【KTM・990DUKE海外試乗記】エンジン、車体、外装まで全面刷新の結果は?

ダカールラリーでの18連覇MotoGP参戦など世界的トップカテゴリーでのレースでも大きな存在感を示しているKTMがスローガンとして掲げる「Ready to Race」をカタチにしたような過激なストリートファイターがDUKEシリーズだ。2024年はDUKEシリーズ誕生30周年に際し全ラインナップを一新。スペインで開催された国際試乗会から新型「990DUKE」をレポートする。
KTM・990DUKE/ライダー:ケニー佐川氏

マシン解説

KTM・990DUKE
KTM・990DUKE
KTM・990DUKE
KTM・990DUKE
KTM・990DUKE
KTM・990DUKE

正真正銘の完全フルチェンジ

990DUKEの直接的なルーツは2018年に登場した790DUKEである。単気筒エンジンだった従来の690DUKEに代わる新たなミドルネイキッドとして誕生した。一番の特徴はLC8cと呼ばれるKTM初の並列2気筒エンジンを搭載していたこと。フラッグシップの1290スーパーデュークRが採用するVツインエンジンはパワフルだが大きく重い。その弱点を解決すべく、Vバンクを閉じてシリンダーを横に並べてしてコンパクト化し、クランク角を75度位相させることで75度Vツインと同様の鼓動感とトラクションの良さを併せ持った新世代ユニットだった。その後890DUKE/Rへのアップグレードを経て、最新版の990DUKEへと進化した。
今回注目したいのは完全なフルモデルチェンジということ。エンジンや車体、外装など実に96%のコンポーネンツが新設計という、まさに別モノのマシンとして作り直されているのだ。エンジンは従来の890DUKEから排気量を58cc増やして947ccに。最高出力も7psアップの123psへと上乗せされた。他のDUKEシリーズが採用するトレリスタイプとは異なる独自のスチール製チューブラーフレームも剛性を強化し、スイングアームは逆に剛性を落としつつ軽量化することでコーナーでの旋回力を高めている。また、足まわりにも新型WP製サスペンションと軽量化されたダブルディスクブレーキを装備。ディメンションも最適化して運動性能を向上させるなど全面的にリファインされている。3種類のライドモード(レイン、ストリート、スポーツ)やコーナリング対応のABS&トラコンも標準装備されて安全面も万全だ。さらに進入スライドを容易にするスーパーモトABSや、俊敏なスタートダッシュを決めるためのウイリーコントロールやローンチコントロールなどレース由来のデバイスも搭載。オプションで2種類のオプションモード(パフォーマンス、トラック)やクイックシフターも用意されるなど、さらなる高みを求めるユーザーにもKTMらしいアグレッシブさで応えている。

アグレッシブは磨かれ扱いやすくなった

KTM・990DUKE
KTM・990DUKE
KTM・990DUKE

デザインは従来の890と比べてもよりスマートで現代的に、見た目の雰囲気も新型フラッグシップの1390スーパーデュークRに近くなりシリーズ全体としての統一感が増した感じだ。シート高は825㎜と従来型+5㎜となったが、跨ると同時に沈み込むWP製前サスペンションとスリムな車体のおかげで足着きも良い。ハンドルも高めで高くリラックスできるライポジだ。

エンジン回転はスムーズで振動も少ない。排気量は増したがサウンドは控えめで、回転を上げなければ静かなほどである。もちろん、アクセルを開ければカタパルトで弾き出されるように瞬間加速するが、タガが外れるほどではないのが1390との違いかも。その意味では手の内感はより濃厚だ。エンジン自体もスーパーデュークR系のVツインに比べると明らかにコンパクトで、走り出して最初の角を曲がるだけで動的にも軽いことが分かる。ビッグバイクにありがちな、車体センター部分のずっしりとしたマス(重量)を感じさせず、フワッとした独特の軽さがあるのだ。心地よいパルス感を伴った瞬発力のある中速トルクに乗せて、タイトな峠道でも右に左にひらひらと身を翻していく。剛性を増したフレームと柔らかいスイングアームの合わせ技と思うが、車体にカチッとした安定感がありながら、荷重を掛けなくても速度に関わらずよく曲がってくれるのだ。この抜群の自在感が990の持ち味だろう。

