予想外に軽快なハンドリング。日常使いとは逆のレーシーな乗車ポジション|4,378,000円の高級バイク、ビモータKB4はこんなバイクだ!

空調設備の会社として1966年にイタリアのリミニで設立されたビモータが、独自のフレームを採用したバイクの製造をスタートさせたのは1973年のことです。以来、ヤマハ、スズキ、ドゥカティなどのエンジンを搭載したレースマシンや市販モデルを登場させ、世界中に多くのファンを獲得しました。また高性能で高価なコンポーネンツを採用していることから、高級ブランドとしても認知されています。そのビモータの最新モデルがカワサキNinja1000SXをベースに造り上げたKB4です。価格は4,378,000円と文字どおりの高級バイクです。
PHOTO●村岡力

ビモータKB4……4,378,000円(消費税込み)

徹底した軽量化によってスポーツ性と扱いやすさを高めた

カスタムマシンを製造するフレームビルダーとしてスタートしたビモータは、ロードレースの世界で成功を収めたことによってその名を広く知られるようになりました。レースのノウハウを生かしたフレームやコンポーネンツは市販車にもフィードバックされ、高性能なスペシャルバイクは世界中にエンスージアストを創出しました。ヤマハやスズキ、ドゥカティなどのパワーユニットを独自のシャーシにマッチさせたビモータは、1980年代から2000年代初頭にかけて隆盛を極めました。しかし経営状態に関しては決して順風満帆というわけにはいかず、2019年の時点では活動が休眠状態に陥っていました。そんなビモータに手を差し伸べたのがカワサキです。そしてニンジャH2のスーパーチャージド・エンジンを搭載したTESI H2を製造販売するなど、カワサキ最新モデルのパワーユニットを心臓部に据えたスペシャルモデルを生み出しています。ビモータKB4はニンジャ1000SXをベースにして開発されたモデルで、2022年から国内販売が開始されました。

独創的でアグレッシブなKB4のボディスタイリング。フロント空手^るにかけてインテクレーとされたカウルも特徴的で、フロントのダクトからエアを取り込みテールカウルに設置されたラジエターへとエアを導く

ビモータの特色のひとつが先鋭的なスタイリングデザインです。KB4にもそうした考えは取り入れられていて、フルカバードタイプのボディは新しさとレーシーさを兼ね備えています。それでいてオーソドックスな丸型ヘッドライトを装備している点が実にユニークだと思いました。
独創的でアグレッシブなデザインのボディは、ビモータ独自のトレリスフレームをはじめとした車体構成によってひとクラス下のコンパクトさを実現しています。ちなみにホイールベースはニンジャ1000SXが1440㎜なのに対し、KB4は1390㎜と50㎜も短くなっています。さらに、随所にカーボンパーツやアルミ素材を使用することで徹底的な軽量化を目指し、ニンジャ1000SXよりも42㎏も軽量な194㎏という車重を実現しています。こうした軽量コンパクト化は運動性能を高め、スポーツ性が大きくアップしているはずです。
本革製の表皮を採用したシングルシートに跨り、ハンドルに手を添えると、まるでレーシングマシンに乗っているような前傾姿勢となります。現在はスーパースポーツモデルでも深い前傾姿勢とならないポジションに設定されていることが多いので、少しばかり前時代的な感覚を受けました。日常的に乗る、ツーリングに使うといった用途には向きません。

ポジションは前傾姿勢となるレーシーなもの。ステップ位置もかなり後退して高いのでやや窮屈感がある
シート高は810㎜で足つき性に問題はないが、前傾姿勢となるぶん、足が着けにくい
足を下ろしたときにステップが干渉しないのはうれしい
平均的な体格のライダーなら両足のつま先が着けられる

4,378,000円と高価であることに加えてかなり戦闘的なポジションなので、当初はビビりながらのスタートとなっていました。今回は市街地での試乗だったので、とにかくゴー&ストップが頻繁で、交通量も多かったので気を遣いました。しかし走りだして30分程度で感覚に徐々に慣れてきて、冷静に分析することができるようになってきました。

まず最初に感じたのが、圧倒的な軽さです。圧倒なんて表現するとやや大げさですが、ゴー&ストップを繰り返しているにもかかわらず、車体の重さをあまり感じなかったのです。リッタークラスのバイクで市街地を走るとその重量で疲労してきてしまうのですが、KB4にはそれを強く感じませんでした。前傾がきついポジションに関しては使いづらいと思いましたが、ニーグリップで意識的に腕の力を抜いてみると、負担は減りました。とはいうものの、決して快適なポジションじゃないのはたしかです。

ハンドリングの軽快さも市街地走行ではメリットだと感じました。サーキットやワインディング走行で真価を発揮するのは当然として、低速で扱うことが多い市街地でも軽快性は大きく生きてきます。たとえば1速で交差点を直角に曲がるといった状況では、一般的に車体の重さが気になるものですが、KB4はミドルクラスのバイクを扱っている感覚で向きを変えることができるのです。したがって市街地や一般道でも軽量コンパクトなボディと軽快なハンドリングは、走りやすさや扱う楽しさを実感させてくれるのです。

これだけレーシーなモデルだと、足回りの設定はハードなのではないだろうかと思っていたのですが、オーリンズ製の前後サスペンションは市街地走行の低荷重でもしっかり作動してくれ、シート自体の座り心地を除けば、乗り心地は意外なほど快適でした。作動性の良い前後サスも軽快なハンドリングに大きく貢献しています。今回は高速ワインディングを走行していないので明確なことはいえませんが、おそらく高荷重が掛かったときにも的確な減衰力が働き、優れたロードホールディング性を発揮するんじゃないかと思います。ブレンボ製の前後ブレーキも、スピードに関わらず高い制動力とコントロール性を発揮してくれました。

