サスペンションにもホンダの本気が見える

ホンダSuper-ONEは軽BEVのN-ONE e:をベースに軽自動車枠を取り払い、「走り」に振り切った硬派なモデルだ。走りのポテンシャルを引き出すために前後ともトレッドを50mm広げ、ワイドなタイヤを装着している。ベースのN-ONE e:は155/65R14サイズのタイヤを装着しているが、Super-ONEが履くのは185/55R15サイズだ。



N-ONE e:はできるだけ航続距離を伸ばしたい意図もあって転がり抵抗の小ささを重視したタイヤ(YOKOHAMA BluEarth)を選択し指定内圧を高め(前240kPa、後230kPa)に設定しているが、Super-ONEはYOKOHAMA ADVAN FLEVAを装着。ヨコハマブランドならNEOVAという選択肢もあるが、そこまでハイグリップなタイヤを履かせるとシャシーよりもタイヤが勝ってしまうという判断もあり、グリップを重視しながらも乗り心地や電費の面でネガ方向に大きくシフトしないバランス型のタイヤを選んだ。

走りを重視したコンセプトなのでタイヤをパンパンに張って電費を稼ぐ必要はなく(とはいえ、軽視しているわけではない)、指定内圧は前後210kPa。N-ONE e:に対して偏平率は低くなっているが、ワイド化しているためエアボリュームは増えており、そのおかげもあって乗り心地面への影響は抑えられているという。一充電走行距離はN-ONE e:の295kmに対して274kmで、約7%の低下に留めている。もっとも、航続距離の低下に目くじらを立てるようなたぐいのクルマではないが。

N-ONE e:の全幅は1475mm。走りのポテンシャルを引き出すべくワイド化したSuper-ONEの全幅は1575mmだ。片側50mmワイドになっている。車体骨格は基本的にはそのままで、外板部分の変更でワイド化に対処した。N-ONE e:に対してタイヤ外径が大きくなったことで前面衝突時にタイヤの車体側への侵入量が大きくなる。そのため骨格に補強パッチを当てて対処したという。


フロントサスペンションはロワーアームを新たに起こしてワイド化を実現した。ホイールインセットの変更でもワイド化は可能だが、その場合はキングピン軸とタイヤ接地面中心の距離を表すスクラブ半径(キングピンオフセット)が大きくなり、操縦性や安定性に悪影響を及ぼすことが考えられる。そこでロワーアームを長くしてスクラブ半径を適正値に設定した。
その際、ロワーアームの材質をスチール板金製からアルミ鍛造製に変更した。「単位重量あたりの剛性はアルミのほうが高い。多少お金はかかるが、そこはこだわりポイントとしてしっかりやった」と開発にあたった技術者は話す。合わせて、フロントのハブはフィット用を転用し剛性を向上。なんでもかんでも新規に起こすのではなく、手持ちのリソースを有効に使っていたずらにコストを掛けず、狙いを実現している。


トーションビーム式のリヤサスペンションは板厚を上げた。これは剛性と強度を高めるためでもあるが、「錆の観点もある」とのこと。Super-ONEは右ハンドルの国にも輸出する。欧州ではイギリス、東南アジアではタイ、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、オセアニアのオーストラリア、ニュージーランドが対象だ。とくにイギリスでは錆に対する要求が厳しく(融雪剤に含まれる塩化カルシウムによる影響が大きい)、強度・剛性を向上させるための板厚アップが錆対応にもなっているというわけ。
ちなみに、イギリスでは石畳路を走行した際の車内へのノイズの透過が課題として浮上したため、フロアに防音材を足したそう。国内専用モデルならこうした策は必要なく、海外に展開するモデルだからこその仕様変更が施されている。充電ポートも同様。国内仕様はCHAdeMO規格の急速充電ポートと普通充電ポートを備えるが、輸出仕様は急速充電と普通充電をひとつのポートで兼ねるCCS2を備えている。
Super-ONEのプレスインフォメーションにはリヤの接地点横剛性がガソリン車のN-ONE RSに対して約57%高まっていると記してあるが、N-ONE e:比ではそこまで高くなっていない。なぜなら、リヤアクスルビームの板厚アップは並行して開発していたN-ONE e:にも適用しているからだ(N-ONE e:の走りの良さに貢献していると考えられる)。Super-ONEはさらにトレッド拡大のためハブを厚くしていることもあり、N-ONE e:比で剛性は向上している。
モーターの出力アップで、ポテンシャルを解き放て


形式:MCF7型交流同期モーター
定格出力:39kW
最高出力:95ps(70kW)
最大トルク:162Nm
軽自動車規格のN-ONE e:が持つ走りのポテンシャルを解き放つべく打った、もうひとつの大きな手は、出力の向上だ。軽自動車は自主的に最高出力を47kWに規制しているが、登録車ならその縛りを気にする必要はない。Super-ONEはN-ONE e:の電動パワートレーンはそのままに、モーターにより多くの電流を流すことで70kWに最高出力を引き上げた(BOOSTモード選択時のみ)。
出力をアップすると発熱が大きくなるので、連続して高い出力を出し続けるためにも冷却性能を強化しなければならない。BOOSTモード選択時でもバッテリーを安定して冷却できるよう、Super-ONEはラジエーターに効率良く冷却風を送り込めるよう、専用のダクトを設けた。その開口部がフロントグリル左側に確認できる。熱に関しては真夏の関東より東南アジアの渋滞のほうが過酷だそうで、彼の地でしっかり性能を確認している。

今回は箱根を舞台にSuper-ONEの走りを味わった。センターラインがある道路であっても道幅はそこまで広くなく、常に曲がりくねっている。曲がりくねりながら、緩い勾配やキツい勾配が息つく間もなく現れる。有料道路の芦ノ湖スカイラインはいわゆる下道よりも開放感は増すが、道幅やカーブの曲率がタイトで勾配がきついことに変わりはない。
こうしたステージに臨むSuper-ONEは水を得た魚のようだ。BEVはエンジン車と違って急な上り勾配で加速したときにエンジン起因の苦しげなノイズを発しないし、70kWにパワーアップした効果と、BEVにしては軽い1090kgの車重もあって、軽々と加速する。バカッ速くはないが、充分に速い。取り回しやすいコンパクトなサイズもいい方向に作用し、箱根では無敵と言い切ってもいいくらいだ。アクセルを踏み切れるし、センターラインや路肩を気にせず振り回せる愉しさがある。






走りを能動的に楽しみたいシーンでは、疑似変速とシンクロした疑似エンジンサウンドが気分を盛り上げるBOOSTモードを選択するのがいい。没入感を高めるサウンドを実現するのに大きく貢献しているのが、BOSEプレミアムサウンドシステムだ。低回転時には後方から疑似排気音が大きく聞こえ、回転数が高まるにしたがって前方の疑似エンジン音が増大するようチューニングされている。

そのBOSEプレミアムサウンドシステム、もちろん、純粋に音楽を楽しむのにも適している。というか、むしろこっちのほうが本筋だ。筆者はふだん別のクルマでBOSEサウンドシステムの音を楽しんでいるが、メリハリの利いた良い音を響かせる世界観は共通しており、いつも聴いている音楽をSuper-ONEで流した際に「同じだ」と感じた。このクラスのクルマでBOSEのサウンドが楽しめるのも、間違いなく、このクルマの大きな魅力のひとつである。