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カワサキ・Z650RS……1,012,000円〜
報道資料から引用すると、冒頭に記されたその開発コンセプトは「Zの血統を受け継いだカジュアル・レトロスポーツ」 とある。
“Z”に象徴されているのは、もちろんかつて世界市場を席巻したZ1(国内仕様はZ2)の事を示す。それを現在に継承させたのが、2021年9 月にデビューしたZ900RS。生誕50周年を記念する特別色が投入された事でも話題となっている。今回のZ650RSはその弟分と言えるモデル。タンクやサイドカバー、メーター周辺のデザインは“ザッパー”と呼ばれた1976年登場のZ650を彷彿とさせる部分もある。
一方今回試乗した50th Anniversaryのカラーデザインは、Z1を想起させる。しかしそのルーツは全くの別物である。明確に異なっているのは、搭載されたパワーユニットが4気筒ではなく、水冷のDOHCツインエンジンである事。
つまりミドルクラスのネイキッドスポーツとして知られるER-6nから受け継がれたZ650がベースになっているのである。
そもそもERは斬新なデザインセンスを採用したネイキッドモデル。前衛的なフォルムを進化させた個性はZ650に受け継がれて来たが今回の“RS”では古きフォルムを纏ってリリースされたのが大きな特徴である。半世紀前のカワサキを知る人にとっては、どこか懐かしさを覚える。一方、当時を知らぬ世代には、むしろ新鮮なスタイリングとして、堂々たる佇まいが魅力的なフォルムに映るのかもしれない。
フレームや搭載エンジン、サスペンション等は基本的にZ650と共通だが、シートレールは後方への跳ね上がり具合を抑えたオリジナルデザインとなり、前後一体式の長いダブルシートを採用。ヘッドランプやメーター回りとホイールデザインが一新されて前述の懐かしい雰囲気を醸し出している。
ブラックアウトされたスチールパイプ製トレリスフレームはエンジンブロックも強度メンバーに加える合理的な設計で、フレーム単体重量は13.5kgという軽量ぶり。
リジッドマウントされたツインエンジンはバランサーシャフトを備えた180°クランクを持つ。冷却系の外部配管を削減したデザインでシリンダーヘッド回りもスッキリ。クランクケースのサイドカバーもRS専用設計されている。
主要諸元値をZ650と比較すると、全幅が広く全高が高め。その他は大差ないレベル。ただしガソリンタンク容量が3L少ない12Lになっている。
また定地燃費率のデータが32.1~31.8km/Lへ若干低くなっているが、おそらくこれはアップライトな姿勢で乗るライディングポジションの違いによって、空気抵抗が増した結果と推測できる。
エンジンやミッションにタイヤサイズは両者共通。実用値に近いモード燃費率データの23km/Lにも変わりはない。
価格的にはZ650より本体価格で14万円高価な設定となっているが、RSには「Kawasaki Care 」購入後2年半分の点検整備(3回のオイル交換含む)が附帯している点は見逃せないところ。また50th Anniversaryには半世紀に渡るZの歴史が記された記念本の“Z Chronicls ”がプロゼントされる購入者特典がついてくる。
手頃なサイズ感と逞しい走りに魅了される。
試乗車を受け取った瞬間、「これは実に親しみやすい」と思えたのがとても新鮮なポイント。早速シートに股がると、両足はちょうどべったりと地面を捉えることができ、車体全体のボリュームと重さ感が、程良く馴染んでしまう。
かつてのバイクブームで250ccと人気を分け合った400cc4気筒クラスと同レベル。否、むしろ少しサイズの小さめな400ccクラスに乗る様な印象である。
しかも黒塗りのアップハンドルは、ややワイドで高めのポジションが得られ、ライダーの上体はごく自然とアップライトで楽な姿勢となり、特別に筋力を活かして身構える必要性が感じられない。
