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沿道やサービスに詰めかけた日本のファン

今回のラリージャパン、12年ぶりに日本へとWRCが帰ってきたことに加えて、SS(スペシャルステージ:競技区間)のギャラリーエリアを限定していたことから、観戦チケットは発売直後にソールドアウト。ステージにはあまり人がいないものの、有料のサービスパークには連日ファンが詰めかけ、SSとSSをつなぐリエゾン区間の沿道には、多くのファンがお手製フラッグや応援ボードで選手に歓声を送ることになった。
前回のラリージャパンを経験しているトヨタのセバスチャン・オジエは、「このラリーで一番ポジティブな点を挙げるとすれば、やはり日本のファンになると思います。ステージにあまり人が入れなかったのは残念でしたが、サービスパークやリエゾンには熱心なファンがたくさん詰めかけていました。あらためて、日本に帰ってきたという実感を得ました」と、日本のファンの熱心な応援を絶賛している。
ワークスチームや日本のドライバーだけでなく、欧州から遠征してきたプライベーターへも分け隔てなく声援を送り、サインや写真を求めて大混乱を起こすことなく、“ジェントル”に応援する態度は、海外の関係者も高く評価していた。この質の高い日本のラリーファンは、これからもラリージャパンにとって、ひとつの財産になるだろう。
狭くツイスティなSSに、心霊トンネルも

ステージに関しては、日本独特の舗装路に多くの選手が苦しむことになった。SSの多くは最新ラリーカーの性能を発揮するような高速セクションが少なく、1速や2速中心の低速コーナーが連綿と続く。リズムが取りにくく、道幅も狭いため、ちょっとしたミスが致命傷となる。レッキ(コース試走)を終えたヒョンデのティエリー・ヌービルは「僕が経験してきたターマックラリーで一番難易度が高い」と、指摘したほどだ。
主催者はスタート前に落ち葉や汚れた路面の掃除を徹底的に行い、できうる限りの走りやすいコンディションを用意した。しかし、木々に覆われた路面は濡れた箇所が残っている場合も多く、さらに朝露などによって路面グリップレベルが刻一刻と変化。結果的に走行中にコントロールを失い、タイヤやホイールを壁などにヒットさせ、パンクを喫するクルーが続出している。
今回、11月11日金曜日に行われた、SS2のルート内にある旧伊勢神トンネルは、地元でも人気の心霊スポット。他のWRCイベントでは見られない独特の雰囲気が、“写真映え・動画映え”するため、事前から大きな話題を呼んだ。
しかし、WRC2でタイトルを狙って参加していたポーランドのカエタン・カエタノビッチが、トンネルを通過中に舞い上がったダストにより視界を奪われ、トンネルを出た直後にクラッシュ。狭く滑りやすい上に、ダストによる視界不良まで重なったため、同じステージをリピートするSS5は、危険を理由にフィニッシュ地点をトンネルの直前に変更することになった。
SS内に一般車両侵入の重大インシデントも

カエタノビッチ以外にも、金曜日は様々なステージでクラッシュを含むアクシデントが続出。コースの狭さから、一度アクシデントが起こってしまうと、復旧まで時間がかかるため、多くのSSがキャンセルを余儀なくされることになった。
また、この日はラリーカー走行中に一般車両がステージ内を逆走するという、ラリー競技ではあってはならない重大インシデントも発生。幸い、一般車両とラリーカーが接触することなく、大事には至らなかったが、主催者はWRCを管轄するFIA(世界自動車連盟)から「安全確保」に関する厳しい勧告を受けている。
今回のラリージャパン、前述のように非常に質の高いファンにより、多くのドライバーやチーム関係者が「素晴らしいイベントだった」と口を揃えた。ただ一方で、乏しいコースバリエーション、SS観戦エリアの少なさ、スケジュールの遅延、安全の確保など、多くの課題も指摘されている。
2023年もラリージャパンは、WRC最終戦(11月16~19日)としての開催が決まった。日本におけるWRC人気増加は、2年目にどれだけの課題をクリアできるかに掛かっている。