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この統合の意味とは?
2024年12月23日、ホンダと日産が経営統合に向けて正式に協議に入ることが発表された。ホンダによる日産の救済とか、日産買収を狙う鴻海の動きを食い止めるために経産省が動いたとか、様々な噂や憶測が跋扈しているが、現在判明している事実に基づいてこの統合の意味について考えていきたい。
まず経営危機に陥っている日産をホンダが救済することが目的とする論調が目立つが、この発表会では、経営統合は日産の救済が目的ではなく日産の経営建て直しが統合の前提ということが明言されている。つまり日産の経営が傾いたままなら統合はなしということだ。それでは何のために統合するのか。発表会の資料には統合によるシナジー効果が列記されているが、どれもごく当たり前のものであり、具体的に突っ込んだ検討が成されているようには見えない。つまり「統合に向けて協議が始まった」だけであって、どのように統合を進めるのかは両社経営陣にもまだ明確なビジョンはないように思える。
事実上の一択
しかし経営危機にある日産は当然のこととして、現状順調に推移しているホンダにも将来に対する不安があることは間違いないだろう。車の電動化・知能化が進むといわれており、実際その方向で進むのは間違いないとしても、そのペースは全くわからない。数年前は2030年代半ばにはほとんどの車がBEV化すると言われていたが、たった数年でその見通しはかなり怪しくなってきている。当分の間は内燃機関とHEV/PHEVとBEVのすべての開発を並行させなければならないことはほぼ確実で、ADASなどを統合的に制御するソフトウェアの開発も必須だ。つまり開発のために膨大な資金が必要で、開発できなければ生き残ることが出来ないのである。
現在日本には8社の乗用車メーカーがあるが、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキは強弱に違いはあれトヨタと関係を持ったグループとなっている。つまりトヨタとの関係がないのがホンダ、日産、三菱なのである。日産と三菱は資本関係があるから、完全に独立しているのはホンダだけということになる。ホンダは現在年間400万台強の規模で世界7位だが、上位5社(トヨタ、フォルクスワーゲングループ、ヒョンデグループ、ステランティス、GM)とは明確な差がある。
ホンダより小さいメーカーはプレミアムブランドか上位メーカーと提携しているメーカーがほとんどだ。マスブランドとして生き残るためにはより大きな規模を求めざるを得ないが、より大きなグループの傘下に入ることは絶対に避けたい。そう考えたとすると提携先の選択肢は極めて少ない。中国メーカーを除いて考えれば、それなりの規模のあるマスブランドのメーカーとしては日産とルノーくらいしか選択肢はなく、ルノーはフランスの半国営企業だから事実上日産一択なのだ。
シナジーはあり得るか
日産としてもルノーの呪縛からようやく脱することができたわけで、経営危機がなかったとしても新たな提携先が必要なことは明確だ。このようにホンダと日産はそれ以外に選択肢はないという状態に置かれていたとも言える。より小規模な三菱もこの統合に参加する以外に選択肢はないだろう。
それではホンダと日産の経営統合によるシナジーはあり得るのか。カルロス・ゴーンは両社には重複する部分が多く成功するとは思えないというコメントを残している。確かに2社とも地域的には北米と日本で過半を占め、ヨーロッパと中国では弱いという共通性がある。車種ラインアップでも小型~中型の大衆車がそのほとんどを占めることも共通だ。生産地域も北米が半分弱で日本と中国がそれぞれ2割程度、残りはアジアという構成も似ている。その意味ではゴーンの指摘は正しいだろう。ルノーと日産のような地域補完性はない。
しかし一方で同じエリアでそれぞれが相当数の販売を維持できているとも言える。少なくとも日本では日産ファンとホンダファンでは嗜好性が違うように感じられる。程度の違いはあっても、数を売っているエリアではそのような傾向があるのではないか。となれば、プラットフォームの統合や工場の整理統合などで効率化ができれば、統合ベネフィットは双方にあると思われる。
肝要は差別化
一番避けなければいけないのは両ブランドの個性が薄れてしまうことだ。プジョーがシトロエンを統合したPSAも共通化をすすめたせいでシトロエンブランドの個性が薄れてしまった。プラットフォームやドライブトレインの共通化は進まざるを得ないだろうから、技術的な差別化は難しくなる。そうなると、デザインや乗り味など、感性領域での差別化こそが肝要になってくる。
ホンダも日産も、今までは技術で差別化し、支持されてきたてきたブランドだが、これからはブランドによる差別化が重要になるだろう。性能や機能を越えたところにある、どのような価値を顧客に提供するのかという、長期視点に立ったブランド戦略をきちんと構築する必要があると思う。