脱・温暖化その手法 第42回 ー電気自動車の優位性について—

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

走る性能に有利なのは4輪独立制御ができる電気自動車の特権

前回、2010年までは日本は電気自動車で世界の最先端であったが、わずか10年の間に、その生産台数で見る限り中国、ヨーロッパ、アメリカに完全に遅れを取ってしまったことを述べた。

その理由は、自動車産業も政府も一般の日本人も電気自動車は内燃機関自動車に比べて極めて優位であるとの認識が少なかったことではないかと考えている。

それでは、電気自動車の優位性とは何か、に関して、今回は取り上げる。

車の利用者にとってこれを購入したくなる理由を良い面から考えると、目的地に速く楽に快適に行けることと、まとめられるだろうか。負の側面から見ると環境、エネルギー、事故の問題がないということになる。そして、これらが他の選択肢よりも安価に利用できることである。安価という中には、購入価格とランニングコストがある。

それでは、速く、楽に、快適に行けるという点から見て行こう。速くというのは加速が良いこと、ブレーキがよく効くこと、カーブを曲がる際に高速でも安定に曲がれることに相当する。この点で考えると、電気自動車で、すべての車輌に十分な回転力を持つモーターを取り付け、それぞれのモーターを独立に加速と減速ができるようなコントロールをすれば、内燃機関自動車では決してできなかった性能を持たせることが出来る。このような電気自動車は私が2002年に開発したKAZ以来に関わった電気自動車で、Eliica、SIM-LEI、SIM-WIL、SIM-CELと名付けた車で実現しており、特にSIM-WILについては4つの車輪を独立に制御することで、これまでの車では実現できなかった、曲がるという性能を極限状態で実現している。

楽にという点では運転が楽ということに相当するものとすると、オートマの車と同じようにクラッチはいらないし、ブレーキもなくすることができる。BMW i3にはこの機能がついており、アクセルを踏むと加速するし、ペダルから足を離すと自動的にブレーキがかかる仕組みになっている。

快適という点では音や振動が少ないことがまずあるが、エンジンに比べてモーターは本質的にこれが少ないことは明らかである。もう1つ、快適さのなかには車室の広さもある。この点でも最近の電気自動車は床下に電池が敷き詰められ、エンジンに相当するモーターも小型であるため、同じ外形サイズの車であれば電気自動車の方がより大きな室内空間を持たせることができる。

さらに快適という点では、片やガソリンスタンドでガソリンを入れなければ走行ができないが充電も家庭でできる。この点、これはで自動車を使う頻度の少ない人は、ガソリンスタンドには入りにくいということと臭いがいやだ、ということで行きたくないという人が多いが、充電はそのようなことがない。特にこれからは自動充電が生まれ、主流になってくると考えている。すると家の駐車場に駐めておけば、必要な量の充電は自動的にしてくれる。

電気自動車の優位性
クルマにとっての正の部分、負の部分、
コストの面で、優位性がある。

電気自動車のエネルギー効率はガソリン車の4倍以上

負の側面の環境、エネルギー、事故の面で見よう。

環境面では、かつては大気汚染防止のために電気自動車を普及させようという動きがあった。今はCO2削減が主な目的である。ここで多くの人々が疑問に思っていることは、電気自動車は走行中にCO2を排出しないが、その電気を作るために火力発電で行なえば、CO2は排出されるのだから、その削減にはならないのではないかということがある。

現実には例え電気を起こすために火力発電を使ったとしてもエネルギー変換効率が全く異なるために、結果として電気自動車はCO2の発生量が少ないということである。より具体的に言うと、現在の火力発電で最も発電効率が高いのは天然ガスを用いたコンバインドサイクルである。この発電法では天然ガスから電気を得るための変換効率が60%を越している。こうして起こした電気は効率96%で一般家庭や充電できるところまで送電され、90%の効率で充電され、モーターとインバーターで消費される。モーター、インバーターの効率は常用領域で80%を越している。これらの効率を掛け合わせると、天然ガスからモーターを回すまでのエネルギー変換効率は40%を超す。

一方でガソリン自動車では原油を精製する過程で8%のエネルギーが失われ、これをスタンドに運ぶためのタンクローリーで消費されるエネルギーを考慮すると2%程の損失が起こる。問題はエンジンの効率の悪さである。エンジンはある回転数、ある回転力(トルク)の時には30%を超す効率が得られる。しかし実用的に加速、減速を繰り返して走る場合、その平均効率は10%に満たない。

このため、ガソリン車の効率9%程となる。するとエネルギー効率の点では電気自動車とガソリン自動車では約4倍の効率の差があることになる。将来、太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーが増えれば、その差はさらに広がる。

次に、エネルギーの点では石油資源の約半分は車として使われている。このため、その節約という点では大きな効果がある。

電気自動車、燃料電池自動車、ガソリン自動車の
効率の比較。電気自動車はエネルギー転換のすべ
てで効率が高い。

事故はどうか、事故には運転ミスによるものと、車自体の欠陥によるものがある。自動運転や運転支援によりミスによる事故は減らせるが、制御が行ないやすいという点では電気自動車への取り付けが容易である。車の欠陥による事故の点では、衝突時あるいは他の理由での車の火災がある。これについては車輌に積んでいるガソリンのエネルギーと電気自動車1台当りに積んである電池のエネルギー量には10倍近い開きがある。このため、例え火災が起きても電気自動車では大事に至らないことが多いということは想定できる。但し、これまで国内で売られた電気自動車の数が少ないために、定量的にどれだけ火災が起こりにくく、あるいは起こった時の被害がどれだけ少ないかを言える程ではない。

これらに加えて車の価格とランニングコストがある。電気自動車は部品点数が少ないため本質的に価格は安価にできる筈であるが、価格は生産台数が大きければ安価になるために現時点では安価とは言えない。ランニングコストとしての電気代とガソリン代の比較では現在でも圧倒的に電気代が安い。

以上、内燃機関自動車と電気自動車の正と負の両面から見て来たが、あらゆる比較で電気自動車が不利なところはない。特にCO2を減らす効果は大きいことを理解して頂きたい。

今回はほとんどが定性的な比較であったが、CO2発生量については実車での定量的な比較が可能なデータが揃っている。次回はその比較を中心に述べたい。

1997年に開発を始めたKAZの走行可能台車での走行可能台車による試験
走行可能になったミュールを試験している写真。フレームのままの台車に幌を付けて
走行試験ができるようにしてある。

キーワードで検索する

著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…