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スバルは9月15日に新型CROSSTREK(クロストレック)を世界初公開した。日本市場への導入は2023年を予定。順次、世界各国に導入するという。クロストレックはまったくの新型車ではなく、第3世代だ。第2世代は日本では「スバルXV」を名乗っていた。初代はインプレッサから派生したクロスオーバーSUVの位置づけで2012年にデビュー。先代にあたる2代目モデルは2017年の登場だ。
新型は、これまで北米市場で使っていた車名に統一したことになる。クロストレックは、「クロスオーバー」と「トレッキング」を組み合わせた造語。「カジュアルなトレッキングシューズのように、街なかからアウトドアまでシーンを問わず、どんな場所にでもマッチし、アクティビティのパートナーとして、クルマと過ごす時間を愉しんでもらいたい」という思いをスバルは車名に込めた。
キープコンセプトだがディテールは凝っている
新旧を並べてみると、キープコンセプトなのは一目瞭然だ。前後のバンパーやホイールアーチに配された黒い樹脂性クラッディング(プロテクター)がSUVっぽさを感じさせるが、幾何学的なデザインで統一されているせいか、同時に都会的なムードも感じさせる。アウトドア向けのウエアを着こなし、街を颯爽と歩いている感覚だろうか。泥臭さを感じさせず、タフな印象のみを漂わせている。
クロストレックは上級グレードと標準グレードの2グレード構成となる予定。ヘッドランプは全車、ロー/ハイビームにLEDを採用。上級グレードはターンランプやポジションランプもLEDになる。リヤはテールランプ、ストップランプともにLEDだが、ターンランプは上級グレードでもバルブ式だ。これ、レヴォーグ(2020年発売)も同様で、「リヤのターンランプもLEDにしてよぉ〜」と筆者などは思ってしまう。後続車へのLEDアピールも重要だと思うのだが……。
ボディ形状や外装パーツを最適化することによって車体まわりの空気の流れをコントロールする技術は、BRZやWRX S4(ともに2021年発売)で培っており、これをクロストレックにも適用。前後バンパーに設けられたエアアウトレットは、ホイールハウスやリヤバンパー内に溜まる空気を積極的に排出することにより、タイヤの接地性が向上し、ステアフィールの向上や高速走行時の直進安定性向上に効果を発揮する。
ルーフスポイラーはパネルとの溝をふさいで乱流の発生を抑制。フロントアンダーカバーには、整流効果を持つヘキサゴンパターンのテクスチャーを施した。どちらも走行抵抗の低減につながる技術だ。フロントアンダーカバーの後方には、負圧を発生させるビード形状(山型の処理)を設け、車体を地面に押さえつけるダンフォースを発生させる仕組み。これにより、直進安定性や操縦安定性を高めている。至るところに空力技術を盛り込んでいるのが近年のスバル車の特徴で、新型クロストレックもその流れを受け継いでいる。
タイヤは上級グレードが18インチ(225/55R18)、標準グレードは17インチ(225/60R17)サイズのオールシーズンタイヤを装着する。ハイトの高いタイヤとダークメタリック塗装のホイールがもたらす効果か、標準グレードのほうが強いアウトドア感を漂わせているように見える。
インテリアの注目ポイントはシート
インテリアは縦型の大きなセンターインフォメーションディスプレイ(11.6インチ)が目を引く(上級グレードに標準。標準グレードにオプション設定)。レヴォーグやアウトバックといった最新のスバル車に共通する室内の作りと操作系だ。この結果、先代では電動パーキングブレーキのスイッチ近くにあったオートビークルホールド(AVH:信号待ちなどでの停止時に、ブレーキペダルから足を離しても車両側でブレーキをかけ、停止状態を保持する機能)のスイッチはセンターディスプレイに組み込まれた。先代からの乗り換えユーザーは戸惑い必至で、注意が必要だ。
フロントシートは人体構造まで踏み込んで研究し、骨格から見直した。頭部の揺れを低減するのが目的で、頭の揺れのもとになる腰の動きを抑えるため、仙骨を押さえて骨盤をサポートする構造を採用した。「ボディがいくら良くなっても、シートがだめだと台無しになる」と開発に携わった技術者はシートを新開発した背景を説明する。
