ミドル以上では貴重な「180度クランク」を吟味しながら、じっくりと走り込んでみた。|カワサキZ650RS 1000kmガチ試乗2/3

現代の定番になった270度や360度とは、似て非なる特性。伝統の180度クランクを採用するカワサキのミドルパラレルツインは、ライバル製とは一線を画する力強さや豪快さを味わわせてくれた。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

カワサキZ650RS……1,034,000円

Z650/ニンジャ650から継承したスチールトリレスフレームは、シートレールの角度を変更すると同時に1.5kgの軽量化を実現。24度のキャスター角と100mmのトレールはZ650/ニンジャ650と共通だが、ホイールベースは-5mmの1405mm。

世間の流行に迎合しない姿勢

 我ながら特殊な視点だと思うけれど、Z650RSで約1000kmを走る中で、僕の最大の関心事は180度のクランク位相角だった。その理由の前に、4スト並列2気筒のクランク位相角の傾向と変遷を記しておくと、大昔は低中回転域重視の360度が主力だったものの、1960年代以降は中高回転域でシャープな吹け上がりが実現できる180度が勢力を拡大し、近年のミドル以上のクラスでは、180度と360度のいいとこ取り的なキャラクターが構築しやすく、トラクションがわかりやすい270度が大勢を占めている(ただし250~500ccクラスは180度がほとんどで、カワサキのW650/800は往年のW1シリーズと同じ360度)。そんな中でカワサキの水冷ミドルパラレルツインは、世間の流行に迎合することなく、1985年型EN454/400に端を発する、伝統の180度を維持しているのだ。

EN454/400・GPZ500/400S系のエンジン透視図。現代のカワサキ650ccパラレルツインとは完全な別物だが、180度のクランク位相角は共通。

刺激的だが、ロングランには不向き?

 だからこそ今回の試乗で、僕はクランク位相角に注目したのである。そしてそういう意識で接してみたところ、やっぱり180度クランクの回転上昇のフィーリングは、360/270度とは異なっていた。と言ってもエンジン特性はクランク位相角だけで決まるものではなく、ボア×ストロークや吸排気系、カムシャフトなども多大な影響を及ぼすのだが、Z650RSを走らせていると、左右のピストンがお互いの振動を打ち消すように等間隔で交互に動く(ただし爆発は等間隔ではなく、0→180→720→900度で、偶力振動は発生)、バランスの良さがわかりやすく伝わって来る。

 もちろん、180度クランクが真価を発揮するのは中高回転域で、Z650RSはここぞいう場面でスロットルをワイドオープンすると、現代の定番になった270度や360度とは一線を画する、勢いと力強さを実感させてくれるのだ。誤解を恐れずに言うならその感触は、“豪快”と表現してもいいのかもしれない。いずれにしても、Z650RSのエンジンは刺激的で、僕はいろいろな場面で180度クランクの資質を満喫したのだが、このエンジンがロングランに向いているのかと言うと、それは賛否が分かれそうである。

 と言うのも、まず市街地やチマチマした峠道などで多用する低回転域の粘りでは、Z650RSは万全とは言い難いのだ。例えばギアを1段落とすかどうかで迷ったときに、270度や360度クランクのミドルツインならそのまま行ける状況でも、180度のZ650RSはそのままだとギクシャク、あるいは、思ったような加速が実現できなくて、シフトダウンが必要になりがち。また、スロットルの開閉が続く状況が楽しい一方で、一定開度でのまったり巡航がいまひとつ味気ないことも、見方によっては180度の欠点だろう。

 まあでも、そのあたりは乗り手の意識次第でどうとでもなる話なので、個人的にはマイナス要素ではなかった。そもそも、状況に適したギアの選択はライディングの楽しみのひとつだし、味気がいまひとつでも、Z650RSの移動は至って快適なのだから。ただし僕はこのバイクのエンジンを通して、近年のミドル以上のパラレルツインの多くが270度を採用する理由が、何となくわかった気がした。

