【モントレー・カーウィーク】世界に1台の「ポルシェ 993 スピードスター」公開

タイプ993ベースのワンオフ車「911 スピードスター」が完成「ポルシェ社が自ら手がけた容赦ない仕上がり」

ルカ・トラッツィがオーダーした「ポルシェ 993 スピードスター」のエクステリア。
世界的建築家のルカ・トラッツィがポルシェのカスタマイズプログラム「ソンダーバーシュ」にオーダーした、ポルシェ 993 スピードスターがモントレー・カーウィークでお披露目された。
ポルシェのエンスージアストで、世界的建築家・工業デザイナーのルカ・トラッツィが、長年の夢だった「ポルシェ 993 スピードスター」を、完成させた。タイプ993をベースに製造された美しいスピードスターは、モントレー・カーウィークにおいて初公開されている。

Porsche 993 Speedster

正式販売されなかった933 スピードスター

ルカ・トラッツィがオーダーした「ポルシェ 993 スピードスター」のエクステリア。
あえて装備を簡略化したオープンスポーツ「スピードスター」は356、911ではタイプ930、タイプ964とカタログモデルとして販売されてきたが、タイプ993には設定されなかった。

1962年にイタリア・ヴェローナに生まれたルカ・トラッツィは、建築家・工業デザイナーとして活躍。イタリアの世界的建築家であるアルド・ロッシのもとで15年間腕を磨き、優れた建築家に与えられるカルロ・スカルパ賞を受賞した。現在はミラノと中国に拠点を持ち、様々な一流ブランドのデザインも手がけている。そんなトラッツィが、ポルシェ・エクスルーシブ・マニュファクチャーが展開するカスタマイズプログラム「ソンダーバーシュ(Sonderwunsch:スペシャルリクエスト)」を介して、自身の夢だった911 スピードスターを手にした。

1954年以来、低く抑えられたウインドスクリーンと、専用のリヤリッドがを持つスピードスターは、ポルシェの歴史の一部となってきた。しかし、911 スピードスターにはいくつか空白がある。タイプ964までポルシェはスピードスターを販売してきたが、タイプ993は、2台の公式ワンオフモデルが存在するものの、スピードスターはカタログモデルとして販売されいない。

そのため、トラッツィが所有するスピードスターコレクションには、タイプ993の911 スピードスターが欠けていた。「当初、あちこち見て回ったのですが、理想の1台は見つかりませんでした。だから、自分で作ることにしたんです(笑)」と、トラッツィは明かす。 そう、彼はフェリー・ポルシェの伝説的な言葉を実現させたのである。彼はただ夢を見るのではなく、行動を起こしたという訳だ。

世界有数のスピードスターコレクター

く、行動を起こしたという訳だ。

建築家として活躍するルカ・トラッツィは、少年の日に出会った1955年製の356 スピードスター 1600 スーパーに夢中になり、現在では世界有数のスピードスター・コレクターとなっている。写真はモントレー・カーウィークにおいて、愛犬のオットーと。
建築家として活躍するルカ・トラッツィは、少年の日に出会った1955年製の356 スピードスター 1600 スーパーに夢中になり、現在では世界有数のスピードスター・コレクターとして名を馳せる。写真はモントレー・カーウィークにおいて愛犬のオットーと。

トラッツィは、自身のプロジェクトを実現するべく、ポルシェのソンダーバーシュ・チームに依頼。ポルシェのスペシャリストたちとともに、夢のクルマを完成させた。ベースとなったのは1994年製「911 カレラ カブリオレ(タイプ993)」、3年以上の歳月をかけてワンオフカーを製作。特徴的なリヤリッドを持つこの2シーターは、技術面にも改良が施され、カリフォルニアで開催された2024年のモントレー・カーウィークにおいて、世界初公開された。

「少年だった私は、ポルシェ スピードスターに夢中になりました。1955年製の356 スピードスター 1600 スーパーです。以来、私は自分の情熱……正確にはスピードスターマニアとして生きてきました」とトラッツィ。

「私の夢は、タイプ993の911 スピードスターを加えて、コレクションを完成させること。すべての情熱をかけて、このモデルのエクステリアをデザインしました。今回のプロジェクトでは、これまでのスピードスター全モデルのスタイルに統一性を持たせたかったのです。スピードスターはその歴史の中で発展を続けてきましたが、先代のエレガンスを保ち、その起源に忠実であり続けたからです」

「911 スピードスターは、広範囲に及ぶモディファイが施された、ポルシェ初のカスタマー向けファクトリーワンオフモデルです。1994年に製造された993をベースに、ソンダーバーシュ・プログラムによる無限の可能性を示せたと考えています」と、インディビジュアライゼーション&クラシック担当副社長のアレクサンダー・ファビッヒは説明する。

オットー・イエローのボディカラー

ルカ・トラッツィがオーダーした「ポルシェ 993 スピードスター」のエクステリア。
新車と同じ工程でペイントされたボディカラーは、トラッツィのために調色された「オットー・イエロー」をチョイス。この美しいイエローは、愛犬の名前にちなんで命名されている。

