CRF 250 RALLY新車試乗記|オフ好きで旅好き。そんなライダーにおすすめしたくなる1台だ。|ホンダ

CRF250Lと同時に発表され、2023年1月26日から新発売された人気のデュアルパーパスモデル。かつてこのガテゴリーは4メーカーが揃う激戦区だったが、今や日本のメーカーがリリースするクォーターモデルとして貴重な存在になっている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO● 山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ・CRF 250 RALLY…….764,500円(消費税込み)

バリエーション

カラーリングはエクストリームレッドのみ。
サスペンションストロークを伸長した〈s〉も選択可能。

初代デビューは2017年2月だが、約2年さかのぼる2015年3月に開催された第31回大阪モーターサイクルショーで、CRF250 RALLYの原型と言える参考出品車が世界初公開されている。 その開発コンセプトには「ザ・ダカールレプリカ週末の冒険者へ」が掲げられ、実際のダカールラリー参戦マシンであった「CRF450 RALLY」のフォルムを彷彿とさせる堂々たる立派な存在感が注目を集めたのである。
CRF250Lと共に開発された事は間違いないが、高速クルージング時の快適性に貢献するフロントスクリーンを始め、ヘッドランプやメーターをフレームマウントとし、大容量燃料タンクと本格的な未舗装路走行にも対応するロングストロークサスペンションを備えたのがRALLYの特徴であった。
その後2020年12月にフルモデルチェンジ。軽量化の徹底や出力特性の増強を果たし、トータルバランスが一新された。そして今回の試乗車は平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合させた最新モデルである。外観や主要諸元に大きく変るところは無いが、お値段は本体価格で21,000円上昇し税込み価格は764,500 円に。カラーバリエーションは1種のみ。標準モデルはシート高の低い仕様で、ストロークの長いサスペンション車の〈s〉タイプも用意されている。
最新モデルの変更点として諸元値からわかる差は、車両重量が1kg増しの153kgに。燃料消費率が定地燃費で46から47.5km/Lへ向上。一方モード値では34.8から33.7km/Lへと低下。排出ガス規制の厳しさを物語っている。
ちなみにCRF250Lとの違いを如実に物語っているのは、車重とタンク容量である。車重はRALLYより12kgも軽い141kg。タンク容量はRALLYの12Lに対してCRF250Lは7.8L。
モード燃費率を乗算すると、航続距離は約263kmのCRF250Lに対して、同RALLY は約404kmになる。まさにアドベンチャーツアラーに相応しい仕上がりを誇っているのである。

アルミ鍛造製ボトムブリッジを組みあわせたスチール製のセミダブルクレードルフレームを採用。装着されるスイングアームはアルミ鋳造一体型。
水冷の単気筒エンジンはひとつのカムプロフィールがロッカーアームを介してふたつのバルブを駆動するDOHC4バルブ構造を採用。

ツアラーとしての性能は良好。しかもマディーな路面も対応可!

試乗車のRALLYはいわゆるアドベンチャー系のオンオフモデル。見るからに堂々と大きく実際のスケールも立派。それだけに、体格的にあまり大きくない筆者にとっては、足つきで苦労させられるだろうと、勝手にそう思い込んでいた。
しかしシートに跨がってみると意外な程に足付き性は抜群。軽量級である自分の体重でもすんなりとソフトに沈み込んでくれる前後サスペンションのおかげもあって、写真の様に両足はベッタリと楽に地面を捉えることができる。
スマートなフォルムを直感するCRF250Lと比較するとRALLYは見るからにボリューム感たっぷり。タンクの高さ(膨らみ)が顕著である。フロントからエンジン周辺がカウリング処理されたアドベンチャー風のスタイリングに冒険心が駆り立てられてくる。
乗った早々に見えてきたのは、結論にも通じることだが、多くの一般ユーザーにとってこの足付き性の良さがとてもありがたい。立派なフォルムの割に扱いやすく、ごく自然と安心感を覚える乗り味が好印象なのである。
ジャンプを含めて不整地路でガンガンにスポーツライディングを楽しみたい腕に自信のあるライダーなら、シート高880mmでも価値のある足(サスペンション)の長さを備えた〈s〉タイプに魅力を覚えることだろう。走りそのもののポテンシャルとスポーツ性の高さで選択するのならCRF250Lの方に優位性があるのも事実なのだ。
ただ、筆者も含めて一般ユーザーにとって多くのポピュラーなニーズを冷静に考慮すると、やはり標準タイプがお薦め。しかもRALLYの場合は、ランドスポーツを楽しむと言うより、長旅を楽しむに相応しい乗り味に魅力が感じられる。
      
