最強のコンパクトスポーツカー? アウディRS 3セダンの実力とは?

「やれることは全部やった?」驚異の走りを見せるアウディRS 3セダンに試乗して速さの秘密を研究

コンパクトなA3ベースのセダンボディに最高出力400PS、最大トルク500Nmの2.5リッター5気筒ターボにクワトロの組み合わせこそRS3の魅力だ。
コンパクトなA3ベースのセダンボディに最高出力400PS、最大トルク500Nmの2.5リッター5気筒ターボにクワトロの組み合わせこそRS3の魅力だ。
ノルトシュライフェ7分40秒台という途方もないタイムを叩き出したコンパクトセダンが上陸した。小さなボディながら400PS/500Nmを叩き出す2.5リッター直5ターボの強心臓を持つウルトラセダンの走りとはいかなるものであろうか?

Audi RS 3 Sedan

世界最速のコンパクトクラスセダン

タイヤはフロント265、リヤ245でフロントのほうが太い。フロントオーバーフェンダーによってベースのA3/S3より全幅が35mmもワイドになっている。

2021年夏、オプションのセミスリックタイヤを履かせただけの新型RS3セダンが、ニュルブルクリンク北コースで7分40秒748を記録したという。これはメガーヌRSトロフィーRの記録を抜いて、RS3が「コンパクトクラス世界最速」となったことを意味する。

A3のボディに2.5リッター5気筒ターボとクワトロを詰め込んだ超速コンパクトアウディ……という基本的な成り立ちは、新しいRS3でも踏襲される。動力性能は400PSの最高出力こそ変わらないものの、最大トルクは先代から20‌Nm上乗せされて500Nmの大台に達した。

ちなみに、メルセデスAMGのA45Sも、同じく500Nmを2.0リッター4気筒で実現している。ただ、良くも悪くもヒステリックに吠えるAMGに対して、RSはどこか爽やかで心地よい独特のハミングをともなって軽々と回り切る。このいかにもマルチシリンダーらしいエンジンフィールもRS3伝統の魅力だ。

前後異幅のタイヤを装着

26年以降はエンジンを搭載した新型車を発売しないと公言しているアウディゆえ「これが最後?」ともいわれるRS3には、これまでにない新機軸と特徴が見られる。なかでも注目なのは「RSトルクスプリッター」と名づけられた新しいクワトロ4WDシステムだ。従来の横置き用クワトロでは油圧多板クラッチがセンターにひとつだけだったのに対して、今回は左右それぞれに油圧多板クラッチを持つ。これによって左右のリヤタイヤそれぞれにまったく独立してトルク配分できるようになった。例えば片側リヤタイヤにすべてのトルクを配分して、ドリフトさせることも可能なのだ。

そんなRSトルクスプリッターには、ドリフトに適した「RSトルクリヤ」と、セミスリックによるサーキット走行を想定した「RSパフォーマンス」という特徴的なモードも用意される。今回は公道のみの試乗だったので、本来はどちらのモードも使うべきではない。ワインディングでは「オート」か「ダイナミック」にするのが基本であり、実際、それがいちばん乗りやすくて速い。

ただ、せっかくなのでキモ試し気分でちょっとだけ体験してみると、RSトルクリヤは、アクセルオンでグイッと曲がりこむような挙動になった。それと同時にパワステまで軽くなるあたりは、本気のドリフトセッティングなのだろう。一方のRSパフォーマンスはそれとは逆に、四輪がズシッと最大限に踏ん張る。標準のピレリPゼロでも安定しすぎるほど安定するが、きっちりと曲がる。よくあるスポーツ4WDのように、あえてリヤに多めに配分して表面的な回頭性を演出することもない。真剣に速さを追求したハイグリップモードなのである。

RS3でもうひとつの特徴は、タイヤが前後異幅になっていることだ。で、RS3の場合は当然ながらフロントが265、リヤが245……とフロントのほうが太い。新型RS3の全幅がベースのA3/S3より35mmもワイドになっているのも、このタイヤを包み込むためのフロントオーバーフェンダーによる。まあ、これは理にかなった設定ではあるのだが、FFベースの量産車でそこまで踏み込むことは珍しい。

衝撃のポテンシャル

そんな新型RS3の走りはちょっとクセがある。とにかくフロントの猛烈な牽引力がステアリングから明確に伝わってくる。ぶしつけに路面をかきむしったり、手に負えないアンダーステアに陥ることはもちろんないが、これまでになくFF感が強い。その強力なフロントにリヤタイヤが背後からそっと寄り添い、左右のバランスを緻密にコントロールしながら、最終的には狙ったコーナリングラインをピタリと射抜く。

また、今回の試乗車にオプション装着されていたアダプティブダンピングを「コンフォタブル」にしても、その乗り心地はこれまでよりずいぶん引き締まっている。もちろんストロークそのものはしなやかなのだが、本物のスポーツモデルのオーラはこれまで以上に濃くなった。

本気が伝わってくるサスペンションといい、ちょっとクセの強いハンドリングといい、さすがのRS3といえども、このコンパクトサイズに500Nmは、さすがに余裕しゃくしゃくではないのだろう。ただ、そんな生半可ではない本物感は、まさにRS3の最終形態ゆえのオーラということなのだろうか・・・。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/佐藤亮太(Ryota SATO)
MAGAZINE/GENROQ 2023年1月号

SPECIFICATIONS

アウディ RS 3セダン

ボディサイズ:全長4540 全幅1850 全高1410mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1600kg
エンジン:直列5気筒DOHCターボ
総排気量:2480cc
最高出力:294kW(400PS)/5600-7000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/2250-5600rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後ウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30R19 後245/35R19
燃料消費率(WLTC):11.1km/L
車両本体価格:818万円

【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

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