新型「メルセデスAMG GT 63」を「ポルシェ911」「BMW M8」と比較試乗

新型「メルセデスAMG GT 63」を「ポルシェ911」や「BMW M8」とスポーツカー同士で比較試乗

日本に導入されたばかりの新型「AMG GT 63クーペ」を今回は公道上でライバルとの比較試乗を敢行。SLとの基本コンポーネンツ共用化でキャラクターはどう変わったのか。また大幅な価格上昇に見合う価値はどのあたりにあるのだろう? 同じアウトバーン育ちのスポーツカー2台を連れ出し、考察してみよう。(GENROQ 2024年8月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG GT 63 4Matic+ Coupe
BMW M8 Competition Coupe
Porsche 911 Carrera T

先代AMG GT Rを凌ぐハイパフォーマンス

新たにSLと基本コンポーネンツを共有する形で登場した新型AMG GT。軽量さを売りのひとつにしていた先代とは異なり、新型は前後可変トルク配分が可能な4WDシステム、油圧によってロールを制御するアクティブサスペンション、俊敏さと安定性を両立する後輪操舵機構など、向上したパワーをハイテクで御す姿勢が窺える。インテリアもSLに準じ、先代よりラグジュアリーな雰囲気に。基本は2シーター、リヤシートは無償オプションで、装着すると車重が130kg増加する。
走行モードは「AMGダイナミックセレクト」と呼ばれ、「スリッパリー(滑りやすい路面)」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「レース」「インディビジュアル」の6モードとなる。

AMGのフラッグシップモデルであり、世界屈指のGTカーでもある「AMG GT」が第2世代へとそのコマを進めたのは昨年のこと。そしてようやくこれが日本上陸を果たし、試乗の機会に恵まれた。グレードは通常ラインの中で最もハイパフォーマンスな「GT 63 4MATIC+ Coupe」だ。

そしてこの実力を推し量るために本誌では、「BMW M8 クーペ コンペティション」と「ポルシェ 911 カレラT」を用意した。ポルシェの選択は本来911ターボあたりが妥当だが、広報車の都合でこれを選べなかったことをまずお断りしておこう。とはいえ911Tでも試乗車のようにオプションを盛れば2200万円程度まで価格は跳ね上がるし、AMG GT63と比べたらリーズナブルな1台として、その比較はかなり興味深かったから、ぜひそのまま読み進めて欲しい。

ということでまずAMG GT63の概要からお伝えすると、そのプラットフォームは今回から、同じくAMGがいちから造り上げた「SL」と共用となった。ボディサイズは全長4730×全幅1985×全高1355mmと先代よりひと周り大きくなったが、実車は予想よりも絞り込みが効いていて、間延び感がなく美しい。これは同時にホイールベースを2700mmまで延長した結果だろう。リヤには積載スペースが儲けられ、さらにオプションでシートを装着できるようになった。ただしそこには「身長150cmまでを推奨」という注釈があり、実際は荷物置きだ。試しに座ってみたものの首が“くの字”になって、大人が座れる代物ではなかった。とはいえこの“人の座れないシート”を持つことこそが市場で有効なのは、ライバルである911がその歴史で証明している。生真面目なメルセデスも、ようやくそこに納得するに至ったのだろう。

さてそのロングノーズに搭載されるエンジンは、同じ4.0リッターV型8気筒ツインターボでも先代のM178とは違い、“63系”に広く搭載される「M177」ユニットとなった。しかしその最高出力は先代GT Rと同等の585PSにまで高められており、エンジン回転にしてわずか2500rpmから発揮される800Nmの最大トルクを受け止めるべく、駆動方式は遂に「AMG 4MATIC+」となった。変速は9段のギヤを持つスピードシフトMCTだ。なお、476PS/700Nmの「GT55」は、今のところ導入されないようだ。

AMGの63系モデルに幅広く搭載される4.0リッターV8ツインターボは、サーキット走行に耐えるべくおもに冷却系を中心にリファイン。スペックは585PS/5500~6500rpm、800Nm/2500~5000rpm。
AMGの63系モデルに幅広く搭載される4.0リッターV8ツインターボは、サーキット走行に耐えるべくおもに冷却系を中心にリファイン。スペックは585PS/5500~6500rpm、800Nm/2500~5000rpm。

