ボンジョルノ!在イタリア・ジャーナリストの大矢アキオ ロレンツォです。
トリノ自動車博物館(MAUTO)では近年、段階的に常設展のリニューアルが進められています。そのひとつとして2025年11月、デザインをテーマにした展示室が設けられました。

イタリア自動車産業の中心地ならでは
「スパーツィオ・デザイン(Spazio Design デザインのスペース)」と名づけられた展示室は、2階部分の一角を割り当てるかたちで2025年11月に設けられました。順路の中では第15室の位置づけです。
2000平方メートルにおよぶ扇状の展示スペースには、自動車とプロダクトデザインの変遷が展開されています。
自動車部分はAUTO&DESIGN誌のシルヴィア・バルッファルディ Silvia Baruffaldi編集長が監修。発想を具体的なモデルへと転換していく過程、時代を追って変化してきた自動車スタイルの変化、さらには自動車から影響を受けてきた社会や技術の変化にも視線を向けています。
展示物には1954年「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・スプリント」と、その金属製車体製作前に詳細な詰めをすべくカロッツェリア・ベルトーネが製作した原寸大木型、1959年トリエンナーレ・ミラノにシトロエンが展示した「シトロエンDS」のオブジェも含まれます。いずれも改装前は別の展示室にあったものですが、今回このように集められたことで、デザイン史における各車の意義がより強調されました。


1966年「ランボルギーニ・ミウラ」、1980年初代「フィアット・パンダ」のいずれも開発初期段階における図面やスケッチは、イタリア自動車産業の中心地にふさわしいコレクションといえましょう。



壁面には自動車デザイン史における象徴的なモデルが時系列で紹介されています。その中にはアウディ時代の和田智による「シングルフレーム・グリル」のイメージスケッチや、トヨタ・プリウスも含まれています。

企画展用スペースも隣接
プロダクトデザインに関する展示は、トリエンナーレ・ミラノの協力を仰いだものです。アキッレ&ピエールジャコモ・カスティリオーニ兄弟による1957年「メッツァドロ」スツール、マルコ・ザヌーゾとリチャード・サッパーの1964年「アルゴル 11」テレビ、マリオ・ベリーニが手掛けた1968年「GA45ポップ」レコードプレイヤーや1973年「ディヴィスンマ28」計算機など、イタリア工業デザイン史を彩った名作が選ばれています。


常設展に続く形で、企画展用スペースも新たに設けられました。ここでは2025年11月から2026年4月12日まで「フェラーリ・デザイン:創造の旅 2010-2025 FERRARI DESIGN. CREATIVE JOURNEYS 2010-2025」 が催され、続いて2026年夏はケルン国際デザインスクールのパオロ・トゥミレッリPaolo Tumminelli教授による「12台の車 12 Automobili」が開催されています。


カーデザイナーのコーナーで考えること
ところでスパーツィオ・デザインの前身として、以前館内にはカーデザイナーを紹介する展示室がありました。そこではジョルジェット・ジウジアーロ、レオナルド・フィオラヴァンティをはじめ、イタリアで活躍するデザイナー数名が紹介されていました。いっぽう歴代のデザイナーは壁面に名前のみ年表形式で記されていました。
今回のスパーツィオ・デザインにおけるカーデザイナー紹介コーナーは、それを大幅に刷新。大きなバインダー式パネルを用いて、以前よりはるかに多くが略歴とともに紹介されています。年代、国籍も広がり、日本人では中村史郎や俣野努も取り上げられています。増補可能な仕組みですので、これからも随時アップデートが行われることでしょう。
従来展示でクローズアップされていた人々は、新たにディスプレイとヘッドフォンを通じてインタビュー動画を閲覧できるようになりました。

カーデザイナーのパネルを繰っていて気づくのは、彼らの略歴の多彩さです。たとえばフラミニオ・ベルトーニ(1903-1964)。彼はイタリア時代に学んだ彫刻家のアプローチをもってパリに渡り、「2CV」や「DS」に代表されるシトロエンの名作を生み出しました。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久所蔵品である「チシタリア202」を手がけたジョヴァンニ・サヴォヌッツィ(1911-1988)の職業人としてのスタートは、かつて存在したフィアット航空機製造Fiat Aviazioneでした。
ロドルフォ・ボネット(1929-1991)はジャズドラマーとして10年近く活躍したのち、レーシングドライバーだった父の勧めにより独学で自動車デザインを習得。ピニンファリーナを経てオリベッティなどと協業し、コンパッソ・ドーロも獲得しています。フィアット127のデザイン開発では早世の天才ピオ・マンズーと重要な役割を果たしました。

彼らの時代とは比較にならないほど高度化した今日の自動車開発環境では、デザイン教育機関における高度かつ体系的なカリキュラムが有効であることは明らかです。しかし、そうした一見「遠回り」ともみえるキャリアを辿った人々が名車を生み出した事実は、画一化されたデザイン教育システムに対する、ある種の疑問であるような気もしてくるのです。
カーデザインを仕事とする人、関心を抱く人、そして目指す人にとって、MAUTO訪問の意義は今回のスパーツィオ・デザイン開設によって一段と増したと言っていいでしょう。きっと時間を忘れて見入ってしまうはずです。
それでは皆さん、次回までアリヴェデルチ(ごきげんよう)!
Museo Nazionale dell’Automobile Torino
https://www.museoauto.com


