられた精鋭メカニックがアライモータースポーツに合流し、普段とは異なるラリーチームのメカニックとして働いた。

とはいえ、モータースポーツのメカニックは専門性が高く、ましてほぼワンオフのBRZ四駆ターボでは普段の手がけるクルマとは勝手が全く異なってくる。それだけに作業はジャッキアップやタイヤ交換、クリーニングなどが中心となった。しかし、ラリーサービスは時間との戦いでもあり、普段以上の緊張感をもって作業することになる。それには工具の取り扱いや整理整頓の徹底など、メカニックとしての基本に立ち返る良い機会となったという。

また、今回選ばれた5名はいずれも異なる地域のディーラーに所属する。普段は他のエリアのディーラーメカニックが交流することはあまり無いが、整備情報や体制など情報交換の良い機会になったそうだ。

普段のディーラーでは体験することはできないモータースポーツ最前線の空気感と作業はメカニックとして確実に成長でき、また、メカニック同士の情報交換が所蔵ディーラーで共有されればディーラーのサービス体制の底上げにも繋がるだろう。

そして、メカニックにとっても「ディーラーメカとしてモータースポーツの最前線に行けるかもしれない」ということは、日々働き腕を磨くモチベーションにも繋がる。加えて、「モータースポーツ最前線を経験した精鋭メカがいる」という点もそのディーラーを利用するユーザーの顧客満足度にも繋がるかもしれない。
スバルにはモータースポーツ活動でこの素晴らしい取り組みをぜひ継続して欲しい。
フォトギャラリー:『ラリー飛鳥』のBRZ四駆ターボ
なお、ここまでの画像や、本文にはない画像はページトップの「この記事の画像をもっと見る(51枚)」で見ることができる。どのような車両が展示していたのか、また、当日の雰囲気を画像で楽しんでほしい。

