なぜ今ザッパー? Z1の誕生からZ650RSまで続く、カワサキZ 50年の歴史を振り返ってみる。

2022年。今年はカワサキにとって特別な年だ。重量車のカワサキを決定付けたカワサキ900スーパー4、通称Z1が発売されてから、50年の節目を迎えるからだ。今回はZ50周年記念WEBサイトを見つつ、タイミングよく発表されたレトロスポーツ「Z650RS」の隠れたメッセージついて考察する。(写真はすべてカワサキモータースジャパンWABサイトから。https://www.kawasaki-cp.khi.co.jp/Z50th)
Zを体系的にまとめた初めてのWEBサイト
Z50周年記念WEBサイト。https://www.kawasaki-cp.khi.co.jp/Z50th

2022年1月。1972年のZ1発表から50年を記念した、Z周年WEBサイトが公開された。Z1からZ H2までの、半世紀に渡るZのラインアップが端的にまとめられているが、実はいままで、50年を通してZというブランドを体系的にまとめた公式見解は存在しなかった。

今回のWEBサイトを見ると、1990年代のZ不在の時期において、ゼファーとZRXが正式にZファミリーだと認められている。これは非常に大きなトピックだ。80年代の空冷Zと、2000年代の水冷系のZが、この2つのシリーズが加わることで、しっかりつながったのだ。

50年に渡り歴史を紡ぎつつ、我々を楽しませてくれているZ。この歴史上に輝くブランドが何を求め、どんな変化をしてきたのか。まずZ1が、登場時にどんな使命を持っていたか、またそれがどのように現行車に受け継がれているのか、WEBサイトを見ながら考察していこう。

WEBサイトでZ1の使命と開発におけるポイントが明記されている。

WEBサイトのZ1開発ストーリーを見ると、Z1には、3つ(WEBサイトには2つと書いてあるが)の使命があったことが読み取れる。

ひとつは「市販車最速」。200km/hを実現した動力性能がそれを示している。ふたつめは「公道でのエキサイティングな走り」。Z1は当時まれに見る大型車であるが、あくまで公道でそのハイパワーを楽しめるよう、配慮されていた。最後に、「その時代にマッチした、バイクらしいスタイル」。Z1の「美」は、50年たった今でも世界中のバイク乗りから美しいと思われる、究極のスタイルを体現している。

70年代から80年代中盤まで、Zは耐久レースやスーパーバイク世界選手権などを通して走りの性能をアピール。「4ストローク市販車最速」を世に知らしめた。また、Z1、Z1R、ローソンレプリカなどを通し、世界中のライダーに「公道でのエキサイティングな走り」、そして「バイクらしい、美しいスタイル」を提供した。ここまでの10余年、Z1の追求した使命は最新技術を取り込みながら、大きく変わらずラインナップに継承されていた。

1982 Z1000R。市販車最速の代名詞。
Z1Rは70年代後半のデザイントレンドを大胆に投入。80年代後期のZデザインに大きな影響を与えた。

しかし80年代後半。Zに大きな転機が訪れる。

Ninja登場で再構築された「Z」の価値
ゼファーの登場は、第2のZ1ともいえる衝撃を市場に与えた。

Zは、走行性能の一部である「市販車最速」の追求を、1984年に登場したGPZ900Rに譲ったのだ。その後、カタログ数値的な絶対性能はNinjaブランドがけん引することになる。

その結果Zはどうなったのか。カワサキは性能一辺倒になってゆくバイクたちを横目で見ながら、Ninjaと違うZの魅力を模索したのだ。そして、「公道でのエキサイティングな走り」「その時代にマッチした、バイクらしい、美しいスタイル」という、Z1から継承された3つの使命のうちふたつを改めて見直し、あのゼファーで体現してみせたのだ。

空冷フィンの美しさやタンクからテールへの流れるようなラインといった、バイク本来の美しさ、数値では表せない日常域での楽しさといった価値観を持ったゼファーは、レプリカに食傷気味だった日本のライダーに、バイク本来の楽しさを再認識させた。これはのちにネイキッドブームとして、各社を巻き込み日本の市場で一大ブームとなっていく。

1994 ZRX
ZRX1200ダエグは2016年まで販売された。

さらに2000年代にかけては、バイク本来の美しさにカワサキらしい公道でのハイパフォーマンスを付け加えた、ZRXシリーズが躍進。日本におけるZのスピリット「公道でのエキサイティングな走り」「その時代にマッチした、バイクらしい、美しいスタイル」は、ゼファーとZRXに受け継がれていったのだ。ゼファーは空冷がゆえに排ガス規制に対応しきれず2009年をもってシリーズ終了となったが、ZRXはZRX1200ダエグとして2016年まで新車販売。今でも現役車が走り、カスタムパーツも豊富なのはご存知のとおりだ。

