新型パジェロの元ネタなのか?

2025年のジャパンモビリティショーで三菱自動車が世界初公開したのが「MITSUBISHI ELEVANCE Concept(ミツビシ・エレバンス・コンセプト)」である。
三菱はELEVANCE Conceptを「電動クロスオーバーSUV」と位置づけ、そのデザインコンセプトに「Luxe Adventurer」を掲げた。

滑らかなカプセル状のキャビンと、それを包み込むような力強いボディ。大径22インチホイールに285/45R22という巨大なタイヤを履き、フロントには三菱のデザインアイデンティティである「ダイナミックシールド」を進化させた未来的なフェイスを持つ。
そして、その約10カ月後。2026年9月、三菱は新型パジェロを発表した。長く途絶えていた「PAJERO」の名が復活したのである。


となれば、「あのコンセプトカー、どうなった?」としては、ELEVANCE Conceptが新型パジェロになった──と結論づけたくなる。

だが、2台の写真を並べてみると、話はそんなに単純ではない。似ていないのである。
ELEVANCEと新型パジェロを並べてみると……

真正面から比較すると、ELEVANCE Conceptと新型パジェロは、ともにひと目で三菱車だとわかる。ところが、細部を見ていくと意外なほど共通点がない。
ELEVANCEは横方向に何本もの発光エレメントを重ね、それを縦方向のランプで挟み込む未来的なフロントフェイスを持つ。一方、新型パジェロは大型グリルを中心とした、もっと正統的で力強い顔つきだ。

リヤも違う。ELEVANCEは左右のランプを一本の水平ラインで結んだ非常にシンプルな構成なのに対して、パジェロは縦型テールランプと水平基調のガーニッシュを組み合わせる。

もっと違うのがプロポーションだ。
新型パジェロのボディサイズは
全長×全幅×全高:4920mm×1925mm×1910mm
ホイールベース:2870mm


ELEVANCE Conceptのボディサイズは非公表だが、285/45R22という既知のタイヤサイズ(計算上の外径約815mm)を物差しに真横写真から推測すると、全長は4600~4700mm程度、全高は1800mm前後、ホイールベースは3000mm強に見える。仮にこの推測が大きく外れていなければ、ELEVANCE Conceptは新型パジェロより全長が短いにもかかわらず、ホイールベースは長いことになる。
つまりELEVANCE Conceptは、ロングホイールベースに極端に短い前後オーバーハングの電動SUVらしいパッケージ。対して新型パジェロは、エンジンをフロントに搭載し、ラダーフレームを持つ本格オフローダーとしてのパッケージを採る。
ELEVANCEは大径タイヤを四隅に置き、その上にカプセルのようなキャビンを載せている。前後ウインドウは大きく傾き、サイドウインドウも大胆に広い。
対する新型パジェロは、ボンネット、キャビン、荷室を明確に感じさせるスクエアなシルエットだ。
タイヤもELEVANCEの285/45R22に対し、新型パジェロは255/55R20。
ELEVANCEの22インチから20インチへと単純に現実化した、といった関係でもなさそうだ。
つまり、ELEVANCE Conceptの外形を現実的に仕立て直して新型パジェロを作ったわけではない。
ここが、この2台の関係を考えるうえで重要だ。
ELEVANCEが登場したとき、パジェロはすでに存在していた?


もうひとつ重要なのが時間軸である。ELEVANCE Conceptが公開されたのは2025年10月。そして新型パジェロが発表されたのは2026年9月だ。
その間、わずか10カ月ほどしかない。
コンセプトカーと量産車の関係には、いくつかのパターンがある。コンセプトカーで新しいデザインを提示し、モーターショーなどで得られた反響を、その後開発する量産車へフィードバックするケースもある。
しかし、ELEVANCEと新型パジェロの場合は、おそらくそうではない。
量産車の一般的な開発スケジュールを考えれば、ELEVANCEがジャパンモビリティショーに姿を現した2025年秋の時点で、新型パジェロのデザインもすでに相当なところまで進んでいたと考えるのが自然だ。
つまり、
ELEVANCE Conceptを発表
↓
市場の反応を見る
↓
新型パジェロのデザインに反映
という順番ではなかったと考えるのが自然だ。
むしろELEVANCE Conceptと新型パジェロは、ある時期、三菱のデザイン部門の中で並行して存在していたのではないだろうか。
だとすると、2台の関係が俄然面白くなってくる。
ELEVANCEは新型パジェロのデザインを予告するためにつくられたコンセプトカーではなかった。すでに開発が進んでいた新型パジェロとは別に、三菱が考える「これからのSUV」を、量産車の制約から離れて自由に表現したクルマだったのではないか。
だから、ELEVANCEとパジェロは似ていない。
しかし、同じ時期に、同じデザイン部門が、同じ三菱ブランドの未来を考えながら生み出したクルマだからこそ、どこかに共通する空気を感じる。
「似せなかった」ことに意味がある?
そして、ここでデザイナーの存在が興味深くなってくる。
ELEVANCE Conceptのデザインを率いたのは、三菱自動車のデザイン本部長を務める渡辺誠二氏だ。
新型パジェロについても、発表会当日の取材では、表向きの担当デザイナーとは別に、渡辺氏がかなり深くデザインに関わっていたという。
つまり、2台のデザインを俯瞰して見ていた人物は同じなのである。だからこそ、この2台を並べたときの印象が面白い。