ボディはレヴォーグやWRX S4などで採用しているフルインナーフレーム構造に進化させた。従来はアッパーボディとアンダーボディを別々に組み立てた後に接合していた。フルインナーフレーム構造はボディ全体の骨格を強固に組み立ててから外板パネルを溶接する構造で、従来構造に比べて剛性が圧倒的に高まり、操縦安定性や快適性の向上に寄与する。構造用接着剤の塗布範囲を大幅に拡大したのも、ボディ全体の剛性アップに貢献している。
だが、それでは不十分で、クロストレックではシートの構造にまで手を入れたということだ。
「従来はフロアの加速度を評価指標としており、他社さんと同じレベルにして『良くなった』と判断していました。ただ、乗り比べてみると、物足りない。その理由はなんだろうと解析した結果、頭の位置を安定させることが重要だということがわかりました」
頭が振られると、不快に感じるだけでなく、頭を安定させようと無意識に首や身体に力が入るため、疲労の原因になる。新型クロストレックの新構造シートは、仙骨を押さえて骨盤を支える構造とした。仙骨を押さえると、頭や身体の揺れが自然と抑えられることが、研究の結果わかったからだ。新構造シートの開発に合わせ、シートと車体の固定構造も変更した。従来はブラケットを介して車体に固定していたが、新型クロストレックではシートレールを直接クロスメンバーに固定している。取り付け部の剛性を高めるためだ。固定に用いるウェルドナット(溶接により接合するナット)は形状を見直し、ボルト締結力を面でしっかり受ける形状に変更。剛性アップに寄与している。
ショールームでちょっと横になったくらいではベッドの真価がわからないように、連続15分程度の試乗では、新型クロストレックのシートの出来について判断するのは難しい。しかし、相当の自信作であることは確かで、長距離ドライブで真価を確かめる日が来るのを心待ちにしている。
電動アシスト式パワーステアリングも進化
パワートレーンは、FB20型の2.0L水平対向4気筒自然吸気エンジン(最高出力145ps、最大トルク188Nm)にモーター(最高出力10kW、最大トルク65Nm)を組み合わせたe-BOXERのみの設定となる。e-BOXERのモーターは小出力ながら、発進時にモーターのみのEV走行が可能だ。新型では、先代にはあったガソリンエンジン仕様の設定はなくなっている。また、AWDに加えFWD(前輪駆動)を設定。e-BOXERとFWDの組み合わせはスバル初だ。トランスミッションはチェーン式CVTのリニアトロニックである。
走行機能系では、電動パワーステアリングを1ピニオン(ピニオンアシスト)から2ピニオン(デュアルピニオン)に変更したのが、ハイライトのひとつ。方式的にはレヴォーグと同じで、ステアリング操作軸とモーターアシスト軸を分離した構造により、リニアで滑らかなトルク伝達となるのが特徴だ。また、ブレーキブースターは従来の負圧式から、昇圧性能の高い電動式に変更。これもレヴォーグで適用(スバル初採用)した技術だ。電動ブレーキブースターの採用により、踏んだ瞬間から効く安心感と高い剛性感が味わえると同時に、全車速追従機能付きクルーズコントロールを作動させている際の制動時の応答性を向上させている。
クローズドの環境で新旧を乗り比べる機会を得た。先代との対比で印象的だったのは、何もかもがスムーズでなめらかな点だ。発進時はモーターのみの動力で走り始め、車速が上がるとエンジンが始動し、エンジン主体の走りに切り替わるが、新型はモーターからエンジンの移行がスムーズになった。強い加速を求めてエンジン回転が高まるようなシーンでは、トランスミッション由来のノイズが小さくなり、格段に静かになったのも印象的だ。
ステアリングを切り込んだ際の手応えに引っかかり感はなく、どこまでもリニア。ステアリングの切り込みに合わせて車体はロールするが、その動きも自然でやさしく、ぐらっと揺れて不安感をあおるようなことはない。突起や段差を乗り越えたときの動きは一段とマイルドになっている。乗り味のやさしさは失っていないが、ドライバーの操作に対する反応が良く、かつスムーズなので、運転が楽でストレスを感じない。
これで「どこにも負けない自信がある」シートが主張どおりの出来だとすると、ロングドライブのストレスは大幅に軽減されるはず。2023年の発売が楽しみだ。
SUBARUクロストレック上級グレード(プロトタイプ参考値) 全長×全幅×全高:4480mm×1800mm×1580mm ホイールベース:2670mm 最小回転半径 5.4m 最低地上高:200mm 車両重量:1540~1620kg 排気量:1984cc エンジン:水平対向4気筒DOHC直噴+モーター 駆動方式:FWD/AWD トランスミッション:CVT タイヤサイズ:225/55R18 乗車定員:5名