マカンをデザインした「ミヒャエル・マウアー」インタビュー

フル電動となった「ポルシェ マカン」をどう表現すべき?「デザイナーが語るデザインの舞台裏とは?」

2024年1月25日にワールドプレミアされた2代目「ポルシェ マカン」。EVとしてデビューした新型マカンのデザインは、どのように生み出されたのだろうか。
2024年1月25日にワールドプレミアされた2代目「ポルシェ マカン」。EVとしてデビューした新型マカンのデザインは、どのように生み出されたのだろうか。
ポルシェは、2024年1月25日にシンガポールにおいて、フル電動モデルへと進化を果たした新型「マカン」を発表。スタイルポルシェ責任者を務めるミヒャエル・マウアーが、大成功を収めた初代から、デザインを一新した2代目をどのように作り上げたのか、明かしてくれた。

Porsche Macan

ポルシェ・ファミリーの一員であること

EVとして生まれ変わった新型マカンだが、ポルシェ・ファミリーとしてのデザインが求められた。今回、そのデザインの裏側をスタイルポルシェ責任者を務めるミヒャエル・マウアーが語った。
EVとして生まれ変わった新型マカンだが、「ポルシらしさ」を持ったデザインを強く求められたという。今回、そのデザイン開発の裏側をスタイルポルシェ責任者を務めるミヒャエル・マウアーが語った。

「新型マカンは、現在のプロダクト・アイデンティティを電動化モデルに採り入れた最初のモデルです」と、スタイルポルシェのミヒャエル・マウアーは明かす。どんなニューモデルであっても、ポルシェのプロダクトファミリーの一員であり、ポルシェであることを明確に認識できなければならない。マウアーは、この「ポルシェらしさ」が最も重要だと考えている。

ポルシェの2024年は、新型マカンのワールドプレミアという、素晴らしいハイライトで幕を開けました。初のフル電動マカンのデザインに対して、どのように取り組みましたか?

「具体的なディテールを考える前に、戦略的アプローチが重要な役割を果たします。例えば そのモデルの特徴は何か? 先代モデルはどうだったのか? 新型マカンのデザインにおいては、これがとてもエキサイティングな挑戦となりました。私たちは初代マカンを2013年に投入し、それ以来一貫して注意深くアップデートしてきました。大まかに言えば、これによってマカンは世界市場において、確立されたプロダクトアイデンティティを持つに至ったのです」

「新世代モデルが登場するたびに、私たちの使命は、慣れ親しんだデザインと新しい要素との間で適切なバランスを取ることが求められます。具体的には、それぞれの新型スポーツカーがポルシェのプロダクトファミリーの一員であり、それぞれのモデルラインの一員であることが明確に認識されなければなりません。ただ、同時に『新型ポルシェ』としても、アピールする必要があります」

「視覚的な一貫性はポルシェにとって非常に重要です。マカンはすでに確立されたプロダクトアイデンティティを持っています。そこである疑問が生じました。 新型マカンはどの程度『新しさ』を持っていなければならないのだろうか……ということです」

ポルシェを表す3つのデザイン要素

ポルシェデザインでは、そのアイデンティティをキープするため、ブランドの特徴を表す3つのコンセプト「フォーカス」「テンション」「パーパス」が導入されている。
ポルシェデザインでは、そのアイデンティティをキープするため、ブランドの特徴を表す3つのコンセプト「フォーカス」「テンション」「パーパス」が導入されている。

そのバランスを、どのように取ったのでしょう。ニューモデルがカスタマーに受け入れられるためのパラメータのようなものがあるのですか?

「一般論としてお答えするのは難しいのですが、デザイン開発はクルマが市場に投入される何年も前から行われます。将来投入されるモデルの魅力を評価する、厳密で客観的なパラメータは残念ながらありません。ポルシェのデザイン現場では、ブランド固有のガイドラインを導入し、日々の業務において、それを戦略目標に沿ったデザインを維持するために役立てています」

「ポルシェでは、ブランドの特徴を表す3つのコンセプトを定義しました。それは『フォーカス(Focus:焦点)』と『テンション(Tension:緊張)』、そして『パーパス(Purpose:目的)』です。要するに、これらのキーワードはポルシェ製品を際立たせるもの。つまりカスタマーにとって『ポルシェらしさ』を体感できる要素を表しています」

3つのコンセプトはどのようにして生み出されたのでしょうか?

「分かりやすく言えば、これらの概念の作ったことが、用語そのものよりも重要だったと言えます。これら3つの概念を正確に表現する作業は、想像以上に複雑です。『ポルシェブランドとはどのようなものなのか?』に関する議論と考察は、デザインチーム全体にとって非常に価値のある活動になりました」

「具体的なメリットはいくつもあります。ひとつは、私たちが未来を見据えてブランドの本質を見失わないようにするため、羅針盤としてこの用語を使用すること。例えば、初期のコンセプト段階で、どのようなアプローチを取るべきかを考える際、意思決定の助けとなっています」

ドライバーに「フォーカス」したインテリア

ポルシェのデザインを構成する3つのキーワード。「フォーカス」が導入されたコクピットは、すべての操作系統がドライバーの周辺に配置されている。
ポルシェのデザインを構成する3つのキーワード。「フォーカス」が導入されたコクピットは、すべての操作系統がドライバーの周辺に配置されている。

3つのコンセプトを具体的にどのように活用したのか、教えてください。

「そうですね……『フォーカス』というコンセプトが分かりやすいかもしれません。例えば、インテリアに関して言えば、ポルシェのスポーツカーでは常にドライバーに『フォーカス(焦点)』が当てられていることを意味します。具体的には、ドライバーにとって重要なコンポーネントはすべて、直接アクセスできるようにドライバーの周りに配置されています」

