紳士が乗るべきカフェレーサー、トライアンフ・スピードトリプル1200RR試乗レポート

トライアンフのバリエーション展開は5つのカテゴリーに分類されているが、その内の“ROADSTERS ”には、いずれもトリプル(直列3気筒)エンジン搭載の660~1200まで4機種が揃えられている。今回試乗したスピードトリプル1200 RRは、2021年に登場したネイキッドスポーツの同RSをベースに開発。同シリーズの頂点に君臨すべく、2022年に投入された最新鋭の最上級モデルである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●トライアンフ モーターサイクル ジャパン/日本自動車輸入組合(JAIA)

トライアンフ・SPEED TRIPLE 1200 RR…….2,285,000円

クリスタル ホワイト ストーム グレイ

レッド ホッパー ストーム グレイ…….2,330,000円

 今回のスピードトリプル1200 RRは冒頭に記した通り同RSをベースに、その上を行く上級モデルに仕上げられた。大きく異なっているのはネイキッドスポーツから、ハーフフェアリング装備のスーパースポーツモデルへと変身を遂げているのである。
 3本の太いエキゾーストパイプをカバーするアンダーカウルはRSと同じデザイン。アッパーに装備されたいわゆるロケットカウルとのツーピースタイプとなり、全体的にバランスの良い美しいスタイリングに仕上げられている。スクリーンやバックミラーも流麗なデザインを採用している。
 コンパクトな丸形のLED式ヘッドランプ周囲には吸気ダクトがあしらわれ、左右にはカーボンのウイングも追加。ラジエターサイドのシュラウドやフロントフェンダー等にもカーボンパーツが奢られている。
 そして低いハンドルポジションによりライダーが前傾姿勢をとれる様に設定されたのが大きな特徴。トップブリッジ(三つ叉)の下側にクリップオンされたセパレート式ハンドルは、パイプバーハンドルのRSと比較して、135mm低く、前方に50mm移動した位置に取り付けられている。低く身構え、前屈姿勢にも適応するRRのライディングポジションは、サーキットでのスポーツ走行も意識したデザイン。ネイキッドのRSとは明確に異なるコンセプトに仕上げられているのである。

 アルミのツインスパーフレームには、同ブランドを代表するパワーユニットのひとつである“トリプルスリー”と呼ばれる水冷DOHC 12バルブ直(並)列3気筒の新世代エンジンを搭載。RSで先行採用された物だが、排気量は1050~1160ccにアップ。同時にボアストロークも大胆に変更されている。
 先代の1050ccエンジンはボア・ストロークが79×71.4mmだったが、今回の1200は90×60.8mmの1160ccへ約1割拡大。ボア÷ストローク比は、1.11~1.48へ思い切りショートストローク化され、さらにクランクマスが軽量なタイプに変更されている点も見逃せない。
 最高出力は180ps/10,750rpm 、最大トルクは125Nm/9,000rpmを発揮。次のグラフで示すエンジン性能曲線図からわかる通り、6,000~11,000rpmの広範囲にわたって120Nm以上の高トルクがキープされる出力特性を誇っているのである。

 足回りには前後共に新設計されたオーリンズ製電子制御式セミアクティブサスペンションを装備。タイヤはピレリ製。ちなみに試乗車にはDIABLO SUPERCORSA SPが装着されていた。ブレーキ関連部品もブレンボ製のハイスペックパーツが奢られている。  
 発表会当初の公式映像の中からコメントを引用すると、「カフェレーサーを進化させ究極のスポーツ性能を手に入れた」ピュアなスーパースポーツバイクと言えそうである。

豪快かつ軽快な吹き上がり感が魅力的

 試乗車を目の当たりにすると、流石にカフェレーサー発祥の文化を持つ英国ブランド物らしい雰囲気が感じられる。丸形シングルライト付きロケットカウルは、古めかしいフォルムをイメージしがちだが、スピードトリプル 1200 RRはモダンでスタイリッシュ。
 フレームはブラックアウトされ、後方が跳ね上がるシャープな流れを基調としたタンクシートのキャラクターラインと、低く身構えたアッパーカウルとのバランスが上手く調和している。
 シートに股がるとハンドル位置が低いせいか、それなりの重量感を覚えるが決して重過ぎず、手強さは感じられない。前傾姿勢となるライディングポジションは、明確にスーパースポーツとしてのキャラクターが直感でき、腰高なシートとバックステップとの関係性もアグレッシブなイメージ。積極的にバイクをコントロールするスポーツライディングに対して、自然とかつ素直に身構えられ、大人がチョイスする本物のカフェレーサーといえる乗り味がそこにある。
 しかも外観のスタイリングのみならず、走る曲がる止まるの3拍子に一級のハイパフォーマンスが備わっていることが直ぐに理解できるのである。

 まず3気筒エンジンから発揮される出力特性の豪快さは抜群。スロットルレスポンスに優れ、しかもその吹け上がりの鋭さに軽快感があり、伸び具合も丁度良い。
 3気筒マルチとは言え、オーバー1Lものビッグエンジンがいとも簡単に10,000rpmオーバーの世界に飛び込んで行く様は強烈。レブリミットは11,400rpmに設定されている。スロットルONと同時にドッカンと図太いトルクが発揮でき、例えばサーキットの様に容赦なく全開にできるハードなシーンでも、全く不足を感じさせない、極めて俊敏な加速性能を発揮できる。
 その中で感激的なのは、決して荒々しい特性ではなく、確実に地面を蹴り出す感覚が秀逸。後輪のトラクションを高めながらグイグイと安心感の伴う加速力を活用できる。3気筒らしい特性を始め、ショートストローク高出力に軽妙なクランクマスとの相性が良い。さらに加えて高めにセッティングされたクロスレシオミッションがおりなす総合力が実に的確な機能発揮に貢献している。
 ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度はメーター読みで65km/h。6速トップ100km/hクルージング時のエンジン回転数は約3,900rpmだった。
 クロスぎみのギヤレシオのおかげでクィックシフターの操作フィーリングも小気味よく着実に決まる。シフトダウン時にはブリッピング制御付きでエンジン回転は絶妙のシンクロ具合を魅せ、後輪はシッカリと路面に食いついてくれる。
 一連のコーナリング操作でも、シフトダウンから急ブレーキを当てて旋回開始。やや腰を落としてコーナーのin側を目指すと、どんどん高まる旋回G(遠心力)をタンクに押しつけた胸に感じながら再びスロットルON。タイヤのグリップ力も高く、安定感たっぷりな心地よさを満喫しながらグイグイと力強いダッシュを決められる乗り味は実にエキサイティング。
 大人のハートでクールに走るつもりが、いつのまにかサーキットデビューしてみたい様な、そんな熱い世界を楽しんでしまいそう。エンジンもサスペンションも最新の電子デバイスがフル装備され、走行シーンに対する自動制御が適切に介入してくれる安定感と快適性も見逃せない。
 ライダーにとって大きな安心感を伴う上質な乗り味もまた魅力的。危なげない走りが楽しめるからこそ、それなりに高度な走りを許容してくれる。そんなプレミアム感たっぷりなスーパースポーツ。
 どこかに若きハートを保っておきたいシニア世代のライダーにもお薦めできる1台なのである。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

ご覧の通り両足の踵は少し浮いてしまうが、指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができる。シート高は830mm、ハンドル位置が低めだが、バイクを支える時に不安は感じられない。

キーワードで検索する

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…