変速機構におけるHY戦争勃発! Y-AMTとEクラッチは何が違い、そしてどちらが楽しいのか。

今年7月、ヤマハは新技術である自動変速機構「Y-AMT」を発表。それを最初に搭載した「MT-09 Y-AMT」が9月30日にリリースされる。クラッチの自動制御という点では、今年6月にホンダが「CB650R Eクラッチ」と「CBR650R Eクラッチ」を発売したほか、BMWモトラッドがASAを発表するなど、ここへ来て変速機構の自動化が活気付いた感がある。Y-AMTとEクラッチの両方を試乗した筆者が、実際のフィーリングの違いについてお伝えしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

Y-AMT初採用車として選ばれたのは、最新の4代目MT-09だ

2024年9月30日発売のヤマハ・MT-09 Y-AMT。スマートキーも採用し、価格はSTDの11万円プラスとなる136万4000円。なお、今のところ上位バージョンの「SP」にY-AMTのタイプ設定はない。
筆者は今年7月にSTDの4代目MT-09に試乗している。インプレッション記事はこちら

Y-AMT(ヤマハ・オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)は、かつてヤマハがFJR1300ASに搭載していたYCC-S(ヤマハ・チップ・コントロールド・シフト)の発展版と言える。FJR1300ASが発売されたのは2006年で、2013年には同モデルに電子制御スロットルを加えることでシフトプログラムの緻密さを向上。そして、このYCC-Sの技術はROV(レクレーショナル・オフロード・ビークル)の分野にも展開され、そちらではFJR1300ASにはなかったATモードが導入されている。Y-AMTは、従来からのYCC-Sの技術とROVで培ったATモードに、QSS(クイックシフトシステム)の進化を加えたもので、クラッチレバーとシフトペダルは存在しない。

なお、ホンダが2輪用のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の技術を発表したのは2008年で、2010年に発売されたVFR1200Fがこれを最初に採用している。DCTはYCC-Sと同様にクラッチレバーとシフトペダルがなく、今では数多くの機種に導入されているのは皆さんご存じのとおりだ。

シフトとクラッチの両アクチュエーターはシリンダーの背面にレイアウト。

エンジンの変速機構は基本的に変わらず、そこにシフトアクチュエーターとクラッチアクチュエーター、そしてMCU(アクチュエーターを制御するモーターコントロールユニット)を加えたものがY-AMTの基本となる構成だ。二つのアクチュエーターはシリンダーの後方に配置されるため、エンジンの全幅はほとんど変わらず、またユニットの重量は約2.8kgしかないので、ハンドリングへの影響も最小限に抑えられる。

変速時間を短縮するため、シフトロッド内にはスプリングが挿入される。

FJR1300ASに搭載されていたYCC-Sは、クラッチ操作のみを不要とし、シフト操作はライダーが行うシステムだった。その点ではホンダのEクラッチと同様だが、YCC-Sにはすでにシフトアクチュエーターが組み込まれており、シフトペダルスイッチもしくはハンドシフトスイッチの電気信号によってシフト系への作動指示を行っていたのだ。

Y-AMTはここに、自動でギヤシフトを行うオートマチックトランスミッション(AT)モードを加えた。ちなみにYCC-Sを発表した際、ヤマハは「ライダーが積極的にシフト操作を楽しめるように、あえて自動シフトアップ&ダウンの機能は織り込まなかった」とコメントしており、ここに少なからずY-AMTとの矛盾を感じるのだが、これも時代の流れなのかもしれない。

なお、筆者は2020年にFJR1300ASに試乗しており、当時のインプレッション記事を読み返すと、「シフトペダルはあくまでのスイッチの役割でしかなく、操作感は希薄」とある。ちなみにホンダのDCTにも純正アクセサリーでDCTシフトペダルが用意されており、筆者は試したことがないのだが、おそらく感触としてはFJR1300ASに近いであろうと推察する。

発進加速、そして減速からの停止は極めてスムーズ

MT-09 Y-AMTのプレス向け試乗会は、袖ケ浦フォレスト・レースウェイで開催された。現地にはMT-09のSTDモデルとSP仕様も用意されており、よりY-AMTの効果をじっくりと体感することができた。

左がY-AMTで、クラッチレバーはなく、下方に「-」のシフトレバーが確認できる。

Y-AMTには、左側スイッチボックスにあるシーソー式シフトレバーで任意にギヤを変速する「MTモード」と、変速を自動化する「ATモード」の二つを備えている。この切り替えボタンは右側スイッチボックス前方に備えられている。

MTモードでは、エンジンの特性を「レイン」、「ストリート」、「スポーツ」、「カスタム1」、「カスタム2」の計5種類から選ぶことができる。一方、ATモードについては二つのシフトプログラムが用意されており、「D」は穏やか、「D+」はレスポンスの良い加減速が楽しめる設定となっている。なお、ATモードにおいてもシフトレバーによる変速介入が可能だ。

最初に試乗したのはY-AMT仕様だ。まずはブレーキレバーを握りながらエンジンを始動し、左側にあるシフトレバーを操作して1速に入れる。クラッチレバーのないバイクはDCTやYCC-Sで経験済みだが、頭で理解していても左手と左足が自然と動いてしまうのは昭和生まれライダーの性だろうか。

穏やかなシフトプログラムの「D」モードであることを確認。スロットルをゆっくり開けると、1,800rpmをキープしながらスルスルと動き始める。クラッチミートは実にスムーズであり、不快な振動は一切なし。そして、3,000rpmに達する手前で「タンッ」というショックが足元から伝わり、シフトインジケーターが2速、そして3速へと切り替わった。シフトアクチュエーターの作動によるものなのか、変速時に少しのショックと音がライダーに伝わるが、加速フィール自体はほぼ一定であり、総じてスムーズと表現していいだろう。

