連載
クルマ名付け学PORSCHE 911 TARGA
「タルガ」の意味はイタリア語の「盾」

「ポルシェ 911」のラインアップで、クーペやカブリオレとは異なる個性を持つ「タルガ」。幅広のBピラーと、その後方を包み込むリヤウインドウが印象的なオープンモデルである。その名称は、ポルシェが数々の勝利を収めたイタリアの公道レース「タルガ フローリオ」に由来する。
「タルガ(Targa)」はイタリア語で、盾やプレートなどを意味する。ポルシェは、英語の「plaque(銘板)」や「plate(プレート)」に相当する言葉と説明しており、ナンバープレートという意味も紹介している。
車名の直接の由来となった「タルガ フローリオ」は、1906年に自動車愛好家のヴィンチェンツォ・フローリオが創設したレースである。舞台は、イタリアのシチリア島にあるマドニエ山地。山間の一般道を使い、急カーブや村々を通り抜ける過酷なコースで競われた。
フローリオは賞として銀製の盾を提供した。この盾を指す「タルガ」と、創設者の姓である「フローリオ」が、レースの名称に結び付いている。911タルガの名をさかのぼると、その出発点にはレースの栄誉をたたえる盾があるのだ。
なぜタルガ フローリオから名付けたのか

タルガ フローリオは、ポルシェにとって特別なレースだった。1956年、ウンベルト・マリオーリが駆る「550 A スパイダー」が総合優勝。これはポルシェにとって、スポーツカー世界選手権における初の総合優勝である。その後も勝利を重ね、1973年までにメーカー最多となる11回の総合優勝を果たした。これはタルガ フローリオにおけるメーカー最多勝の記録である。
新しいオープンモデルの名前を考える際、ポルシェは自社が活躍したレースに着目した。メキシコの「カレラ・パナメリカーナ」にちなんだ「カレラ」と同様に、モータースポーツでの実績を車名に込めようとしたのである。その候補として浮かんだのが、シチリアのタルガ フローリオだった。
一時は「911 フローリ(Flori)」という案も検討されていた。それに対して当時のドイツ国内販売責任者、ハラルド・ワーグナーが「単にタルガと呼んではどうか」と提案し、名称が決まったという。
911タルガは、安全性を考えたオープンモデルとして誕生



レースに由来する名を与えられた911 タルガは、1965年9月のフランクフルトモーターショーで発表された。誕生の背景にあったのは、重要な市場である米国でオープンカーの安全性を問う声が高まっていたことだった。
安全性と開放感を両立するためにポルシェが採用したのは、前席の後ろに固定式のロールバーを残し、その前方にあるルーフを取り外せる構造である。ロールバーは横転時の乗員保護を考慮したもので、ステンレスの外装をまとった幅広のBピラーがタルガ独自のスタイルも生み出した。
当時のモデルはリヤウインドウも折り畳めるプラスチック製で、ルーフとリヤウインドウの開閉を組み合わせ、異なる開放感を楽しめた。ポルシェはこの構造を「セーフティ カブリオレ」として打ち出した。
レースに由来する「タルガ」という名だが、その言葉が持つ「盾」という意味は、乗員保護を重視したクルマの成り立ちにも通じるように感じられる。
形を変えながら受け継がれる「タルガ」




タルガは911の歴代モデルに受け継がれてきたが、そのルーフ構造は一定ではない。1995年に登場した第4世代「993型」のタルガでは、従来の横方向の幅広いバーに代わり、電動開閉のガラスルーフを採用。クーペに近いシルエットを持つモデルへと変化し、993型から996型、997型まで3世代にわたって受け継がれた。
そして2014年、第7世代の991型で特徴的なタルガバーが復活する。初代を思わせる外観に、自動で開閉して後席の後方に格納されるルーフ機構を組み合わせ、伝統的なスタイルを現代の技術で再構成した。
ポルシェ 911 タルガは、オープンドライブの楽しさと安全性を両立しようとする工夫から生まれた。その独自の姿に刻まれた「タルガ」の文字は、シチリアの山道で積み重ねたポルシェの勝利を、今に伝えている。
