新フラッグシップ「C5 X」に試乗してシトロエンの本懐に触れる

シトロエンの新たなるフラッグシップ「C5 X」はあの頃の偉ぶらないシトロエンを絶妙に体現

ボディサイズはDセグメントの体格だが、ワゴンともSUVとも言える独特のデザインのせいか、寸法よりも小さく見える。
ボディサイズはDセグメントの体格だが、ワゴンともSUVとも言える独特のデザインのせいか、寸法よりも小さく見える。
シトロエンの新たなフラッグシップ、C5 X。SUVとクーペとワゴンが融合したような個性的なフォルムは、いかにもシトロエンらしい。アヴァンギャルドな雰囲気と極上の乗り心地、そして先進の装備を備えたDセグメントの新たな選択肢の登場だ。

Citroen C5 X

シトロエンにとってXの意味は

シトロエンと聞くと、ちょっとフワフワと浮遊したような柔らかな足まわりと、それに合わせたかのようなたおやかなステアリングフィールを期待してしまう。

DSラインの登場以降、コンパクトなモデルに特化していたシトロエンにとって、C5 Xは久しぶりのフラッグシップと呼べる存在だ。XはクロスオーバーのXでもあるが、どちらかと言うとCXやエグザンティア(Xantia)などのXを受け継ぐ意味があるという。

全長4805mm、全幅1865mmというボディサイズはDセグメントの体格だが、ワゴンともSUVとも言える独特のデザインのせいか、寸法よりも小さく見える。必要以上に偉ぶらないところは、いかにもシトロエンらしい哲学だろう。19インチという比較的大径のタイヤで最低地上高は165mm、フェンダーモールなどSUV的要素を採り入れながらスタイリッシュにまとめるのは昨今のトレンドだが、よく見るとかつてのBXにも似た雰囲気を感じさせるから、むしろシトロエンが時代を先取りしていたということか。

モダン邸宅の如きインテリア

インテリアもシトロエンらしい雰囲気に溢れたもの。上下が潰れた変形ステアリングやすべてがスイッチでフラットなセンターコンソール、12インチのタッチスクリーン、もちろんメーターはフルLCDパネルだ。音声による各種操作も可能だが、エアコンはちゃんと独立した操作パネルを設けているところは好感が持てる。センターからドアまで回り込むパネルは独特の質感で、まるでフランスのモダン邸宅に招かれたよう。よく見るとここにもダブルシェブロンのV模様が描かれている。

シートがまた良い。表層部に15mmの柔らかなスポンジを使っているということで、それこそソファのようなしっとりした座り心地。しかしベースには高密度の低反発ウレタンを使用しているので芯はしっかりと身体を受け止める。これはぜひともロングドライブも試してみたいものだ。

独特の浮遊感を再現

エンジンはお馴染みの1.6リッター4気筒ターボで出力は180ps/250Nm。これにアイシン製の8速ATを組み合わせる。さらにC5 XはPHVという隠し球も用意された。こちらは110ps/320Nmのモーターが加わってトータル225ps/360Nmを発揮する。バッテリーは12.4kWhで、65kmのモーター走行を可能にするという。残念ながらPHVは導入が先となるようで、今回はガソリンモデル(シャイン・パック)のみの試乗となった。

我々クルマ業界の人間は、シトロエンと聞くだけで何となくイメージする走り味がある。それを言葉で言い表すと、ちょっとフワフワと浮遊したような柔らかな足まわりと、それに合わせたかのようなたおやかなステアリングフィール。しかしそれは決してユルユルということではなく、しっかりした芯の上に構成されたものだ。果たして、C5 Xの乗り味はまさにそれを具現化したようなものだった。

かつてのハイドロニューマチックこそ採用されていないが、セカンダリーダンパーを組み込んだPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)はそれこそバランスボールの上に乗って移動しているような独特の浮遊感を実現している。できればもう少しタイヤのサイズを落とした方が乗り心地は良さそうだが、いずれにしろこの足まわりだけでこのクルマを選ぶ意味は十分にある。

もうひとつの選択肢として

ゆったりとした味わいながら正確なステアリングもシトロエンらしさ全開だが、スポーツモードにするとずっしりとした手応えに変化するので、峠で楽しむことも可能だろう。1.6リッターのピュアテックエンジンは官能性こそ希薄だが、粛々と必要なだけのトルクとパワーを供給してくれる実直さが魅力だ。

このデザインとこのサスペンションは、やはりPHVで乗ってみたい。莫大なトルクを無音無振動で発するモーターとの相性は抜群に良さそうだ。しかしそうなると価格は約100万円、重量は270kgアップ。クルマなんてただの道具さ、というフランス的考えでいくと、純エンジンモデルの方がC5 Xの本懐なのかもしれない。

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2022年11月号

SPECIFICATIONS

シトロエンC5 X シャインパック

ボディサイズ:全長4805 全幅1865 全高1490mm
ホイールベース:2785mm
車両重量:1520kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1598cc
最高出力:133kW(180PS)/5500rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1650rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:FWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後トーションビーム
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:前後205/55R19
車両本体価格:530万円

【問い合わせ】
シトロエンコール
TEL 0120-55-4106
https://www.citroen.jp

シトロエンの新たなるフラッグシップ「C5 X」。様々な車型の要素を併せ持つ独創的なスタイリングが特徴だ。

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著者プロフィール

永田元輔 近影

永田元輔

『GENROQ』編集長。愛車は993型ポルシェ911。