続いては減速からの停止だ。50km/h付近からブレーキを作動させると、3速、そして2速へと自動的に変速し、1速2,000rpm付近でクラッチが完全に切れる設定のようだ。こちらもまたスムーズであり、ギクシャクするようなそぶりは全く見られない。

Y-AMTで出したタイムをSTDモデルで超えるのは困難か

こうしたY-AMTの基本的な挙動を理解したあと、今度はペースを上げて走行してみる。Dモードの場合、スロットルを大きく開けてもせいぜい6,000rpm付近でシフトアップが行われるので、いわゆる低~中回転域が常用域となる。スロットルレスポンスは常に穏やかな状態にあり、MT-09本来のヤンチャさはだいぶ抑えられる。

続いては「D+」モードだ。こちらはシフトアップポイントが8,000rpm付近となり、コーナーによってはDモードより1段低いギヤが使われることも。加えて、最も速度が出るホームストレートから1コーナーへの進入においては、4→3→2速へのシフトダウンがDモードより素早いように感じた。少なくともサーキットにおいてDモードとD+モードの走りの違いは歴然としており、MT-09の二面性のようなものを知ることができた。

そうしたポジティブな印象を得た一方で、ネガがなかったわけではない。例えば2速で旋回しているタイトなコーナーで、さあ力強く立ち上がるぞと思ってスロットルを開けようとしたその瞬間、勝手に3速へシフトアップしてしまい、加速が鈍ることが何度かあった。これはDCTのATモードにも当てはまる現象であり、ほんの少しレースを経験したことのある人間としては、これが気になってしまった。

Y-AMTの開発メンバー。左が為政拓磨さん、右が福嶋健司さんだ。

これらについてY-AMTの開発メンバーに質問することができた。まずシフトプログラムについては、スロットル開度やその速度だけでなく、ブレーキ操作による減速度も制御に反映しており、強いブレーキングに対しては素早くシフトダウンするように設定しているとのこと。そして、コーナリング中の予期せぬシフトアップについては、IMUからのバンク角の情報をシフトプログラムに反映していないという。なお、ホンダのアフリカツインは、CRF1000LからCRF1100Lにモデルチェンジした際、DCTにコーナリング走行検知制御が加えられている。MT-09のY-AMTも技術的には可能なはずで、筆者のようなうるさいライダーの声が集まれば、将来的にそれに似たような制御が盛り込まれるかもしれない。

さて、サーキットを30分ほど走ったことで、Y-AMTの完成度が非常に高いことは十分に理解できた。問題は、そこにファンな要素があるかどうかだろう。それについては、続いてSTDのMT-09に乗ったことで明確になった。

サーキットでは、特にコーナー進入時にいろいろな操作を要求される。ブレーキングやシフトダウン、そして荷重移動などだ。シフトダウンはコーナーによって下げる段数とそのタイミングが異なる上に、たとえアシスト&スリッパークラッチが入っていても、無駄な挙動を抑えるために操作はできるだけていねいな方が好ましい。それらを公道よりもはるかに高い速度域でこなさなければならないので、実は非常に忙しいのだ。

先ほどまで乗っていたY-AMTなら、シフト操作に関する思考を一切排除できるほか、左足の踏み替えすら不要だ。それによって生まれたリソースをブレーキングや体重移動に振り分けることができるので、結果的にサーキット走行を楽しむことができた。そして、おそらくだが多くのライダーにとって、Y-AMTで出した袖ケ浦の自己ベストをSTDモデルで上回るのは至難の業ではないだろうか。

楽しいのはY-AMTか、それともホンダのEクラッチか

今年6月に筆者はホンダ・Eクラッチを経験している。試乗記事はこちら

ホンダが今年6月に発売した「CB650R」と「CBR650R」には、クラッチを自動制御する「ホンダEクラッチ」がタイプ設定されている。すでにヤマハがYCC-Sでクラッチの自動化を達成しているが、ホンダはこれを世界初と謳っており、クラッチレバーによる任意の操作が可能なところがヤマハとは大きく異なる点だ。

Eクラッチはあくまでもクラッチの自動制御のみで、シフト操作は常にライダーが行う仕組みとなっている。オートブリッパーは働かないので、急激なシフトダウンでは機械による半クラッチだけで回転数差を吸収できず、それなりに変速ショックが発生する。だが、そうした意地悪な操作をしなければ、このシステムは極めて自然で扱いやすい。

Eクラッチのアクチュエーターのカットモデル。2個のモーターが確認できる。

シフト操作が必要という点ではYCC-Sに通じるが、Eクラッチはシフトアクチュエーターを介さないので変速操作がダイレクトであり、ベテランライダーほどこの感触の方が違和感がないはずだ。そして、Uターンなど極低速域で半クラッチが自分で調整できるというところも、安心材料としては大きい。

Y-AMTとEクラッチ。違いとしてはATモードとクラッチレバーの有無に集約され、特に両者とも渋滞路でイージーに走れるという点は高く評価したい。あとは、シフトチェンジという行為を「面倒」と捉えるかどうかだ。バイクはそもそも「面倒」の集大成であり、それを攻略することがこの趣味におけるスパイスの一つである。ちなみにヤマハは、今年のバイクの日に「このめんどくさいが、たまんない。」という企業広告を公開しており、Y-AMTとの整合性に疑問を感じることも。だが、ほぼ同じタイミングでBMWモトラッドがASA(オートメイテッド・シフト・アシスタント)というY-AMTに近い技術を発表したことからも分かるように、バイクのオートマ化はバイクという趣味の裾野を広げたり、安全性を高めることは間違いないだろう。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…