メルセデスAMG「C 63」にV8エンジンが復活する――。現行モデルが2.0L直列4気筒へと大きく方向転換して以来、そんな噂が何度も浮上してきた。しかし、その期待は少なくとも現行世代では実現しないことになりそうだ。

メルセデス AMG C 63 S Coupé V8エンジン

メルセデス・ベンツは2026年8月、現行W206型Cクラスの大幅改良モデルを発表した。新しいライトシグネチャーやMB.OSの採用をはじめ、内外装からデジタル機能、パワートレインまで広範囲に手が入っている。メルセデス自身が「Cクラス史上最も包括的な技術アップグレード」と表現するほどの改良だ。 

一方、この段階でAMG C 63の改良モデルは公開されていない。そこで改めて注目されているのが、C 63のパワートレインである。

メルセデス AMG C63 Eパフォーマンス

現行「メルセデスAMG C 63 S E PERFORMANCE」は、先代までの4.0L V型8気筒ツインターボに代わり、2.0L直列4気筒ターボと電気モーターを組み合わせたPHEVを採用した。システム最高出力680ps、最大トルク1020Nmという強烈な性能を誇る。 

メルセデス AMG C63 Eパフォーマンス

しかし、歴代C 63とV8の結び付きは強く、4気筒化への反響も小さくなかった。そのため現行型の登場後も「大幅改良でV8が復活するのではないか」という観測がたびたび浮上。V8ではなく3.0L直列6気筒へ変更されるとの情報も流れてきた。

メルセデス AMG C63 2008

現在有力視されているのは後者だ。現行4気筒C 63がラインアップから退き、代わって3.0L直列6気筒を搭載する「C 53」が登場するとの見方が強まっている。ただし、C 53がC 63の直接的な後継車になることまで正式発表されたわけではない。

そして、V8復活説をほぼ打ち消す発言がメルセデス側から出てきた。

実はAMGは、新世代の4.0L V8ツインターボを用意している。フラットプレーンクランクを採用し、Euro 7にも対応する新しいV8で、今後CLEなどの高性能モデルへの搭載が見込まれている。つまり、AMGがV8そのものを諦めたわけではない。 

それでも、現行Cクラスには載せないというのだ。

メルセデスの製品管理・グローバルトレーニング責任者、クラウス・レークーグラー氏は、現行Cクラスへの新型V8搭載について否定的な見方を示している。

理由は排出ガス規制でも、技術的な問題でもない。最大の壁となるのは「時間」と「コスト」である。

現行W206型Cクラスは2021年に登場し、2026年には大幅改良を迎えた。ここからV8を追加するとなれば、単純にエンジンを載せ替えるだけでは済まない。冷却系や車体、電子制御などへの対応に加え、各市場での認証も必要となる。

レークーグラー氏は、現行Cクラスに残されたライフサイクルを考えた場合、V8化に必要な投資を回収できるかという問いに対し、その答えは「おそらく、NO」と説明している。北米、オーストラリア、日本、中国、韓国などでV8のC 63が人気を集めてきたことを認めながらも、ビジネスとして成立させるには遅すぎるという判断なのだ。

ただし、「C 63+V8」という組み合わせが永久に消えると決まったわけではない。
今回否定的な見方が示されたのは、あくまで現行W206世代への搭載である。次世代Cクラスへの新型V8搭載については否定されておらず、さらにAMGの新世代V8は今後10年程度存続できるとの見通しも示されている。 

現行C 63の4気筒PHEVは退役へ向かい、その穴を直列6気筒のC 53が埋める可能性が高まった。一方で、待望の新型V8は別のAMGへ投入されていくことになる。

V8はある。しかし、現行C 63には載せない――。長くささやかれてきた「現行C 63へのV8復活」は、これで事実上消滅したといえそうだ。次に焦点となるのは、次世代Cクラスで「C 63」とV8が再び結び付くのかである。

メルセデス AMG C 63 S Coupé V8エンジン