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ホンダ・スーパーカブ110……280,500円
コミューターながらエンジンを操作している実感が味わえる
2輪媒体歴が30年にもなると、スーパーカブシリーズの試乗回数も人後に落ちないもので、元祖であるC100をはじめ、オーストラリア仕様のCT110、タイホンダの歴代ウェイブシリーズ、そして近年では新旧クロスカブやスーパーカブC125、CT125・ハンターカブにも試乗している。だが、ベーシックなモデルとなるとあまり記憶がなく、今回のスーパーカブ110については、少なくとも丸型ヘッドライトに戻った現行モデルは初試乗となる。
2009年に誕生したスーパーカブ110。フレームは伝統のバックボーン+プレスモノコックから新設計のバックボーンになったのをはじめ、スイングアームは同じくプレスのモナカタイプから四角断面パイプに。また、特徴的なフロントのボトムリンクサスは一般的なテレスコピックフォークとなった。これら大刷新されたシャシーは、2012年のモデルチェンジの際に剛性が見直され、2017年のモデルチェンジ以降もそのまま引き継がれている。エンジンは109ccの空冷SOHC2バルブ単気筒で、タイホンダのスーパーカブやウェイブシリーズで実績のある2段クラッチを採用。最高出力は8.0ps/7,500rpmを公称する。
エンジンの始動はセルフ式で、併設のキックスターターでも驚くほど簡単に目覚めてくれる。シーソー式チェンジペダルの前側を踏み込んで1速にシフトし、スロットルを徐々に開けてスタートする。15psモデルが名を連ねる原付二種クラスにおいて、8.0psという最高出力は見劣りするスペックだが、なかなかどうして、そうしたスポーティな車種と同等かそれ以上に発進加速が力強い。これは低中回転域の扱いやすさを重視したエンジン特性の賜物で、1速なら30km/h、2速で50km/hオーバーまで引っ張れるが、それよりも早めにシフトアップして中回転域を維持するようにすると息の長い加速感が楽しめる。
遠心クラッチのため操作レバーは存在せず、エンストとは無縁だが、シフトペダルを踏んでいる間はクラッチが切れているため、それを利用してよりスムーズにシフトアップ/ダウンすることも可能。そして、特にスロットルを戻したときのダイレクトなエンブレの発生はスクーターにはないもので、コミューターながらエンジンを操作している実感が味わえるのがスーパーカブの魅力と言えるだろう。
優れた安定性と小回りのしやすさを併せ持つハンドリング
ハンドリングは、外乱を受けても振られにくい高い安定性と、狭い道でもクルッとUターンできてしまう小回りのしやすさを併せ持つ、実に扱いやすいものだ。路面追従性だけならかつてのボトムリンク式サスの方がいいと感じるが、フレームを含む全体の剛性感やブレーキを掛けたときの自然なノーズダイブなど、トータル性能では現行のテレスコピックフォークに軍配が上がる。なお、派生モデルのクロスカブ110はシート高が49mmも高く、ホイールベースが25mm長いこともあり、それと比べるとスーパーカブ110は低い重心位置からスイッと向きを変える印象がある。ペースを上げすぎると前後サスがフワフワと落ち着きがなくなり、ステップが意外と早くに接地してしまうが、そうしたことに不満を覚えるほどコーナリングが気持ちいいのだ。
ブレーキは前後ともドラムだ。このエンジンパワーと車重に対して十分な制動力を発揮するが、急な下り坂ではそれなりに強くレバーを握ったりペダルを踏み込む必要があった。また、ABSや前後連動システムは採用されていないので、そこは十分に注意したい。
シリーズ最上位として2018年にスーパーカブC125が登場した際、想像以上に上品かつ上質な走りに驚いたものの、その一方で「これは本当にスーパーカブなのだろうか」などと思ったのも事実。対してこのスーパーカブ110は、C125と比べるとエンジンフィーリングは牧歌的であり、耳に届くメカノイズも大きめ。とはいえ、それらは私が思う〝スーパーカブらしさ〟であり、価格を含めたパッケージングとしてのまとまりは絶妙だ。付け加えると、CT125・ハンターカブとクロスカブ110を比較試乗した際にも同じことを感じており、「自分買うならクロスカブだな」という結論に達している。
この春、本田技研工業が協力・監修したTVアニメ「スーパーカブ」が好評のうちに終了し、それに影響された知人2名が古いカブを手に入れてしまった。コミューターとしてだけでなく、趣味のバイクとしても楽しめる稀有な存在であり、リセールバリューの高さでもお薦めできる1台だ。