ミドルサイズSUV「グレカーレ」に試乗してマセラティの魅力再確認

「感動の仕上がり」マセラティ新時代を予感させるミドルサイズSUV「グレカーレGT」に試乗

グレカーレのラインナップはGTとモデナ、トロフェオという3つのグレードで構成される。テスト車はベーシックグレードのGT。
グレカーレのラインナップはGTとモデナ、トロフェオという3つのグレードで構成される。テスト車はベーシックグレードのGT。
「地中海の北東風」を意味するモデル名を冠されたマセラティの自信作がグレカーレだ。MC20からの意匠を採り入れたモダンなデザインとスポーティな走りを持つ本モデルは、好調な販売を記録し続けているポルシェ・マカンの強力なライバルとなるだろう。

Maserati Grecale GT

衝撃的なグレカーレの仕上がり

搭載されるパワートレインは300PSを発揮する2.0リッター4気筒ターボ+マイルドハイブリッド。
搭載されるパワートレインは300PSを発揮する2.0リッター4気筒ターボ+マイルドハイブリッド。

基本性能の高さに加え、ブランドの味をしっかりと表現できている。それが今回初めてマセラティ・グレカーレに触れた筆者の感想である。と同時に近年の完成度が高いマセラティをドライブすると、決まって頭の中に「あのマセラティが、こんなに!」という感情が駆け巡る。

マセラティに対するイメージは人によって差があるように思う。スーパーカー世代とビトゥルボ世代、その次はフィアット-フェラーリによるマネージメント世代。そしてステランティス傘下の現在に至る。非常にざっくりと4つくらいの世代に分かれると思っているのだが、アラフィフの筆者はビトゥルボ世代ど真ん中。

ボディは単なるノッチバックのハコをよくぞここまでというほどシャープに仕立て、贅沢に革を使用した内装は宮殿のような佇まい。自製のV型エンジンはオトコらしい芯の強いターボキックで乗り手を挑発する。

ところが信頼性はお粗末で、クオリティ云々なんていう言葉を使ってはいけないレベルだった。内装のウッドにいきなりヒビが入るなんてかわいいもので、加速したらいきなりシートレールが一番後ろまでズレたり、デフケースが落ちそうになったり(いやホントに)。そんなトラウマが冒頭の「あのマセラティが、こんなに!」発言につながるのだ。

マセラティらしい色気は健在

さてグレカーレの話に戻ろう。フロントマスクがシュットと絞られ小顔に見えるのでクルマ自体もコンパクトなのかと思っていたらさにあらず。ミドルサイズと書かれていたりするグレカーレだが、実際はミドルの中でも大きい方の部類に入る。グレカーレの核となるステランティスのジョルジオ・プラットフォームは、アルファロメオならステルヴィオ、ジープならグランドチェロキーに採用されているので小さいはずはない。ライバルのマカンよりもちょっとだけ大きいのだ。

グレカーレのラインナップは4気筒を積むGTとモデナ、そしてV6を積むトロフェオという3つのグレードで構成されている。今回の個体はベーシックグレードのGTなので300PSを発揮する2.0リッター4気筒ターボ+マイルドハイブリッドというパワートレインが搭載されている。

ブロンゾオパーコというマットなエビ茶色のペイントは滑らかにカーブを描くボディと相性抜群。マセラティらしい色気を放つ。一方内装が外見以上に色気たっぷりというのはマセラティの流儀といえる。レザーの仕立てが非常に美しく、シートやステアリングの造形はスポーティに引き締められている。ギヤセレクトはボタンになってセンターコンソールに組み込まれ、シフトはわりと大きめのステアリングパドルで行う。マセラティの象徴でもあるダッシュボード上部の時計はデジタル化されており、表示をGメーターやコンパスに切り替えることもできる。そうそう、コクピットのデジタル化に関しても、ライバルに先んじているとは言わないが、後れているわけでもないという点は強調しておきたい。

ミドルサイズSUVとして秀逸

スタートボタンで電源を入れ、静かに走りはじめる。MHEVの中にはその存在が見た目でもパワー感でもまるでわからないものも少なくない。その点グレカーレGTはメーターナセル内に48Vバッテリーの状態を表示させられるし、加速しはじめの強めのトルクにBSGの仕事を感じることができる。

この4気筒エンジンにはターボとは別にeブースターなる電動の過給機も付いているらしい。ということはBSGでタイヤを転がしはじめ、eブースターで低回転のエンジンを元気づけ、最後にターボで本格加速するというプロセスなのだろうが、これが実にうまい連係を見せ4気筒の粗さを上手く中和させている。街中で試す限り2t近いボディを軽々と動かすパワーに感心させられた。乗り心地も上々だ。サスペンションは引き締められており、そう簡単に車体をロールさせたりしないのだが、路面のタッチは非常に優しい。まるでエアサスみたい! と思ったら試乗車にはオプションのエアサスと可変ダンパーが装着されていた。

グレカーレの兄貴分であるレヴァンテは、筆者が試乗したMY2018では、走りの部分に少し古めのマセラティらしい不器用さが含まれていた。骨格に硬い所と柔らかい所が入り混じっている感じで、パワーを掛けると新車でも軋み音と無縁ではない。だから例えば、動的質感においてカイエンのライバルというには厳しいものがあった。だがグレカーレの仕上がりはレベルが違う。ミドルサイズのSUVとして秀逸で、そのうえでマセラティらしい静的質感やハンドリングがちゃんと備わっている。

トラウマを抱える人にこそ

滑らかにカーブを描くボディと相性抜群のマットなエビ茶色のボディカラーはブロンゾオパーコ。
滑らかにカーブを描くボディと相性抜群のマットなエビ茶色のボディカラーはブロンゾオパーコ。

だがひとつ残念なのはパワートレインで、街中でこそパワー感に溢れ頼もしい印象だったのだが、高速道路では伸びがない。レブリミットは5500rpmでレッドだし、8速ATが加速を滑らかに繋いではいるが、マセラティらしい弾け方はしない。ドライブモードをGTからSPORTに変えても、エンジン側で出来ることは限られているようだ。

ともあれGTはベーシックグレードなので、マセラティらしい見た目と街乗りでの快適性が担保できていればそれでいいということなのだろう。動的質感に関してもマセラティらしさを望むのであれば、ネットゥーノV6を搭載するトロフェオがちゃんと用意されているのだから。

それにしても現行のマセラティの仕上がりは格段にいい。もし筆者と同じようにちょっとしたトラウマを抱えている人がいれば、ぜひとも試乗してみるべきだと思う。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年5月号

SPECIFICATIONS

マセラティ・グレカーレGT

ボディサイズ:全長4846 全幅1948 全高1670mm
ホイールベース:2901mm
車両重量:1870kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1995cc
最高出力:220kW(300PS)/5750rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2000-4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前255/45R20 後295/40R20
車両本体価格:862万円

【問い合わせ】
マセラティコールセンター
TEL 0120-965-120
https://www.maserati.co.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…