所詮シングル、と侮るなかれ! ハスクバーナVITPILEN701はいい意味で「ヘンテコ」な良作だ。

ハスクバーナがKTMと一体となり、最初に登場した「ビットピレン」。独創的なルックスと独特なポジションで「これはなんだ?」となった人も多いはずだ。このスタンダードモデルを改めて試乗する。

TEXT●ノア セレン
PHOTO●山田俊輔

※2019年12月05日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

ハスクバーナ・VITPILEN

ハスクバーナVITPILEN701……1,380,100円

ハスクバーナ・VITPILEN
ハスクバーナ・VITPILEN
ハスクバーナ・VITPILEN

ハスクバーナといえば「モタード」?

 人によってイメージは様々だろうが、ハスクバーナといえばオフロードイメージが強いメーカーという感覚でいる人は少なくないんじゃないかと思う。モタードという競技が市民権を得た頃も、ハスクバーナはオフロード車をベースとするこの競技で活躍、その後スタンダードなロードモデルを展開した、というハナシはなかった。

 似たようなメーカーがKTM。基本的にはオフロードが得意。近年になってロードモデルにも力を入れている……これらメーカーがタッグを組むのは不思議ではない。KTMにとって、モタードベースではない、初の「普通の」ロードモデル、690DUKEをベースに、ハスクバーナもロードモデルを展開するのは、ある意味自然なことかもしれない。ハスクバーナはKTMとの協力のもと、ハードな競技志向のメーカーから(少なくともロードの分野においては)おしゃれなロードスターを展開するメーカーへと転身したのである。

おしゃれロードスター第一号 ビットピレン

ハスクバーナ・VITPILEN

 本来はVで始まるヴィットピレンだが、ここではビットピレンと書いておこう。このモデルは基本的に今では絶版になってしまったKTMの690DUKEをベースにした派生モデルと考えて間違いはない。フレームやエンジン、足周りも基本的には共通で、エンジンも吸排気系の変更により数値上のわずかな違いのみ。逆にスタイリングは大きく変わり、あわせてポジションも違うものになっている。特に特徴的なのはシートの高さだ。

DUKEはわりと低めのシートだったのに対して、ビットピレンはかなり高いシートを持つのにステップは逆に低く、そのおかげで膝の曲りはとても緩やか。そのぶん楽かと思いきや、シートはとても硬くて快適とは言えず、また下半身はこんなに余裕なのに上半身はセパハンでそれなりに前傾しているという……何ともヘンテコなポジションを持っているのだ。

 しかし、DUKEシリーズを見てみると、125、250、390共にみなDUKEの他にフルカウルでセパハンのRCシリーズが用意されているのに対して、690はセパハンバージョンが無いのである。アップハンからセパハンに変わるとライダー重心位置が変わるためハンドリングが変わることも珍しくない。ビットピレンはその独特なスタイリッシュさだけでなく、走りの面でも690のバリエーションモデルと捉えてよさそうである。

パンチを満喫

 走り出すと独特のポジションに面くらいつつ走り出すと、3000rpm以下では多少ガクガクするもののそれを越えたら軽やかに回っていくエンジン、とてもスムーズでクラッチを切らずともシフトしていけるミッション、コントローラブルでよく効くブレーキ、軽量でなんとでもなる車体など、690の魅力を色濃く受け継いでおりストリートでも楽しみやすいパッケージだと実感する。

 そしてセパハンだが、これが見た目ほどキツくないことが分かった。シートが高いこともありけっこうキツめのポジションを覚悟していたが、KTMのRCシリーズがそうであるように特別苦しいような場面は現れない。そしてアクセルを大きく開けるようなときはしっかりとフロントに覆いかぶさることができるためこれが楽しい。700ccとはいえ所詮シングル、なんて思っていると痛い目を見るパンチがあるため、不用意なワイドオープンは気を付けたいところだが、セパハンにしがみついていればそれも楽しく、DUKEよりも積極的にアクセルを開けていることに気づいた。このエンジンの魅力的な部分に、より頻繁にアクセスしたくなるような、そんなポジションなのだが、ステップの低さだけが最後までしっくりこず、バックステップを投入したくなってしまった。アップハンのスヴァルトピレンの方では慣れることができたのだが、同じステップのままセパハンというのはやはり少し難しいように感じた。

誰もが振り返る

 これほどまでに大排気量&ショートストロークのシングルであることや、軽量な車体など機能面では文句なしに楽しめるバイクではあるが、それとは別にビットピレンの大切な魅力はやはりスタイリングだろう。特にスクランブラーなどが流行ったことで現在のバイク業界ではクラシカルさとモダンさを合わせたようなデザインが潮流のようだが、ハスクバーナはその中でも独創的なスタイルを見出しており、他に似たものがない。様々なデザインが出尽くして、何をやっても過去の模倣となりそうな現代においてそれを成し遂げたのは凄いことだろう。

 事実、ストリートを走っていても注目度は高い。見たこともないスタイリングと多くの人は聞いたことのないメーカー。そもそも大きくハスクバーナと書いてあるところもない。実にスマートでしゃれたバイクである。その分、価格も決して安くはないが、走りの魅力とスタイリングの魅力にハマってしまえば、これ以上のバイクはないだろう。様々なメーカーが様々なバイクを出している中で、ひときわ輝く個性を持っているのだ。

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…