ちなみにベースとなったZ650と比較すると三叉のアッパークランプが高く設定され、ハンドルグリップ位置で50mm高く、手前に30mm引かれた位置になっている。決して大き過ぎない適度なサイズ感と共に股がった瞬間に安堵感を覚える程、のっけからリラックスムードで走り出せる。そんな親しみ易いところが好感触。
なるほどコンセプトにある“カジュアル”とはまさにこの事だと直感できたのである。
操作性の軽いアシスト・スリッパークラッチを握り、走り始めると。記憶の中にある400ccクラスや初代Z650(空冷4気筒)よりも格段に太いトルクで難なく発進。
そのままかなりダイナミックなスロットルレスポンスを魅せ、実にパワフルな加速力を発揮する。初代ER-6nよりは、良い意味で穏やかさが加味された感触もあり、2,500rpmからでも粘り強さを発揮。ほとんどどの様な場面でも意のままに扱えてしまう、スロットルコントロールの扱いやすさが絶妙。
190kgと言う車重に対する中低速域から元気の良い出力特性は見事なまでに逞しい走りを披露。180度クランクらしい小気味のよい噴き上がり感覚もまた気持ち良く、レッドゾーンの10,000rpmまで難なくかつ豪快に吹き上がる。
また何よりも嬉しく感じられるのは、どの場面でも不足を覚えない余裕のある高性能ぶりを発揮する。日本の道路環境下をキビキビ走る上で、十二分なポテンシャルを難なく披露してくれる。
トルクの余裕感と、上まで回した時の痛快な加速性能が凄過ぎない点も丁度良く、走れば走る程に気持ち(相性)の良いバイクだと理解が深まることだろう。650ccの2気筒エンジンから発揮されるパフォーマンスは、実用ニーズとのバランスにおいて、まさに絶妙のところにあるようだ。
市街地を走る時、ステアリングの切れ角がもう2~3度大きいと小回りUターン等でさらに扱い易いと思えたものの、操舵フィーリングの軽快さと素直な扱いやすさは、以前から慣れ親しんだ愛車を乗り回すかのような感覚になれる。
前述の通りスロットルレスポンスの扱いやすさと、逞しいトラクションが得られる出力特性が奏功して、峠道でも各コーナーを気持ち良く脱出して行ける。
いつも気持ちの良いトラクションを自由自在に加えて行けるので旋回操縦性もスムーズで快適。
さりげなく、それでいて意外とスポーティな走りも楽に決められる扱い易さは、市街地の交差点を右左折するだけでも気分良い。乗り込むほどにバイクが好きになれる。サイズ感だけでなく、パフォーマンスの全てが程良く感じられるのである。
アンダーマフラーの採用でボジション的にそれと干渉する事が無くなったのだから後席用ステップの位置をもう少し下方に移設した方がベターだと思えたものの、シート段差の少ない後席に座るとグラブバーは握りやすくタンデムライディングも快適そう。
いつものようにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは38km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は約4,800rpm。その近辺でハンドルとタンクに微振動が発生したのが少し気になったが、高速クルージングの実用上はそれも上手く回避できると思う。
それにしても、カジュアル感覚で乗れる親しみ易さは一級。初心者にも間違いなくお薦めできるし、ビッグバイクからのダウンサイジング組にも良い。日本の交通事情にマッチした不足の無いパフォーマンスを誇れる点も含め、まさに誰もが楽しめる魅力的なミドルスポーツなのである。
実用域の広範囲に渡って常に生き生きと快活に走れる高性能の程良さが気持ち良く、多くのユーザーにとって、長く愛用できる商品力の高さも侮れないと思えた。
足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)
シート高は800mm。ご覧の通り、両足はちょうどピッタリ地面を捉えることができる。信号待ち等、片足でバイクを支える時には、膝に余裕があり、ミドルクラスのバイクとして親しみやすさが感じられる。なおオプションで高さ820mmになるハイシートも用意されている。