オーリンズ製TTX36リアショックユニットは、低速でも良好な作動性を見せてくれる
リアサスのプリロード調整は車体右側に取り回されたダイアルで簡単にできる
ステアリングダンパーもやはりオーリンズ製を装備する
オーリンズ製FG R&T 43 NIX30倒立フロントフォークを装備。高剛性と抜群の減衰特性を発揮する

予想外の扱いやすさを感じたのは軽快なハンドリングだけじゃありませんでした。ベースとなっているニンジャ1000SXの水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンは、スタンダードのまま搭載されているのです。なので走り出した瞬間から実感していたのですが、トルクフルでありながらもスムーズなパワーフィーリングが扱いやすく、クイックシフターのシフト操作などもとてもやりやすかったのです。またアシスト&スリッパークラッチもそのまま使われているので、レバー操作も軽くてラクです。

当然のことながら、ニンジャ1000SXに搭載されている電子制御システムもそのまま採用されています。高度な車体姿勢認識を行うIMU(慣性計測装置)を中心にKCMF(カワサキコーナリングマネジメントファンクションがKTRC(カワサキトラクションコントロール)、KIBS (カワサキインテリジェントアンチロックブレーキシステム)をコントロール。さらにフルパワー・ローパワーの2種類のモードから選択可能なパワーモードを搭載。そしてKTRC、パワーモードと連携する包括的なモードセレクト機能を採用し、トラクションコントロール、出力特性をスポーツ、ロード、レインの3種類から、走行条件に合わせて簡単に設定することができるようになっています。加えて、好みの設定が記憶可能なライダーモードも備えています。

長距離に及ぶ高速走行をサポートしてくれるエレクトロニッククルーズコントロールも搭載するなど、カワサキの技術とビモータの独創性を見事に融合させた結果、単に高性能なスペシャルモデルという枠にとどまらず、さまざまな領域でライダーフレンドリーな性能を発揮してくれるモデルに仕上がっています。現実的にユーザーとなれるライダーはごくわずかですが、多くのライダーに走る楽しさと所有する喜びを与えてくれるモデル。それがビモータKB4だと感じました。

ディテール解説

カウルをはじめとした外装パーツにはドライカーボンを多用し軽量化を図っている。LEDヘッドライトは丸形の1灯式で、少しばかりカフェレーサーのムードを漂わせる
イグニッションONでまずはビモータのロゴが表示される
装備するメーターは基本的にニンジャ1000SXと共通のフルカラーTFT液晶だ
19.5L容量の燃料タンクは、ニーグリップしやすい形状となっている。使用燃料は無鉛プレミアムだ
シングルシート仕様で、シート表皮には本革が使われている。テールカウル内には小物入れがあり、ETC車載器が収納できる
エンジンはニンジャ1000SXの1043㏄水冷DOHC4バルブ並列4気筒を搭載。電子制御システムもそのままフルに導入している
マフラーはニンジャ1000SXをそのまま使用。ただし独自のカーボンカバーをテールエンドに装着している
フロントブレーキはΦ320㎜ローターを採用したブレンボ製ダブルディスクを装備。リアもブレンボ製のΦ220㎜ディスクを装備する
高価なアルミ削り出しのパーツも随所に採用されていて、ステップやペダル類もそのひとつ。シフトはニンジャ1000SXのクイックシフターを採用
ラジエターはテールカウル下部に設置。フロントカウルのダクトからエアを導入する仕組みだ
左スイッチにはウインカーやハザード、ヘッドライト切り替えなど一般的なスイッチに加えて、モード切り替えやクルーズコントロールスイッチなどが並ぶ
右スイッチにはセル/キル併用スイッチのみ装備

主要諸元

モデル名:KB4
全長×全幅×全高:2,050mm×774mm×1,150mm
軸間距離:1,390mm
最低地上高:140mm
シート高:810mm(+/-8mm)
キャスター/トレール:24.0°/100.8mm
エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒 / DOHC 4バルブ
総排気量:1,043cm³
内径×行程/圧縮比:77.0mm×56.0mm/11.8:1
最大出力:104.5kW(142PS)/10,000rpm
最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/8,000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:バッテリ&コイル(トランジスタ点火)
潤滑方式:ウェットサンプ
エンジンオイル容量:4.0L
燃料供給方式:フューエルインジェクション
燃料タンク容量:19.5L
トランスミッション形式:常噛6段リターン
クラッチ形式:湿式多板
ギヤ・レシオ:
 1速:2.600(39/15)/2速:1.950(39/20)/3速:1.600(24/15)
 4速:1.389(25/18)/5速:1.238(26/21)/6速:1.107(31/28)
一次減速比/二次減速比:1.627(83/51)/2.733(41/15)
フレーム形式:トレリス
サスペンション:
 前|オーリンズ FG R&T 43 NIX30
 後|アルミ削り出しスイングアーム、オーリンズ TTX36
ホイールトラベル:
 前|130mm
 後|122mm
タイヤサイズ:
 前|120/70ZR17
 後|190/50ZR17
ホイールサイズ:
 前|17M/C×MT3.50
 後|17M/C×MT6.00
ブレーキ形式:
 前|デュアルディスク 320mm (外径)
 後|シングルディスク 220mm (外径)
車両重量:194kg
乗車定員:1名
生産国:イタリア共和国
メーカー希望小売価格:4,378,000円(本体価格 3,980,000円、消費税 398,000円)

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…