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デザイン推しで市場を活性化させた「ヴィットピレン401」「スヴァルトピレン401」
いま400ccカテゴリーは、日本でもっとも注目を集めているカテゴリーだ。そこにブーム到来前の2018年から参入し、シーンを牽引してきた立役者の一人がハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下ハスクバーナMC)であり、彼らがラインナップするカフェスタイルの「ヴィットピレン401」と、スクランブラースタイルの「スヴァルトピレン401」だ。ユニークなのは、その手法。デザインとパフォーマンスのアプローチだ。
2018年と言えば、二輪市場はネオクラシックブームに沸いていた。401シリーズが市場投入されたタイミングだけ見るとトレンドを後追いしているように見えるが、じつは2014年のEICMA(ミラノ国際モーターサイクルショー)で、ハスクバーナMCはコンセプトモデルとして「ヴィットピレン401」を発表。当時ネオクラシック・ブーム到来の種火は欧州市場に存在していたが、それとは種が異なる、ウルトラモダンなデザインな外装デザインと、すでに中間排気量カテゴリーを強く意識した、KTM 390DUKEのプラットフォームを採用していた。驚いたのは、そのコンセプトモデルと市販モデルにデザイン的な差はほとんど無く、オフロードブランドとして名を馳せたハスクバーナMCが、総合バイクブランドへと変貌を遂げる狼煙として、デザインコンシャスなロードスポーツモデルを使用したことだ。
しかしこの英断は功を奏し、のちに続く701シリーズやアドベンチャーの901シリーズも含めてライバルブランドと一線を画す高いデザイン性を持ち、ハスクバーナMCの存在感を高めている。
その“デザインのハスクバーナMC”たる立役者の「ヴィットピレン401」「スヴァルトピレン401」がフルモデルチェンジを受け、2024年モデルとして新たにラインナップされた。その変更は多岐に渡り、デザインはもちろん、エンジンやフレーム、サスペンションと言ったメカニカルなパフォーマンス、電子制御技術、さらにはユーザーインターフェイスにおいても進化を果たしている。
パワフルかつフレンドリーに
大きな変化は、とくに「ヴィットピレン401」にあった。旧ヴィットピレンは、セパレートハンドルを採用し、低いステアリングヘッド位置と腰高なシート高によって構成されるライディングポジションは過激で、まさにカフェレーサーなモデルであった。しかし新型はバーハンドルを採用し、ロードスターモデルへと変貌を遂げている。スクランブラースタイルの兄弟モデル「スヴァルトピレン401」は引き続きアップハンドルを採用。「ヴィットピレン401」とのポジション差は拳1〜半個分だけとなり、ライディングポジションの差はほとんど感じられず、その差によって生まれるハンドリングの差もごくわずかとなった。
20%ほどボリュームアップした外装デザインやレイアウトを変更した鋼管トレリスフレーム、さらにはレイアウトを大きく変更した鋼管トレリス構造のリアフレームによって、新型401シリーズに跨がったときの印象は、旧シリーズと大きく異なる。足つき性が良く、ライディングポジションも身体に触れる部分も、すべてがフレンドリーなのだ。
しかしそのフレンドリーさは、単に足つき性が向上したり、シート周りの居住性が良くなったり、アップハンドルによって上体が起きライディングポジションが楽になったりしたことだけで生まれるものではない。このフレンドリーさの奥には、バイクとライダーのシンクロ率というか一体感の向上があり、それによってライダーがより積極的に車体をコントロールできることによる安心感によってももたらされている。
今回の試乗コースは、高速道路から高速のワインディング、そして葛籠折れの峠道までバラエティに富み、しかも春真っ只中であったにもかかわらず気温が低く、路面状況も悪かった。そんな過酷なコンディションであったが、新しい401シリーズはよく走った。いや、ライダーをしっかりとサポートしてくれた、という表現の方が良いだろう。そう感じられたのは、車体とライダーの一体感が得られたことで、安心してバイクをコントロールできたからだ。
その一体感をもたらす主たる要因が、新しいフレーム/新しいアルミスイングアーム/新しいリアフレームで構成される車体回り、そしてよく動くWP製の前後サスペンションだ。前後ともにサスペンションストローク量をたっぷりと使い、乗り心地の良さと、奥での踏ん張りをしっかりと造り込んでいる印象。フロントは圧側/伸側ともに5段階で減衰力を調整できるが、その変化量が分かりやすく、自分好みのセッティングも探しやすい。この5段階という調整範囲も、ハスクバーナMCが狙って造り込んでいる。