そんなGT63クーペの乗り味は、簡潔にいえばただただ完成されていた。その背後に新型GT Rが控えるからか、はたまた時代の流れか。端的に乗り心地が洗練されていたのだが、それが安易なラグジュアリーに陥らず、スポーツカーの高い質感として表現されていたところがいかにもAMGらしかった。フロントに295、リヤには305幅の30扁平21インチタイヤを履くだけに微低速域では多少突き上げる。しかしその入力は素早く減衰され、ドライバーにはボディや駆動系の剛性感として跳ね返って来るのだ。走行モードについては、柔らかさだけを取ればコンフォートモードだが、ボディ全体の動きも含めれば日常でもスポーツモードがベスト。ここから考えてもAMG GT63は、れっきとしたGTスポーツである。

より官能的なM8のV8ツインターボ

現在、スポーツ系BMWの最高峰として君臨するM8コンペティション。625PS/750Nmを路面に伝えるのはこちらもAWDで、搭載される「M xドライブ」はFRの俊敏性を重視しつつ、いざというときには4WDで安定性を担保する味付け。リヤにはアクティブデフも組み込まれる。インテリアはこちらもラグジュアリーな仕立て。試乗車のカーボンセラミックブレーキ、カーボン製エクステリアパーツはオプションで、それぞれ120万5000円、73万9000円。
「Mモード」による「ロード」「スポーツ」「トラック」の走行モードに加え、エンジンや足まわりを個別にセッティング、ステアリング上の「M1」「M2」ボタンにメモリー。瞬時に呼び出すことができる機能も。

対してM8クーペ・コンペティションは、そのしなやかなサスペンションセッティングが、日常領域で20インチタイヤの硬さを抑え切れていないのが惜しい。ただ911カレラTも同じ傾向であることを鑑みると、そこはタイヤ銘柄の影響が大きいかもしれない。ともあれ一番新しいシャシーを持つGT63クーペが、一番質感の高い乗り味を呈していた。

そしてアクセル開度を深めて行くと、各車が一気にその個性を主張し始める。GT63クーペのM177ユニットは、どこまでもクールだ。1気筒あたり500ccを切るシリンダー容積と、Vバンク内に2つのタービンを収める“ホットV”形式の過給レスポンスが連携し、4.0リッターの排気量を持つV8をフラットに回しきる。モードを上げるごとに排気音は派手さを増すが、芯で鳴るメカニカルノイズは実にクリーンだ。

一方バイエルン製のV8ツインターボは、正反対のエモさだ。常用域では吸気音をボロボロと荒っぽく撒き散らしているが、オルガンペダルを踏み込んで行けばその音色が“カーン”と澄んで行く。クロスプレーンクランクを用いながらも排気管を交差させることでタービンに等間隔に排気を誘導したその過給レスポンスは極めてリニアであり、GT63より400cc多い排気量を軽々と回す。

2つのV8に混ざった水平対向6気筒ターボは、3.0リッターという排気量と385PSの出力で確かに迫力負けする。しかしながらひと回り以上小さなボディと、リヤエンジンのトラクション、高回転になるほど金属感が増すボクサーユニットのビート感はやはり心地良い。そしてこれが911ターボならば、さらなるパワー感と質感を添えたはずである。

AMG GT 63とは真逆のスポーツ性を持つ911

ベーシックなカレラと高性能版カレラSの中間に位置するカレラT。「T」はツーリングを意味し、遮音材やリヤシートを省略するとともにスポーツサスペンションやスポーツクロノパッケージ、トルクベクタリングシステムなど、通常はオプションとなる走りのメカニズムを標準装備、ピュアにスポーツ性を追求している。試乗車は後輪操舵システム(37万5000円)やスポーツデザインパッケージ(67万2000円)をオプション装着した個体だった。
走行モードは「ウェット」「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」「インディビジュアル」の5種類。中央のタッチパネルに加え、ステアリング上の円形ダイヤルでも操作できる。

個性溢れるパワーユニットを迎え撃つシャシーには、さらに各メーカーの性格が色濃く反映されている。

現行モデルで遂にフルタイム4WDとなったGT63クーペだが、オープンロードの荷重領域ではその片鱗すら見せない。もちろんトルクは微妙にフロントへスプリットされているはずだが、運転感覚としては実によくできたFRスポーツのハンドリング。むしろ4WDの後ろ盾を得たことで、シャシーセッティングがより素直になったとさえ感じられる。

