メルボルンのポルシェ356 Bは如何にしてレストアで栄冠を得たか?

徹底的オリジナルを目指した「ポルシェ 356 B」がオーストラリアのイベントで三冠達成した執念の物語

オーストラリア最大のヒストリックカーイベント「モータークラシカ2022」において、頂点に立ったポルシェセンター・メルボルンの356 B。
オーストラリア最大のヒストリックカーイベント「モータークラシカ2022」において、頂点に立ったポルシェセンター・メルボルンの356 B。
オーストラリア・メルボルンにおいて開催されたヒストリックカーイベント「モータークラシカ2022(Motorclassica 2022)」において、ポルシェ・クラシックのパートナー「ポルシェセンター・メルボルン」が手がけたポルシェ 356 Bが三冠を達成した。

Porsche 356 B

ポルシェの豊富な経験を持つ職人が作業を担当

ポルシェ 356 Bのレストア作業において、多くの作業を担当したのが、ポルシェセンター・メルボルンのポルシェ・クラシック・スペシャリストテクニシャン、ピーター・ボーエンだった。
ポルシェ 356 Bのレストア作業において、多くの作業を担当したのが、ポルシェセンター・メルボルンのポルシェ・クラシック・スペシャリストテクニシャン、ピーター・ボーエンだった。

毎年3日間にわたり、メルボルンの王立博覧会ビルを舞台に開催されるオーストラリア最高峰のヒストリックカーの祭典「モータークラシカ(Motorclassica)」。2022年は10月7~9日にかけて開催され、今年も多くの自動車ファンが詰めかけることになった。

今回、ポルシェセンター・メルボルンが丹念にレストアした1961年型「ポルシェ 356 B」が主要部門3冠を達成。見事なミュージアムコンディションに仕上げられたエトナブルーの356 Bは「ニューエイジ・クラシック(1961-70年)賞」に加え、「ベスト・ポルシェ賞」と「レストア・オブ・ザ・イヤー」も受賞。1台が3つの賞を獲得するのは、モータークラシカの歴史において2度目となる。 

受賞は356 Bのレストアを担当した熟練の職人たちにとって最高の瞬間となった。喜びに沸き立つスタッフの中に、ポルシェセンター・メルボルンのポルシェ・クラシック・スペシャリストテクニシャン、ピーター・ボーエン(Peter Bowen)もいた。

オリジナルにこだわったレストアプログラム

オリジナルにこだわってレストアが進められた、ポルシェセンター・メルボルンの356 B。
ポルシェセンター・メルボルンにレストアが依頼された段階で、356 Bには多くのオリジナルパーツが残されていた。そのため、パーツを交換するのではなく、復元することをメインにレストアが進められた。

モータースポーツ、そしてポルシェのヒストリックモデルに関して、38年の経験を持つボーエンにとって、356 Bのレストアは「愛の結晶」とも言えるプロジェクトになった。オリジナルの1600cc水平対向エンジンと4速マニュアルギヤボックスを新品同様の状態に戻すなど多くの作業に参加。ただ、レストア作業は簡単には進まなかったとボーエンは振り返る。

「最初の大きなチャレンジは、ファクトリーに到着した段階で、このクルマの多くのコンポーネンツがバラバラに分解されていたことでした。一緒にパーツの箱が届いたので、まずそのパズルを解く必要があったんです」

ごちゃごちゃとしたパーツの中に、ある重要な事実が隠されていた。「このクルマの多くは、オリジナルのままだったのです」と、ボーエン。この356 Bはポルシェのオーストラリアにおける輸入元「ハミルトンズ(Hamilton’s)」 によって新車で販売されたという希少性を備えていたのである。

「ボディ、エンジン、ギヤボックス、ウィンドウフレームはすべてオリジナルです。ウィンドウレギュレーター、ラジオ、計器類、ステアリングホイールも、オリジナルのまま。これらすべてが新車販売時に装着されていたもので、交換された形跡もなく、丁寧にレストアされた状態でした」

「このクルマにとって、それはとても重要な事実でした。オーナーは可能な限りすべてのパーツを、オリジナルのまま保存したかったのです。だからこそ、今回のレストアの目標はパーツを交換するのではなく、できる限りすべてをオリジナルのまま復元することになりました」

マルタからオリジナルのヘッドライトレンズを入手

オーストラリア最大のヒストリックカーイベント「モータークラシカ2022」において、頂点に立ったポルシェセンター・メルボルンの356 B。
356 Bのオーナーのディモプロス兄弟は、様々な手を尽くすことで、マルタの女性からオリジナルの右ハンドル用ヘッドライトレンズを手に入れてた。

この356 Bの真正性を追求するため、多くの時間を要することになった。膨大な資料を丹念に調べ、ひとつひとつのパーツを確認することになったのだ。

例えば、右ハンドル用ヘッドライトレンズの交換が必要になった際、オーナーのテオとニキのディモプロス兄弟はオリジナルパーツの入手を強く希望した。徹底的な調査の結果、テオ・ディモプロスはマルタ共和国の女性から、オリジナルの右ハンドル用ヘッドライトレンズを手に入れた。なんと、この女性は1960年代の新品のまま、保存していたのだ。

2019年から3年をかけてついに完成

オーストラリア最大のヒストリックカーイベント「モータークラシカ2022」において、頂点に立ったポルシェセンター・メルボルンの356 B。
2019年からスタートしたレストア作業は、新型コロナウイルスのパンデミックという障害がありながらも、2021年半ばに完成に至った。

レストア作業は、2019年後半にポルシェセンター・メルボルンでスタート。ボーエンがエンジンやギヤボックスの修復作業に取り組む一方で、ボディと内装に関するレストア作業も粛々と進められた。2021年半ばの段階でボーエンの作業はほぼ完了。そして、このプロジェクトで最も素晴らしい瞬間が訪れた。

「一番の喜びは、完成した車両を走らせることです。この特別なクラシック・ポルシェのレストア作業では、直せるものはすべて直し、年代物のパーツを手を尽くして調達しました。一歩踏み込んだ、レストアプログラムになったと自負しています」

「このようなクルマに携わることができて最高の気分です。完成したクルマを前に、オーナーの皆さんが喜んでいる姿を見ると、あらためてやりがいを感じました。今回、モータークラシカで様々な賞を頂いたのは、ボーナスのようなものです」

熱狂的なファンに支えられ今でも高い価値を誇る「911 カレラ RS 2.7」。いわゆるナナサンカレラだ。

ポルシェはなぜ今でもRRを信奉するのか?【歴史に見るブランドの本質 Vol.4】

自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。し…

キーワードで検索する

著者プロフィール

GENROQweb編集部 近影

GENROQweb編集部