933 スピードスター・プロジェクトのディレクターを務めたグラント・ラーソンは、「プロのデザイナーであるルカとのプロジェクトは、私にとっても非常にエキサイティングな経験となりました。彼と私たちは共通のバックボーンを持つので、コラボレーションはクリエイティブで集中した時間になりました」と振り返る。

今回のプロジェクトでは、スピードスターの歴史を深く掘り下げ、さらなるアイデアを生み出すため、ポルシェが所有する膨大なアーカイブにアクセスすることから始まった。トラッツィは最初のミーティングに、下書きやスケッチがたくさん詰まったプロジェクトブックと、どのようなスピードスターを求めているかについて、非常に明確なアイデアを携えてきたという。

製作期間中、トラッツィは何度もポルシェ本社を訪れ、プロジェクトのために特別な社内IDを発行されることになったという。993 スピードスターの塗装工程も、ファクトリーのペイントショップで見守っている。この作業は、通常の生産工程では新車にしか行われていない。ボディカラーに選ばれた美しいイエローは、ルミナスイエローをベースに、トラッツィのため特別に調色。トラッツィは完成したイエローに、彼の愛犬から「オットー・イエロー(Otto Yellow)」と命名している。

トラッツィが手がけたリヤリッド

ルカ・トラッツィがオーダーした「ポルシェ 993 スピードスター」の製作過程。
スピードスターの重要なデザイン要素となる、リヤリッドのデザインは、トラッツィ自身が手がけたデザインスケッチをベースに製作された。

リヤリッドとウィンドスクリーンは、スピードスターの典型的なデザイン要素。993 スピードスターのリヤのボディワークラインはトラッツィ自身がデザインを手掛けており、細いブラックのフレームが加えられた。さらに印象的な特徴として、1960年代のクラシカルなフォルムを踏襲したブラックの円錐形バックミラーと、最新世代のポルシェから4点式デイタイム・ランニング・ライトも導入されている。

ターボデザインの18インチ軽量アロイホイールはブラックにペイント。フィンラインはコントラストカラーのイエローがチョイスされた。リヤホイールに装着されたブラックのストーン・チップ・プロテクションシートは、他の世代のスピードスターにも見られる印象的な装備だ。こちらもブラックのドアハンドルやフロントスポイラーのエアインテークと美しく調和する。

さらに、911 ターボ(タイプ993)のフロントスポイラー、サイドスカート、リヤフェンダーをモチーフにしたスポーティなエクステリアも導入された。

イエローとブラックを組み合わせたインテリア

ルカ・トラッツィがオーダーした「ポルシェ 993 スピードスター」のインテリア。
インテリアはイエローとブラックが組み合わせられ、シートセンターにはイエローとブラックのチェックパターンがチョイスされた。

インテリアはブラックレザーにイエローのトリムステッチの組み合わせ。ヘッドレストには「Speedster」ロゴが刺繍された。インテリアのハイライトとなるのが、イエローとブラックのチェックパターンをあしらったシートセンター。すべてのチェックはハンドメイドで仕立てられ、縫製されている。レザー張りのフロントラゲッジ・コンパートメント、カーカバー、ツーリングバッグにも同じイエローとブラックのチェック柄があしらわれた。

ダッシュボード、センターコンソール、ハンドブレーキ、シフトレバーにはカーボンファイバー製エレメントをチョイス。シートバックもカーボンファイバー製となり、ファクトリー製のタイプ993としては初めてドアシルトリムにもカーボンファイバーが奢られた。ドアシルは「オットー・イエロー」のアンビエントライトで照らされる。

コクピットには、最新のナビゲーションシステムと「Apple CarPlay」を備えたインフォテインメントシステム「ポルシェ・クラシック・コミュニケーション・マネージメント(PCCM)」を搭載。ポルシェ・クラシックが開発したディスプレイ付きデバイスは、スタート画面もトラッツィのための専用デザインが導入されている。

パワーウインドウのスイッチは、スピードスターの典型的なサイドセクションをイメージしたデザインに変更。ダッシュボードには金メッキを施した「One-off」バッジが装着され、この車両の希少性をアピールする。

エンジン、シャシー、ステアリング、ブレーキシステムは、911 カレラ RS(タイプ993)のコンポーネントを流用。3.8リッター空冷水平対向6気筒ユニットは、当時最高出力300PS(221kW)を発揮する、ポルシェの最強エンジンだった。

1974年に市販モデル初のターボモデルとして、世界中に大きなインパクトを与えることになったポルシェ 911 ターボ。以来、50年を経て、ターボは本来の意味を超えて使用されるようになった。

「ポルシェ 911 ターボ」デビュー50周年の節目に今やEVにも使われる“ターボ”のネーミングの意味を考える

1974年に発表したポルシェ初のターボ搭載量産スポーツカー「911 ターボ」。以降50年間、ターボという言葉はポルシェにおいてエキサイティングな変貌を遂げている。本来の意味でのターボチャージャーテクノロジーはもちろん、大型化されたリヤスポイラーを備えたターボルック、そして現在ではEVにも「ターボ」の名称が使われるようになった。それらのエピソードをまとめた。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…