
愛知県豊田市のトヨタ本社に隣接する「トヨタ会館」が6月5日、リニューアルオープンした。1977年の開館以来、累計1700万人以上が訪れた同館だが、今回新設されたのは「トヨタのクルマづくり」をテーマにした2階の展示エリアだ。
展示の主役は新型車でも最新技術でもない。企画から開発、生産、物流までを含めた“クルマづくりそのもの”である。
内覧会で見えてきたのは、トヨタがいま次世代に伝えようとしているものだった。

「トヨタの今」を伝える場所
トヨタには複数の企業施設がある。
名古屋市のトヨタ産業技術記念館は創業の原点である繊維機械とモノづくりの歴史を伝える施設だ。長久手市のトヨタ博物館は、自社に限らず世界の自動車文化や歴史を紹介する。
ではトヨタ会館は何を伝える場所なのか。担当者はこう説明する。
「トヨタ会館はトヨタの今を伝える企業展示館です」
本社に隣接する立地を生かし、現在のトヨタがどんなクルマを作り、どんな考え方でモノづくりを行なっているのかを紹介するのが役割だという。
実際、1階には最新車両や未来のモビリティを紹介する展示が並び、2階には今回新設された「トヨタのクルマづくり」が配置される。






















「誰かのために」から始まるクルマづくり

展示は3つのゾーンで構成される。
「トヨタのクルマづくりの原点」
「もっといいクルマをつくろうよ(車両開発)」
「モノづくりの現場はさまざまなこだわりにあふれている(生産)」
最初のゾーンでは、豊田佐吉が「母を楽にしたい」という思いから発明に取り組んだエピソードを起点に、喜一郎による自動車事業への挑戦、そして現在へと続くトヨタの思想を映像で紹介する。
展示担当者によれば、今回の展示で最も伝えたいのは単なる生産工程ではなく、「誰かのために」という思いが受け継がれていることだという。


車両開発ゾーンでは5代目プリウスが題材に選ばれている。
トヨタの開発の特徴である主査(チーフエンジニア)制度を軸に、企画、デザイン、設計、生産準備、調達までがどのようにつながっているのかを紹介する。
興味深いのは、展示全体が「ワンチーム」をテーマに構成されていることだ。


天井には一本につながるLEDの光が配置されている。これは部門ごとのバトンリレーではなく、企画から生産までが一体となってクルマを作る姿を表現したものだという。
展示担当者は、5代目プリウスについてこう説明した。
「以前ならデザイン部門が提案した形状が、生産や設計の都合で変更されることもありました。しかし今回のプリウスでは、デザイナーが目指したデザインを実現するために、設計や生産側が工夫を重ねたのです」
会場には開発時に用いられた実物大のスタイリングモデルも展示される。
一般来場者が目にする機会はほとんどない貴重な展示だ。
工場見学の“リアル版”



生産ゾーンは、2023年から公開されている「トヨタバーチャル工場見学」のリアル版ともいえる内容になっている。
プレス、溶接、塗装、組立、検査、物流までの流れを実物展示と映像で紹介する。
特に目を引くのは実際に工場で使用されていた溶接ロボットだ。展示用の模型ではなく、現場で稼働していた本物を移設している。


また、クラウンセダンのボディカットモデルや部品分解展示も用意され、クルマが約3万点の部品によって構成されていることを視覚的に理解できる。
展示の冒頭では、トヨタが約6万社の協力会社とともにクルマづくりを行なっていることも紹介される。
ワイヤーハーネスを例に取り上げながら、「トヨタ1社だけではクルマは作れない」というメッセージを伝えている点も印象的だった。
クルマではなく「クルマづくり」を見せる理由


EVやSDV(ソフトウェア定義車両)が注目される現在、自動車メーカーの展示施設であれば、最新の電動化技術やAIを前面に出しても不思議ではない。
しかし今回のトヨタ会館が選んだテーマは違った。
そこにあったのは、主査制度であり、ワンチームでの開発であり、現地現物の考え方であり、そしてモノづくりの現場だった。
トヨタ会館は単なる企業PR施設ではない。



創業の原点から最新のプリウス開発、そして生産現場までをひとつのストーリーとして見せることで、「トヨタとはどんな会社なのか」を伝える場所へと進化していた。自動車業界が100年に一度の変革期と言われるなかで、トヨタが来場者に見せようとしているのは最新技術ではなく、それを生み出す人と組織、そしてモノづくりの仕組みだったというのが印象的だった。
展示内容は「小学5年生が興味をもって理解してもらえるレベル」を目指したというが、それ以上の中高生、大人まで楽しめるようになっている。来館者数はコロナ禍で落ちこんだものの、現在は増加傾向にあり年間約14万人となっている。海外からの来館者も多く最近ではインド、タイなどからの来館者が増えているという。
週末のドライブの目的地に、また夏休みで家族で出かける先にぜひお勧めしたい。

トヨタ会館
開館時間:9:30〜17:00
休館日:日曜、年末年始、ゴールデンウィーク、夏期連休等
※愛知県豊田市西部(愛知県西部、西三河北西部)に「特別警報」、「暴風警報」、「暴風雪警報」が発令された場合やお客様の安全や館の運営に支障があると判断される場合、臨時休館する場合がある。
入館料:無料
駐車場(無料):乗用車約800台、バス13台