M8のコーナリングはそのさらに上を行く軽さが特徴的で、突き抜けたエンジンのキャラクターがそこにトーンを合わせて来る。ただここまでの速さがあるなら、スポーツ+を選んだ際はレーシングモデルばりに減衰力を高めてもよいと思う。もちろんBMWがそれをしないのはこのシステムと足まわりに絶対の自信を持っているからだが、少しそこにこだわり過ぎている感もあり、個人的にはもう少しだけ安心感が欲しくなる。とはいえこのヒリヒリ感こそが625PSを発揮するM8“コンペティション”の魅力であり、つまりはBMWというメイクスの本性である。

圧倒的なパワー&トルクをいかに御するか。その方向性で個性をぶつけ合う2台に対して、911カレラTは予想通りの“踏める”1台だった。GT63クーペと比べて395kgも軽い車重は、十二分にパワー不足を補う。素早く立ち上がるコーナリングパワーに対しては、その足まわりがガッシリとロールを抑える。

ただしその曲がりやすさは、残念ながら天然ではない。GT63クーペと同じくリヤステア(オプション)を用いてターンインのしやすさを得ているからだ。そして制御の洗練度合いでいえば、少しだけAMGの方が自然だと感じた。とはいえ未だに7速MTを用意するあたり、やっぱりポルシェはわかっている。だからスペック的には遙かに劣っていてもクルマとの一体感が高く、まったくネガティブを感じない。

古典的な様式美を、最新のモードで

右から、BMW M8コンペティション、ポルシェ911カレラT、メルセデスAMG GT 63。
右から、BMW M8コンペティション、ポルシェ911カレラT、メルセデスAMG GT 63。

さて、今回2台の超個性派と比較することでみえてきたAMG GT63 4MATIC+ Coupeの魅力とは何か? それは誰もが思い描く古典的なスポーツカーを極めてスマートに味わえることだろう。

ロングノーズ・ショートデッキの美しいボディに大排気量V8エンジンをブチ込み、しかしながら普段は涼しい顔でこれを走らせる。そしていざ鞭打てば、高いスタビリティを下敷きに素晴らしい走りをたっぷりと楽しむことができる。

BMWはこうした古典的な様式美から脱却すべく、そのデザインに新しさを盛り込んで行った。かつそのハンドリングやエンジンパフォーマンスに、己の個性をより際立たせた。

だがより一般的な裕福層にとっては、そうしたこだわりよりも極めてベタな様式美を快適に、そして現代的に楽しむことの方がわかりやすいのだと思う。クルマ好きとしてそれは軟弱か? いやGT63クーペでここまでの出来映えを見せつけられたら、それはもう素直に、スポーツカーの古典を楽しむべきだと思う。

対してポルシェは911というスポーツカーにどこまでも生真面目にドライビングプレジャーを込め続けており、それがもはや市場ではアイコンになっている。しかし逆を言えば、彼らはリヤエンジンの走りと911らしい形を、いつまでも捨てられないというジレンマがある。

こうした中でメルセデスは、いち早く次のステージへと歩き出している。C63が4気筒ターボで電動化を推し進めたように、時代が求めるニーズをうまくつかんでいる。しかしそれが全く軽薄にならないのは、やはりAMGという集団が、根っこでクルマを愛しているからなのだろう。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 8月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG GT 63 4マティック・プラス クーペ

ボディサイズ:全長4730 全幅1985 全高1355mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前5リンク 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前295/30R21 後305/30R21
最高速度:315km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2750万円

ポルシェ911カレラT

ボディサイズ:全長4530 全幅1852 全高1293mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1545kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
最高出力:283kW(385PS)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1950-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR20 後305/30ZR21
最高速度:291km/h
0-100km/h加速:4.5秒
車両本体価格:1757万円

BMW M8 コンペティション・クーペ

ボディサイズ:全長4870 全幅1905 全高1360mm
ホイールベース:2825mm
車両重量:1910kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:4394cc
最高出力:460kW(625PS)/6000rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1800-5860rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーント 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R20 後285/35R20
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:3.2秒
車両本体価格:2526万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…