「スヴァルトピレン401」と「ヴィットピレン401」の、ライディングポジションによるハンドリングに違いはわずかだと先に書いたが、前後ホイールとタイヤの違いによるハンドリングの差はハッキリと感じることができる。5kgという両車の車重差は、このホイール周りの違いが大きな割合を占めるだろう。しかしテスト中にフロントフォークの減衰力を調整したことで、違いから来る違和感を解消することが出来た。
エンジンは相変わらずの高回転型で、それはとにかく速くて楽しい。排気量を拡大し、フューエルインジェクション周りやシリンダーヘッド周り、そしてミッション周りを大幅にアップデートしたエンジンはパワフルで扱いやすい。単気筒エンジンという言葉から想像する出力特性とは違うため、スタート時こそエンジン回転数をやや高めにキープする必要があるが、逆に5000rpm以上は単気筒エンジンのイメージを良い意味で大きく覆す伸びやかさとパンチ力で、車体をグングンと前に押し出していく。自分は回転計のシフトライトが黄色く点滅し始める8500rpmから、シフトライトが点滅から点灯に変わる1万回転手前まで、イージーシフト(クイックシフター)を駆使してエンジン回転をキープさせることで、ハイペースでワインディングを楽しむことが出来たが、より身体の大きな外国人ジャーナリストはレッドゾーンの1万1000rpmまでエンジンを回していたようだ。ここまで回る、そしてその高回転域でパワフルな単気筒エンジンは、なかなか存在しない。
冒頭に記した、日本での400ccカテゴリーの人気再燃は、欧州二輪車メーカーと、巨大な二輪市場とそこでしのぎを削るインド二輪車メーカーが、高い経済成長率を誇るインド経済の中で、価格的競争力とブランドバリューを高めた新型二輪車を共同で開発し販売。そこでシェア拡大を図りながら、インド同様に経済成長が見込まれる周辺新興国にもその影響力を広めるために再編されたモデル群による副産物だ。日本や欧州/北米などの二輪車先進国では、それら中間排気量モデルは価格的にも性能的にも商品力が高く、若者のバイク離れや既存ユーザーの高齢化など共通の問題を抱える二輪車先進国において、市場を活性化するエナジードリンク的役割を果たしている。
ハスクバーナMCは、KTMとともに、早くからインド企業と協業し、デザインとパフォーマンスにおいて独自の進化をとげてきた。新型「ヴィットピレン401」と「スヴァルトピレン401」は、欧州ブランドおよびインドブランドが造り上げた新しいトレンドを意識してユーザーフレンドリーな領域をグッと広げたものの、ハスクバーナMCらしい“尖った”部分をうまく残してきた。このバランス感覚は、さすがである。
ライディングポジション&足つき性(170cm/65kg)
シート高は旧401シリーズから15mm低い820mm。ステップ位置、シート高およびシート形状は両モデルともほとんど同じである。異なるのはハンドル形状。両モデルともアップハンドル仕様となったが「ヴィットピレン401(写真上)」は、「スヴァルトピレン401(写真下)」に比べ、拳1個〜半個分グリップ位置が低い。両車のポジション的違いは、ごくわずかである。両車ともにごく自然なライディングポジションで、シート高が低くなったことよりも、車体とライダーの一体感が高まったことで、安心感が増している
ディテール解説
「ヴィットピレン401」「スヴァルトピレン401」主要諸元
■ホイールベース 1368mm(+/-15.5 mm)■シート高 820 mm■車両重量 Vitpilen 401/ 154.5㎏・Svartpilen401/159㎏■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒■総排気量 398.6㏄■ボア×ストローク 89.0×64.0 mm■圧縮比 12.6:1■最高出力 33kW(45hp)/8500rpm■最大トルク 39Nm/7000rpm■燃料供給方式 FI■燃料タンク容量 13L■レイク角 66度■フォークオフセット量 32mm■トレール 95mm■フレーム スティールトレリスフレーム■サスペンション(前・後)WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/150mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整&150mmトラベル■変速機形式 6速リターン■ブレーキ形式(前・後)320mmシングルディスク×4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ツインピストンキャリパー■タイヤサイズ(前・後)110/70-R17・150/60-R17■タイヤブランド Vitpilen 401/ ミシュラン製パワー6・Svartpilen401/ピレリ製スコーピオンラリーSTR■価格 799,000円(税込)