「曲面ディスプレイを採用することで、さらに一歩踏み込んでいます。ドライバーにとって理想的な、わずかに湾曲した形状のフローティング・ディスプレイによって、ドライバーに焦点を当てたデザインとしました。 また、インストゥルメントクラスターには『ミニマリストモード』のようなものも設けています。これは、ドライバーが望めば、運転に必要な限られた要素のみを選択できるようにしています。これで、絶対に必要なものだけに集中することができるわけですね」

いたずらにトレンドを追及しない

ポルシェのように明確なアイデンティティを持つブランドは、市場のトレンドに飛びつく必要はないと、マウアーは指摘する。
ポルシェのように明確なアイデンティティを持つブランドは、市場のトレンドに飛びつく必要はないと、マウアーは指摘する。

デザインにおいて、市場の違いやトレンドは、どの程度重要なのでしょう?

「ポルシェのような老舗ブランドにとって、トレンドとアイデンティティのバランスを取ることが、絶対に不可欠だと思っています。強力なアイデンティティを持つブランドは、いたずらにトレンドを追いかけることはありません。様々な流行やトピックスに関して、先陣を切らない方が良い戦略となることもあります」

「トレンドやその影響力を注意深く精査し、それがブランドに合っているかを、批判的に検討する必要があります。これこそが長期にわたって独自のアイデンティティを保つ唯一の方法なんです」

「様々な市場についても同じことが言えます。一例を挙げると、アジアではクルマに搭載されたデジタル機器が非常に重要な役割を果たします。そして、ヨーロッパと比較すると、全体的に遊び心のあるデザインが好まれています。それはポルシェにとって、どのような意味を持つのでしょう? 私たちはこのような要求に細心の注意を払っています。同時にポルシェがこれほど世界中で愛されている理由は、明確なブランドDNAと長い伝統、そして私が言うところの『一貫した履歴書』にあると強く信じています」

そうすると、ある時点で、古臭く最新ではないと認識される危険性があるのでは?

「その通りです! だからこそ『ポルシェらしさ』と『革新性』の適切なバランスを取ることが、すごく難しい命題となります。それは構造レベルでも直面する課題です。車両デザインは、決してひとりのデザイナーの手によるものではありません。デザインプロセスはチーム作業であり、様々なアイデアの交換に大きく依存しています」

「ポルシェでは、将来のデザインや、様々なデザイン要素のバリエーションについて考えるために、クリエイティブなスペースを、特定モデルに関する作業とはまったく別の形で導入しています。これにより、クリエイティブなアイデアが、特定の生産モデルのデザインプロセスから独立して、形にすることができるのです」

「そして、マネージメントサイドの重要な仕事として、チーム構成も考えなければなりません。私たちは経験豊富なデザイナーと若い新進気鋭のデザイナーを組み合わせています。それにより、アイデアが活性化するというわけです。ここでは、約200名ものデザインスタッフが働いています」

デザインの基礎となる新たな技術要件

EVとして開発されたマカンは、内燃エンジンがフロントボンネット下に存在しない代わりに、フロアには巨大なバッテリーを搭載しなければならない。その技術的な要件を踏まえた上で、デザインが行われた。
EVとして開発されたマカンは、内燃エンジンがフロントボンネットに存在しない代わりに、フロアには巨大なバッテリーを搭載しなければならない。その技術的な要件を踏まえた上で、デザインが行われた。

革新的な技術は、デザインプロセスにどのような影響を与えるのでしょうか?

「自動車の技術要件は、常にデザインの絶対的な基礎となっています。開発のごく初期段階で、パッケージング、つまり車内の様々なコンポーネントの配置から始まります。このパッケージングが、基本的なプロポーションにとって本当に大切な要素になります。古いポルシェのフライラインは、どのような配置でも実現できるものではないです(笑)」

「例えば、EVとして開発されたマカンは、巨大なエンジンブロックがないことで、フロントボンネットの典型的なキャラクターラインをより明確に解釈することができました。同時にバッテリーは依然としてかなり大きいため、多くのスペースを占めます。実際、車両の特徴となる全幅と全高の比率を乱す可能性がありました」

「もちろんエアロダイナミクスはフル電動スポーツカーの航続距離に大きな役割を果たします。ただ、タイカンという存在がありましたから、私たちにとって、まったく馴染みのない状況ではありませんでした。ドライブトレイン技術以外にも、私たちは常にデザインに影響を与える様々な課題に直面しています。例えば、衝突に関する要求事項の増加や、フロントライトやテールランプのデザインなど、様々な規制が導入されていますからね」

マカンに関して、デザインにおける電動パワートレインの視覚化は、どの程度重要でしたか?

「ポルシェは一般的に、EVとICEを搭載したスポーツカーを区別していません。ポルシェはポルシェであり、電動ポルシェであっても、そのセグメントにおいてはスポーツカーなのです。この観点からも、実績あるポルシェのデザインDNAを捨てないことは、理にかなったことだと言えるでしょう」

「多くを語らずとも、新型マカンは一見してポルシェであり、マカンであることは明らかです。ポルシェにとって、このセグメントのスポーツカーを代表するプロポーションが、基本的に維持されています。デザインは内外装ともに研ぎ澄まされ、新型はさらにスポーティでダイナミックな雰囲気をたたえているでしょう? そして、ドライビングプレジャーは間違いなく、そのデザインにも反映されています」

シンガポールで華々しく開催された、新型ポルシェ マカンのワールドプレミアイベント。

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