車両重量は153kg。250ccの本格派オフロード系(デュアルパーパス)モデルとしては少し重いと感じられる。しかし航続距離の長いロングツアラーとしての使い勝手を考えると、その重さは快適な乗り心地を楽しむ上でむしろ価値がある。  
ひとつだけ気になったのは、ボリュームの増したタンク容量の関係か、タンク内で発生するガソリンの揺れがバイクのロール挙動に影響を及ぼしている。 バイクを引き起こした時に起きるタンク内の揺れが車体ロールに余韻を残すわけだ。慣れてしまえば対して気にすることもないが、峠道などでクィックに切り返すようなシーンでもそれ(ガソリンの揺れと余韻)が感じられてしまう。もっとも、落ち着きのあるツアラーモデルと割り切れば、それも些細な事として気にする必要は無いレベルである。むしろ落ち着いた走り方ではまるで気にならないしその安定した快適性が魅力的。
シートも幅にゆとりがあり、CRF250Lと比較すると座り心地が良い。ライディングポジションは、スポーツライクなもので、下半身の筋力をいつでも生かしやすく、尻への負担も少ないからロングランも苦にならないだろう。
サスペンションも実に良い仕事をしてくれロードホールディングが素晴らしい。多くは舗装路を走る事になる日本の道路環境下でも突然の凹凸に遭遇することはあるが、衝撃の緩衝性が優秀。前述の通り、腰を浮かすなどのアクティブな動きもしやすいので、何事もなく通過できてしまう。ロードスポーツ車とは比較にならない柔軟な走りっぷりには大きな魅力が感じられる事だろう。高速道路や峠道でも基本的に確かな直進安定性がある。フロントの細めな21インチ大径ホイールからもたらされる穏やかで落ち着いた乗り味もなかなか心地よいのである。
サスペンションが良く動くだけに、市街地では発進停止時にピッチング挙動が大きく感じられるだろうが、それもすぐに慣れると思う。ブレーキ(特に前)は、レバーストロークを生かした操作性が好印象。例えマディーな滑りやすい場面でも握りゴケなどで失敗させないような扱いやすさがある。

一方エンジンも柔軟な出力特性が発揮されていてとても扱いやすい。渋滞路をノロノロ進むシーンや林道をトコトトと散策するような時でも良く粘るトルクが発揮される。それでいて高速走行では素直に吹き上がる軽快なエンジンフィールが優秀。その気になれば10,000rpmを超える領域まで難なく伸びていく。
6速トップ100km/hクルージング中のエンジン回転数はメーター読みで6,000rpm(正確には99km/hで6,000rpmに到達)。120km/hなら7,000rpmを示すが、まだまだ上に余裕がある関係か、感覚的な騒がしさは少なく、パワーと快適性のレベルは十分な高さが感じられた。
ちなみにローギヤで5,000rpm回した時のスピードは22km/h。撮影試乗中の走行距離は約150kmで実用燃費率は満タン法計測で33.2km/Lだった。これにタンク容量を掛けると398.4km。一般的なツーリング用途なら、燃費率が伸びることは間違いないので、航続距離400kmは期待できると思う。まさにツアラーとして魅力ある仕上がりが印象深い。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

写真の通り足付きは驚くほど良い。サスペンションの沈み込みもあってオフロードブーツ着用ながら、膝に余裕を持って両足はべったりと地面を捉えことができた。多くの一般的ニーズに適応し、優れた使い勝手が発揮できる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…