間をおかず2018年には現役名車、Z900RSが登場し、日本におけるZの血脈を守っているのが現状。Z900RSは現代のZとしての地位を確立し、国内の売れ行きも驚異的だ。

スーパーネイキッドZにも流れる「Z」スピリット
Z1000とZ750のコラボ。欧米でZといえばこの形だ。

余談となるが、我々日本人には少々馴染みの薄いスーパーネイキッドZも、欧米なりに解釈された「公道でのエキサイティングな走り」「その時代にマッチした、バイクらしい、美しいスタイル」の具現化マシンであることが、 WEBサイトから読み取れる。

実は世界を見渡すと、Zファミリーは125ccから1000ccクラスまで、スーパーネイキッドZが主流だ。カワサキではZ900RSを「レトロスポーツ」と呼んで、スーパーネイキッドZと区別している。

ちなみにカワサキが最重要視する北米マーケットのWEBサイトでは、トップにZ900/Z650の50周年記念モデルをフィーチャー。日本で人気のZ900RSはかなり階層を潜らないと見つけられないという作りになっており、Zに対する解釈の違いが如実にあらわれている。


Z50周年で「Z650RS」をリリースした意義

ここまで見てくると、カワサキがいかにZの歴史と意義を大切してきたかがわかるだろう。この歴史における、栄えある50年の節目に呼応するように登場したZ650RSは「欧州ミドルクラス激戦区で鍛え上げられたスーパーネイキッド、Z650をベースとしたレトロスポーツ」と言える。だが、ここまで歴史を見てくると、Z650RSに、そんなモデルの成り立ち以上の意味合いを感じてしまうのだ。

Z650RSが、Z900RS同様、「公道でのエキサイティングな走り」「その時代にマッチした、バイクらしい、美しいスタイル」を受け継いでいるのはもちろんだが、Z50周年のタイミングで650ccクラスのRSという、マニアを唸らせるラインナップを出してくるあたり、カワサキがこのマシンに込めたメッセージは別にあるといえないだろうか。

70年代のZ650とZ650RSの意外な共通点
初代Z650(B)の広宣写真はサーキットが舞台。

実は650ccのZ、Z650は、現在の2気筒マシンのほかに、Z1発表から5年後の1977年に発表された、4気筒版のZ650が存在する。バイクマニアの間ではZ650B(以後本文では77年のZ650にBをつける)、またはKZ650、そして「ザッパー」とも呼ばれた伝説のモデルだ。

ザッパーとは、風を切り颯爽と駆け抜けるイメージを持つ英語。今回のWEBサイトを見ると、Z650Bのイメージ写真(発売当時のものと思われる)はバリバリのサーキットが舞台。このことから、当時カワサキはZ650Bに、サーキットレベルの運動性能をもたせようとしていたことがわかる。Z1に対して、よりスポーツ性を高めた、今で言うライトウエイトスポーツという位置づけだったというわけだ。Z650Bは、鈍重なナナハンをその軽さと扱いやすさを生かして、峠でぶち抜くジャイアントキリングマシンと言えるモデルなのだ。

カワサキがわざわざZの歴史を訴求できるこのタイミングで、Z650RSというマシンを出した隠れた理由……。それはZ1とZ650Bの関係を、Z900RS、Z650RSにも、持たせようとしているのではないだろうか。

現役名車、Z900RS。

前述のとおり、Z900RSは、Z1の持っていた「公道でのエキサイティングな走り」「バイクらしい、美しいスタイル」を今に継承するモデル。Z650RSはそこにさらに、2気筒650ccという軽量でトルクフルなエンジンを組みあわせ、「公道最強」を目指した、ライトウエイトスポーツモデルだという見方ができないだろうか。(ただしマシン任せではその隠れたポテンシャルを活かせないのもまたカワサキらしい)。スタイルも細身で流麗。上から見ると結構ぼってりしているZ900RSよりも、確実にスリムでセクシーなのも魅力だ。

ブランドの持つ歴史やイメージをうまく使いながら、時代に合わせた新しい価値観を提示することが昔から上手いカワサキ。こうして歴史を俯瞰してみれば、Z650RSには、改めて環境性能の強化だけでない「バイクでエキサイティングな体験をしてほしい」というメッセージが込められている気がしてならない。400cc4気筒の噂も飛び交うなか、2022年も乗って楽しいマシンをリリースする気概たっぷりのカワサキに期待だ。


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