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Czinger
まるで生き物のように有機的なハイパーカー
カーボンモノコック、自製のV8ツインターボエンジン、前輪を2基のモーターで駆動する4WD、タンデム2人乗り、最高出力1250PSでパワーウェイトレシオは0.99kg/PS……。そんな常識破りのスペックを持つ「ジンガー 21C」が発表されたのは2020年のこと。80台が限定生産される同モデルは先ごろ量産車のデリバリーが始まったばかりだが、モントレー・カーウィークの「ザ・クエイル、モータースポーツ・ギャザリング」で創業者かつCEOのケビン・ジンガーにインタビューできたので、その模様をお届けしよう。
「アナタは日本からいらっしゃったのですか?」ジンガーはまず、私にそう問いかけてきた。「実は私、日本の文化の大ファンなんです。日本には素晴らしいコンセプトがたくさんありますね。私も歳をとってきて、ワビサビの魅力がだいぶわかってきました。それに、着ているものはすべてヒロシ・カトー(ロサンジェルスを拠点とするファッションブランド)の作品です。彼が使う素材は素晴らしいし、ディテールのこだわりようも完璧。本当に日本のものを愛しています」
そう矢継ぎ早に語るジンガーに、C21の魅力を語ってもらった。「すべて私と息子のルーカスが作り上げたテクノロジーです。金属製のパーツは、どれも日本的な美しさを再現したもので、その形状はスーパーコンピューターやAIを用いて生み出しました。機械で作った形なのに、まるで生き物のように有機的な形をしているのが特徴です。こうしたパーツは、イギリス、イタリア、ドイツなどのスポーツカーメーカーにも供給しています」
自社開発・生産される2.88リッターV8ツインターボエンジン
パワートレインも独創的だ。「排気量2.88リッターV8ツインターボエンジンは私たちの会社で開発し、生産されるもので、クランクシャフトはフラットプレーンを用いています。そのクランクシャフトにはギア駆動で発電機が接続されている(これとは別に後輪をメカニカルに駆動する)ほか、フロントには左右輪を個別に駆動するモーターを搭載。これらに電力を供給する高性能バッテリーもフロントにふたつ搭載しています。いずれも小型軽量でエネルギー密度は高く、セルにはF1の技術を用いています。このふたつのモーターでトルクベクタリングを実現しました」
ダウンフォース・レベルもすさまじい。「200mph(約320km/h)で5000ポンド(約2270kg)のダウンフォースを生み出します。ただし、車高はオートマチックで変更できるので、公道走行も可能です。たとえば、この21Cに乗ったままイン・アンド・アウト(アメリカ西海岸で有名なハンバーガーショップ)に行ってハンバーガーを買い、それを食べながらサーキットに向かう。そしてサーキットでスポーツ走行を楽しんだら、また21Cでウチまで帰る。そんな遊び方ができるクルマなんです」
では、21Cはどんなドライビングフィールを味あわせてくれるのだろう?「ちょっと想像してみてください。自分が、動物のチーターになったらどんな気分か。チーターが全速力で走っている。そのときチーターが感じていることを、あなた自身も体験できるのです」
イメージしたのはバウハウスのデザイン
もちろん、21Cが速いのはストレートだけではない。「コーナーでは5000ポンドのダウンフォースでクルマをコースに押しつけるので、まるで路面に接着剤で貼り付けられたみたいなコーナリングですよ」
それにしても、センターステアリングを採用しただけでなく、パッセンジャーをドライバーの真後ろに腰掛けさせるタンデム・シーティングのレイアウトも、実にユニークなコンセプトだ。「ドライバーがセンターに座るのは当然のことです。じゃあ、パッセンジャーはどこに座らせるのが空力学的に正しい? 真後ろに座らせれば前面投影面積が最小にできる。そして、これを前提としてシミュレーションを行ない、ボディ上面やアンダーフロアの形状を決めました」
美しい仕上がりとデザインも、ジンガーのこだわりのひとつだ。「ごちゃごちゃしたデザインが好きな人もいますが、私はミニマルな美しさに魅力を感じます。21Cをデザインしたときにイメージしたのはバウハウスのデザインです。プロポーションが良ければ、デコレーションは要りません。この、まるでひと筆書きで描いたかのようなシンプルなラインを、私は本当に美しいと思っています」
2週間でふたつの記録を更新
なかでも、特にジンガーが気に入っているのがウィンドウスクリーンの曲線だという。「これは機械で作り出したラインではなく、私が手で描いたものです。だから、そこに有機的な温かさが生まれる。こういう美しさが、私は大好きなんです」
このインタビューを行なう直前、21Cはグッドウッドのヒルクライムコースとアメリカ・オースティンのサーキット・オブ・ジ・アメリカ(COTA)で量産車の最速記録を塗り替えたという(編注:さらにこのインタビュー後にラグナセカの記録も更新した)。
「2週間でふたつの記録を更新しました。しかも、私と息子が生み出したテクノロジーで。たとえばダンパーのように外部のサプライヤーに生産してもらっているパーツもありますが、ほとんどのパーツは私たち自身が設計し、私たち自身の手で生産しています。従業員はすでに500人ほどおります。この、素晴らしい21Cを是非、日本のカスタマーにもお買い求めいただきたいと考えています」
なお、日本におけるジンガーの販売はスカイグループの手で行なわれる見通しだ。
PHOTO/大谷達也(Tatsuya OTANI)