どんな状況にも従順かつ柔軟に対応

 さて、エンジンの話がずいぶん長くなったが、一方の車体に対する印象はどうかと言うと、180度クランクのような特徴はなかったものの、第1回目で述べたようにソツがなかった。いや、この表現だと面白味に欠けるようだが、フレームや前後サスペンションやブレーキが、どんな状況でも従順かつ柔軟に対応してくれるので、乗り手としては余計なことを考えずに、ライディングに没頭できるのだ。

 ちなみに昨今のベーシックミドルでは、倒立式フォークや対向式4ピストンのフロントキャリパー(ラジアルマウント式も存在)、後輪の滑りを抑制するトラクションコントロールを採用する車両が増えているけれど、Z650RSのフォークは正立式、フロントキャリパーは片押し式2ピストンで、トラクションコントロールはナシ。もっとも車両全体がソツなくまとまっているからだろう、今回の試乗で僕がそれらに物足りなさを感じることはまったくなかった。

 ただし、Z650RSにいじる余地がないかと言うと、そんなことはない。僕がこのバイクのオーナーになったら、積載性を高める荷掛けフック/ボルトの追加や、運動性と乗り心地に磨きをかけるアフターマーケット製リアショックの導入を検討するだろうし、車体の上半分とのバランスを取るという意味で、マフラーはオーソドックスなスタイルに変更しそうである(ノーマルのショートマフラーは、アグレッシブなデザインのZ650/ニンジャ650と共通)。

 なお兄貴分のZ900RSと同様に、Z650RSも日本仕様はローシートを標準としている。だから僕はロングランでの快適性にはあまり期待していなかったのだが、欧州仕様のスタンダードとなるハイシートとの寸法差が少ないからだろうか(Z900RSは欧州:835mm/日本:800mmで、Z650RSは欧州820/日本:800mm)、1日で約500kmを走った際の尻の痛みはZ900RSより格段に少なかった。

兄弟車との価格差をどう感じるか

 今回のガチ1000km試乗を通して、Z650RSにかなりの好感を抱いた僕だが、よくよく考えると当原稿で述べた美点の大半は、このバイクの開発ベースにして基本設計を共有するZ650/ニンジャ650も同様なのである。しかも2台の兄弟車の価格は、Z650RSの103万4000円に対して、Z650:85万8000円、ニンジャ650:91万3000円(ただしZ650RSは、3年間の点検と3回のオイル&フィルター交換費用が無料となるカワサキケアを含んでの価格なので、車両本体は90万円台中盤だろう)。となると、Z650RSに割高なイメージを持つ人がいるかもしれないが……。

 往年の空冷Zシリーズを思わせるオーソドックスなルックスに加えて、Z650RSには大らかなライポジを実現するアップハンドルやタンデム意欲をそそるダブルシートが備わっているのだ。そのあたりに価値を見出す人なら割高という印象は持たないだろうし、以前からZ650/ニンジャ650に好感を抱いていた僕にとっては、第3のカワサキ製ミドルパラレルツインの登場は歓迎すべきことなのである。

前後ホイールはZ900RSと同様のワイヤースポーク風。フロントのサイズは兄貴分と同じ3.50×17だが、リアは専用設計の4.50×17(Z900RSは5.50×17)。

主要諸元

車名:Z650RS
型式:8BL-ER650M
全長×全幅×全高:2065mm×800mm×1115mm
軸間距離:1405mm
最低地上高:125mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:24°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:649cc
内径×行程:83.0mm×60.0mm
圧縮比:10.8
最高出力:50kW(68PS)/8000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/6700rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.437
 2速:1.714
 3速:1.333
 4速:1.111
 5速:0.965
 6速:0.851
1・2次減速比:2.095・3.066
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック正立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:299kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:12L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:31.8km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:23.0km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…