似ていない。でも、どこか似ている。
フロントマスクが同じわけではない。
サイドのキャラクターラインが同じでもない。
プロポーションも違う。


インテリアを並べても、ELEVANCEはダッシュボードいっぱいに広がるディスプレイや異形ステアリングを備えた未来的な空間なのに対し、新型パジェロは大型ディスプレイを使いながらも、ずっと現実的でタフなSUVのコックピットに仕立てられている。
それでも両方とも「三菱のSUV」に見える。
もしかすると、そこに渡辺氏の狙いがあったのではないだろうか。
共通しているのは「カタチ」ではなく「価値観」

ELEVANCE Conceptのデザインテーマは「Luxe Adventurer」。上質でありながら、どこへでも行ける冒険性を持ったSUVである。
一方、新型パジェロには、歴代パジェロから受け継ぐ本格クロスカントリー4WDとしての文脈がある。だから、パジェロをELEVANCEのような未来的なクロスオーバーSUVにすることはできない。
いや、するべきではなかったのだろう。

パジェロには、ひと目でパジェロだと感じられるスクエアなボディが必要だ。水平基調のシルエットが必要だ。歴代パジェロの伝統、そして、悪路を走破できる本物の道具としての説得力が必要である。
ELEVANCEにはその制約がない。
だから三菱が考える次世代SUVの姿を、もっと自由に表現できる。
つまり、
ELEVANCEは「未来の三菱SUVとは何か」を自由に表現したクルマ。
そして、
新型パジェロは「パジェロとは何か」という歴史を守りながら、未来の三菱SUVを表現したクルマ。
なのではないだろうか。
だからカタチは違う。しかし、目指している方向は同じなのである。
ELEVANCEは新型パジェロになったのか?
では「あのコンセプトカー、どうなった?」という、この連載恒例の問いに戻ろう。
ELEVANCE Conceptは新型パジェロになったのか?
答えは、
「ならなかった。でも、無関係でもなかった」ではないだろうか。
たとえば、MAZDA 雄(TAKERI)と3代目アテンザのように、コンセプトカーを量産可能な形へ落とし込んだ関係ではない。
Honda Urban EV ConceptとHonda eのように、コンセプトカーのデザインを驚くほど忠実に量産化した関係でもない。
ELEVANCEとパジェロは、同じ時代の三菱が考えていたSUVの未来を、別々の方法で表現した2台だったのではないか。
だから並べれば似ていない

しかし、しばらく眺めていると、どこか同じものを感じる。
ELEVANCEの285/45R22とパジェロの255/55R20。未来的なカプセルキャビンと、スクエアで直立したキャビン。全面ディスプレイのコックピットと、物理スイッチを残した現実的なインテリア。
具体的なカタチを比較すればするほど違うのに、クルマ全体から伝わってくる「タフで、上質で、冒険へ連れ出してくれそうな三菱のSUV」というキャラクターは不思議なほど近い。
そう考えると、ELEVANCE Conceptの役割が見えてくる。
それは「次期パジェロはこうなります」という予告ではなかった。
「これからの三菱のSUVは、こういう世界を目指します」という宣言だったのではないか。




そして、その宣言とほぼ同じ時期に、新型パジェロもまた現実の量産車として形になりつつあった。
ELEVANCEはパジェロにはならなかった。
しかし、新型パジェロを見たあとでもELEVANCEが不思議と古く見えないのは、そこに同じ時代の三菱デザインが考えていた「未来」が映っているからなのかもしれない。
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