試乗日は運悪く冷たい雨だったが、軽量化された足まわりのよるバネ下効果でブレーキもコントロールしやすく、しなやかなWPサスペンションと標準装着タイヤのS22の鮮明な接地感のおかげで安心して走ることができた。3種類のライドモード(特にレインモード)やコーナリング対応のABS&トラコンも標準装備されるなど、安全面でのサポートも心の支えになっていることは言うまでもない。
また、初代790から伝統のリラックスしたライポジと、足の長いしっとりしたストローク感を生かした快適な乗り心地も健在。排気量アップとともにパワーも上乗せされ高速クルーズでもゆとりが増したし、タンク容量が0.8L増えて満タンで300km以上走れるのも心強い。但しある程度以上の速度レンジでは正直なところスクリーンが欲しくなった。ともあれ、990DUKEは持ち前のアグレッシブさを幅広いライダーがより扱いやすく引き出せるようにした。街乗りからツーリング、スポーツライドまで広範に楽しめるバランスに優れた一台だと思う。

ディテール解説

従来のDUKEイメージとはまったく異なるフェイス。プロジェクタータイプの縦2灯LEDヘッドライトの周りにポジション&DRLを配置するなど一段とアグレッシブな印象に。
水冷並列2気筒エンジン「LC8c」のcはコンパクトの意味で横から見ると単気筒並みのスリムさ。990ではボア・ストをともに広げて排気量947ccまで拡大。ピストン、クランク、カムなどほぼ全てのパーツを新作し最高出力も890DUKEから2psアップの123psへ。
メインフレームは他のDUKEシリーズとは異なるシンプルな鋼管チューブラータイプに、エアボックス内蔵の軽量なアルミ鋳造サブフレームを組み合わせる。メインフレームは側面剛性で8%、ねじり剛性で5%向上、逆にスイングアームの剛性は35%落としている。
フロントブレーキはφ300mmダブルディスク+4Pラジアルマウントキャリパー&マスターシリンダーの盤石な組み合わせ。新たなディスクマウント方式により左右で1kg軽量化されている。
マフラーは従来のアップタイプを改めオーソドックスなスタイルに。スイングアームも通常のボックスタイプとして剛性バランスの最適化と1.5kgの軽量化が図られている。
WP製φ43mmAPEX倒立フォークは左右独立式ダンパータイプ(左が圧側、右が伸側)で簡単に調整(それぞれ5クリック)できる。工具無しに素早いセッティングが可能だ。
リアショックもWP製ダイレクトマウント式の調整式モノサスを採用。5クリックで伸び側ダンパー調整ができる他、マニュアルでプリロード調整も可能。
シート高825㎜と従来の890より5㎜アップだが、座面がフラットかつ前側が絞り込まれたスーパースポーツタイプとなり、ホールド性とライポジの自由度も向上した。
スイッチギアも人間工学的に最適化された新デザインを採用。従来タイプに比べて指先の感覚だけで操作しやすくなっている。
フルカラー5インチ接着ガラスタイプのTFTディスプレイ。ライドモードをはじめとする各種機能のセッティングが可能な新デザインのグラフィックが採用された。デバイス充電用のUSB-C接続も可能。

主要諸元

エンジン
トルク:103 Nm
トランスミッション:6速
バッテリー容量:10 Ah
冷却:水/油冷式熱交換器
KW出力:90.5 kW
スターター:セルスターター
ストローク:70.4 mm
ボア:92.5 mm
クラッチ:PASC™ アンチホッピングクラッチ、機械操作式
CO2 EMISSIONS:110 g/km
圧縮比:13.5
排気量:947 cm³
EMS:Bosch製 EMS ライドバイワイヤー
デザイン:2シリンダー、4ストローク、並列二気筒
消費燃料:4.7 l/100 km
燃料混合生成:DKK Dellorto(スロットルボディ 46 mm)
潤滑:2ポンプ式オイル圧送潤滑

シャシー
重量 (燃料なし):179 kg
燃料タンク容量 (約):14.8 l
ホイールベース:1476 mm
ABS:Bosch 9.3 MP Two Channel (Supermoto ABS)
フロントブレーキディスク径:300 mm
リアブレーキディスク径:240 mm
フロントブレーキ:2x ラジアルマウント4ピストンキャリパー
リアブレーキ:1ピストンフローティングキャリパー、ブレーキディスク
チェーン:520 X-Ring
フレームデザイン:圧縮パーツであるエンジンを用いたクロムモリブデン鋼製フレーム、パウダーコーティング
フロントサスペンション:WP APEX 43
最低地上高:195 mm
ハンドルバー:アルミニウム、テーパー形状 Ø 28/22 mm
リアサスペンション:WP APEX - Monoshock
シート高:825 mm
サイレンサー:ステンレススチール製一次および二次サイレンサー
キャスター角:65.8°
リアサブフレームデザイン:アルミニウム製。パウダーコート塗装
サスペンションストローク (フロント):140 mm
サスペンションストローク (リア):150 mm
ホイール:アルミニウム製キャストホイール

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ケニー佐川