17%の値上げに見合う進化でした。足周りもエンジンも好印象のKLX230 S|カワサキ試乗記

しばらく国内のラインナップから外れていたカワサキのKLX230シリーズが、2025年シーズンに復活した。最新の排ガス規制に適合させつつ、フレームはシートレールを再設計するなど大幅に手を加えている。バリエーションは標準モデルのKLX230と、シート高を35mm下げたKLX230 S、トレッキングモデルのKLX230 シェルパ、そして今年1月13日に発売されたスーパーモタード仕様のKLX230SMの4種類。今回はKLX230 Sに試乗した。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●カワサキモータースジャパン

カワサキ・KLX230 S……59万4000円(2024年11月27日発売)

ヘッドライトのハロゲン球→LED化に伴うフロントマスクの小顔化をはじめ、外装を一新した2025年モデルのKLX230 S。シート高は旧モデル比で15mmアップしたが、最低地上高は30mmも増えており、不自然な印象は一切ない。なお、価格はおよそ17%(8万8000円)アップした。
ライムグリーン
バトルグレー

車体色はライムグリーンとバトルグレーの2種類。ちなみに競合車のホンダ・CRF250Lもスウィフトグレーという同系色を採用しており、イメージとしてはかなり近しい。

2020年型 KLX230
2022年型 KLX230 S

旧型のKLX230は2019年10月、同Sは2022年2月に発売された。どちらも平成32年(令和2年)排ガス規制に適合しないことから、2022年モデルを最後に日本での販売を終了していた。

オンロードとオフロードの両方向へ守備範囲を拡大

以前のKLX230シリーズは、標準モデル、ローダウン仕様のSとも試乗した経験がある。当時、筆者はヤマハ・セロー250のファイナルエディションを所有していたので、同じ空冷シングルのデュアルパーパスでも、設計年度の違いによってこんなにも差があるのかと驚かされた。具体的には、エンジンは低回転域から粘り強く、レスポンスに張りがあり、シャシーは高速走行においても十分な剛性があった。シート高を55mmも下げたSは、ダート走行においてサスが底付きする回数こそ多いものの、高速巡航では乗り心地の良さをスポイルせずに標準モデルよりも直進性が高まっており、舗装路8割/ダート2割という使い方であれば、足着き性の良さも含めてこちらの方がいいのではと思ったほどだ。

さて、2025年モデルとして登場したKLX230と同Sは、足着き性の改善を目的としてシートレールの取り付け位置を下げ、これに伴いエアクリーナーボックスや燃料タンクなども新設計としている。今回試乗したKLX230 Sは、シート高こそ従来の830mmから845mmへと15mmアップしたが、ホイールトラベル量はフロントが158mmから200mmへ、リヤは168mmから223mmへと、前後ともおよそ3割も増えているのだ。

実車を目の前にすると、「これはシートが高い方のKLX230では?」と思うほどに座面が高く見える。だが、いざまたがってみると乗車1Gで前後サスが程よく沈み込み、身長175cmの筆者で両かかとのソールがうっすらと接地する。競合車のホンダ・CRF250Lはシート高が15mm低いが、KLX230 Sの方が車体がスリムな印象があり、トータルでの足着き性は同等レベル。加えて車重はCRFより8kgも軽いので、足に掛かる負担は明らかに少ない。

走り始めてすぐに感じるのは、フロント21インチ、リヤ18インチのフルサイズトレール車とは思えないほど車体がコンパクトに感じることだ。CRF250L比でホイールベースが75mm短いということもあるが、車体をスラロームさせたときのフロントタイヤの反応が良く、クイックと表現してもいいほどに旋回力が高いのだ。

その要因は、どうやらキャスター角とトレールの変更にあるようだ。あらためて諸元表を見てみると、従来の27.5°/116mmから24.6°/96mmと、新型はネイキッドモデル並みのジオメトリーとなっていた(ちなみに同クラスのネイキッド、Z250は24.5°/92mm)。リヤタイヤを主、フロントタイヤを従とした関係のゆったりとしたハンドリングから、よりオンロードモデルに近い操縦性となり、市街地や峠道での走りが一段と楽しくなった。

フロント200mm/リヤ223mmとなったホイールトラベル量は、セロー250の225mm/180mmに近く、スロットルのオンオフや軽いブレーキングでもスムーズに車体のピッチングが発生する。フラットダートでの前後サスの動きは従来型Sよりもスムーズで余裕があり、足着き性の良さもあって、セロー250が得意としていた未舗装路での「二輪二足」走行も可能だ。加えて、前後ブレーキはセローよりも制動力、コントロール性ともに高く、新設されたABSキャンセルボタンを使わずとも、林道を流すレベルであればデュアルパーパスABS任せで何ら不満はないだろう。

1psダウンしたが、低中回転域の扱いやすさは相変わらず

続いてはエンジンだ。やや不自然なほどに長くなったエキパイからも分かるとおり、最新の排ガス規制に適合するために吸排気系やECUに手が加えられている。吸気ポートの小径化に伴い吸気バルブ径が変更され、マフラーも新設計となった。最高出力は19psから18psにダウンしたが、最大トルク19Nmはキープ。WMTCモードでの燃費が33.4km/Lから34.7km/Lへと微増したのも朗報だろう。

低回転域でクラッチミートしたときの力強さは相変わらずで、ギヤ比の妙もあるだろうが、発進加速はセロー250よりも元気が良いと感じる。高回転域では排気量がわずかに大きい分だけセローに余裕を感じるが、低中回転域はレスポンスの良さもあって、KLXの方がデュアルパーパスのエンジンとして好印象だ。

全域にわたって不快な微振動が抑えられているのは、1軸バランサーのおかげだろう。空冷ながらメカノイズは少なく、スムーズな吹け上がりからフリクションロスの少なさも感じられる。スリッパークラッチは非採用だがレバーの操作力は軽く、シフト操作もまるでスイッチのようにスコスコと入る。特にアナウンスはないが、今回のモデルチェンジを機に各部がだいぶ見直されたような熟成ぶりである。

ステーが短いのでミラーが見にくい、ブレーキホースが邪魔でメーターが読みづらい、長距離移動ではお尻が痛くなりやすいなど、個人的に従来型Sで感じていたネガは改善されていない。だが、主にシャシーの改良によってオンとオフの両方向に守備範囲を広げてきたのは大いに評価したいところだ。なお、水冷シングル/24psのCRF250Lとの価格差が2万7500円なので、このクラスのデュアルパーパスを買おうとしていた人にとっては多いに悩むところだが、日本の狭くて急峻な林道ならKLX230 Sの方がより楽しめるだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

ハンドルグリップの位置を従来比で13mmアップ&24mm前方へ。合わせてステップ位置を9mmバックさせるなど、新型はよりオフロードライディングがしやすいように微調整してきた。
サスペンションがソフトなので、体重によっても足着き性の印象は変わるが、フルサイズのトレール車でこれだけ接地すれば十分だろう。ハンドル切れ角も十分以上に確保されている。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…