自然吸気モデル最高峰「ポルシェ911GT3 RS」にPECで試乗

9000rpm回る自然吸気モデル最高峰「ポルシェ911GT3 RS」は超の付く空力重視マシンだ

911の自然吸気エンジン最高峰、GT3 RSの最新モデルを日本で試す機会がついに訪れた。9000rpmを許容し、525PSを発揮する水平対向6気筒や、レーシングマシンさながらのエアロダイナミクス。これはポルシェがサーキットで得たノウハウが凝縮された1台である。(GENROQ 2023年11月号より転載・再構成)

PORSCHE 911GT3 RS

スポーツカーの新たな楽しみ方

えぐられたフェンダーやドア、垂直のブレードが優れたエアロダイナミクスを生む。

「911GT3 RSって、足まわりをサーキット用にチューニングし直して、空力パーツを後付けしただけのクルマでしょ?」そんな風に思い込んでいた私は、完全に認識が間違っていたようだ。

今回はポルシェ・ジャパンの協力により、ポルシェ・エクスペリエンス・センター(PEC)東京のハンドリングトラックで試乗したが、単にGT3とハードウェア的に異なっているだけでなく、スポーツカーの新たな楽しみ方を提案していることが判明したので、ここで報告しよう。

まずは、ハンドリングトラックまでの取り付け道路を走っているだけで、サスペンションのスプリングレートが大幅に引き上げられていることに気付いた。おかげでボディの上下動が反復する傾向が見られたが、これがハンドリングトラックに入ってペースを上げてからも収まらないことには閉口した。

「いくら285km/hで860kgのダウンフォースを生み出すからといって、これじゃあ一般道を走る気がまるで起きないはず」と、そんな風にも思ったからだ。けれども、センターコンソール上のタッチディスプレイを使ってそれまでのローダウンフォースからダイナミックダウンフォースに切り替えると、状況が一変した。

ハイダウンフォースを選ぶと反応が一転

100km/hにも達しないスピードだったにもかかわらず、あれほど煩わしく感じられた上下動の反復がすっと収まったのだ。もしかしたら、もともとの車重にダウンフォースが加わったことで、スプリングレートとのバランスがとれたのかもしれない。だとすれば、911GT3 RSは強大なダウンフォースがかかった状態を前提にしてサスペンションが設定されていることになる。

この推測を裏付ける現象が、もうひとつ見受けられた。PEC東京の名物コーナーであるカルーセルの手前に、少し大きめのギャップがあるのだが、ここを乗り越えるとき、ローダウンフォース・モードではクルマが跳ね上げられて接地感が薄れる傾向が認められた。ところが、ハイダウンフォースを選ぶと反応が一転。ボディの上下動がぐっと抑え込まれ、路面を強力に捉え続けているように感じられたのだ。

ちなみに、ここまでのインプレッションはトラック・モードで走行した状況を前提としている。そして、このトラック・モードでは、空力以外にも、ドライビングダイナミクスに関わる様々なパラメーターを可変できるのだ。

見どころ満載のエアロダイナミクス

例えば、ダンパーは前後サスペンションのそれぞれについて、伸び側と縮み側を個別に設定が可能。それもホイールハウスに手を突っ込んで調整する旧来のやり方ではなく、ステアリング上のダイヤルを回すだけで、プラス側とマイナス側をそれぞれ4段階で調整できるのだ。今回は試乗時間が限られていたのでそのすべてを試すことはできなかったが、フロントの伸び側と縮み側を2ステップ引き締めるだけで、クルマの挙動がさらに落ち着くとともに、ハンドリングの正確さが格段に向上することが確認できた。これに比べるとリヤの減衰力調整はここまで明確な傾向は認められなかったものの、フロントとの組み合わせや、伸び側と縮み側を個別に設定することなどで、自分好みのハンドリングや乗り心地に仕上げることができるはずだ。

しかも、ステアリングのロータリースイッチから設定できるのはダンパーの減衰力だけでなく、電子制御式デフロック機構であるポルシェ・トルク・ベクトリング・プラス(PTVプラス)も同様。こちらも減速側と加速側をそれぞれプラス/マイナス4段階で調整できる。今回はPTVプラスの効きがコーナリング性能に影響するほどのペースで走らなかったのでなんとも言いがたいけれど、サーキットで限界的な走行を試せば、その効果を実感できただろう。

新型GT3 RSのエアロダイナミクスも見どころ満載といえる。まずはボンネット下のラゲッジルームを潰して大型ラジエーターを収納し、ここを通過した冷却気をボンネット上から吐き出すことでダウンフォースを生み出しているのだが、よくよくエアアウトレット部分を見れば、ここにも冷却気の流れをコントロールするフラップが仕込まれていて、芸の細かさに驚かされる。

モータースポーツの世界から

GT3より20mmワイドなフロントタイヤをカバーするフェンダーは上半分が大きく張り出している一方、下半分にはサイドスプリッターで整流されたエアフローを流れやすくするためにドア部分まで続く窪みが設けられている。このエアフローは、チンスポイラーからフロントのホイールハウスを経由してボディ後方へと流れていくのだが、そうしたエアフローの通り道が目に浮かび上がるくらい、様々なエアロデバイスが明確な意図を持って装着されていることは実に興味深い。

そして極めつけなのが巨大なリヤウイング。最大限の空力効率を狙って大きく湾曲したスワンネック式ステーによって吊り下げられるこのウイングは、幅、高さともに、これまで私が見たどんなスーパースポーツカーをも凌いでいるだけでなく、上側のフラップ部分は油圧シリンダーによって大きく角度を変えることが可能。まさに、モータースポーツの世界からそのまま持ち込まれたようなエアロデバイスである。

新型911GT3 RSが提案する楽しみ方とは?

えぐられたフェンダーやドア、垂直のブレードが優れたエアロダイナミクスを生む。

そうした、ロードカーとしては常識外れのエアロダイナミクスをフルに生かすために設けられたのが、前述した各種の調整機能であるというのが私の解釈。それらは、ステアリング上のダイヤルひとつで調整できるのでメカニックは不要だが、あまりにパラメーターが多すぎるため、自分にとっての最適解を見つけるためにはエンジニアが必要かもしれない。この点からいえば、911GT3 RSは「メカニック要らずだがエンジニアは必要なロードゴーイング・レーシングカー」となるだろう。

詳しくは説明できなかったが、9000rpmまで回る超高回転型ボクサー6のレスポンスは極めつけにシャープなうえに官能的。これをベースとして知的なエンジニアリング作業をじっくりと味わうことが、新型911GT3 RSが提案する新たな楽しみ方なのかもしれない。それは、高度に熟成され尽くしたおかげで官能性を失いつつあるスーパースポーツカーに対する、ある種のアンチテーゼともいえるものだ。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年11月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ911GT3 RS

ボディサイズ:全長4572 全幅1900 全高1322mm
ホイールベース:2457mm
車両重量:1450kg
エンジン:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3996cc
最高出力:386kW(525PS)/8500rpm
最大トルク:465Nm(47.4kgm)/6300rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR20 後335/30ZR21
車両本体価格:3378万円

【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…