マツダの新型ロータリー「8C型」|ディメンジョンから刷新。13Aと16Xとの関連性は?

新技術満載のマツダの新型ロータリー「8C型」は熱効率向上を果たした高効率ロータリーエンジンだ

MX-30 e-SKYACTIV R-EVが搭載する新型ローターリーエンジン
マツダは『AUTOMOBILE COUNCIL 2023(オートモビルカウンシル)』(4月14日〜16日、幕張メッセ)に日本初公開となるMX-30 e-SKYACTIV R-EV(欧州版特別仕様車のEdition R)を展示。同時に、このクルマが搭載する電動パワートレーンのカットモデルを展示した。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

完全に新しいロータリー、それが8C型

右側が8C型シングルローターロータリーエンジン
マツダの広報イラストで見る車載状態

MX-30 e-SKYACTIV R-EVはシリーズ・プラグインハイブリッドモデルである。モーターで走るEVとしての機能をベースに、発電用エンジンとジェネレーター(とガソリンタンク)を付加したモデルだ。エンジンとジェネレーター、走行用モーターは同軸上に配置されているが、エンジンと駆動軸はつながっておらず、エンジンが始動している状況でも走行は常にモーターが行なう。

発電用エンジンにマツダのお家芸であるロータリーエンジンを採用したのが特徴だ。その理由についてマツダは、「必要とされる出力性能をコンパクトに実現できる」からだと説明した。マツダのロータリーエンジン搭載車はRX-8が最後で2012年に生産を終了している。発電専用ではあるが、11年ぶりにロータリーエンジンが復活したことになる。

しかも新開発だ。ロータリーエンジン開発の経験が長い現地説明員(技術者)の解説をもとに、「8C」と名づけられた新しいロータリーエンジンの技術について見ていこう。

2013年12月にデミオのレンジエクステンダーに搭載していたのは、発電用に開発された単室容積330cc、圧縮比10.0、単体重量35kg、最高出力25kW/4500rpm、最大トルク47Nmというスペックの1ローターエンジンだった。

ディメンジョンから刷新。13Aと16Xとの関連性は?

8Cの排気量は830ccだ。RX-8が搭載していた13B-MSPをはじめ、1973年に登場した最初の13Bを含め、13B系の排気量は654ccである。ディメンジョンの詳細は後述するが、レシプロエンジンのボア×ストロークに相当する諸元は変更されており、まるっきりの新型エンジンだ。

「オールニューです。熱効率の向上に一番効く諸元ということでSV比を小さくしたかった。SV比を小さくするためにゼロベースで諸元を見直したところ、この形になりました」

MX-30 e-SKYACTIV R-EVの新8C型
排気量:830cc × 1ローター
トロコイド寸法
e値(偏心量): 17.5mm
R値(創成半径): 120.0mm
b値(ハウジング幅): 78.0mm
最高出力:75ps(55kW)/4500rpm
最大トルク:117Nm/4000rpm
圧縮比:11.9
燃料供給:DI

SV比とはSurface(サーフェス:表面積)とVolume(ボリューム:容積)の比のことだ。一般的にはSV比を小さくする(容積に対して表面積を小さくする)と壁面を通じて冷却水などに逃げる熱が減って仕事が増え、熱効率は向上する。レシプロエンジンではボアを小さくしてストロークを長くするのが常套手段だ。

ロータリーエンジンではローターの厚みと近似のハウジング幅がレシプロエンジンのボアに相当する。13B系のハウジング幅は80mmだったが、8Cでは76mmに縮めた。いっぽう、ロータリーエンジンでストロークに相当するのは偏心量(e値:クランクシャフトの役割を果たすエキセントリックシャフトの軸中心とローター中心間の距離)だ。13B系の15mmに対し、8Cは17.5mmとした。

ロータリーエンジンの諸元を決める要素のひとつにトロコイド定数がある。K値とも呼ばれ、偏心量(e値)と創成半径(R値)で決まる。創成半径はローター頂点と中心間の距離だ。トロコイド定数は創成半径を偏心量で割った値(K=R/e)である。13B系の創成半径は105mmなので、K値は105÷15=7。8Cの創成半径は120mmなので、120÷17.5=6.86である。

K値はローターが1回転したときのローター頂点の軌跡、すなわちハウジング形状(トロコイド形状)を決める。数字が大きくなるほど繭(まゆ)型をしたハウジングのくびれは小さくなり、数字が小さくなるほどくびれは大きくなる(三角おむすびローターの形状も変わる)。8CのK値は13B系よりもわずかながら小さいので、よ~く観察すると、くびれは少し大きくなっていることになる。

8Cの創成半径は120mmなので、120÷17.5=6.86
右から8C型ロータリーエンジン、ジェネレーター、駆動用モーター。

「実はゼロベースで設計したときの偏心量は17.3mmだったのです」と思わぬ情報を得ることができた。17.3でK値を計算すると6.94になる。「その数値が昔作ったエンジンに近かったこともあり、同じ諸元にしました。そうするとトロコイド形状が同じになるので、ローターの側面に付いているシールなどを設計するときの参考になる。先人たちが設計したものを参考にさせてもらいました」

昔作ったエンジンとは13Aだ(1969年に発売された、パワートレーン横置きレイアウトのルーチェ・ロータリークーペに搭載)。13Aの偏心量(e値)は17.5mm。創成半径(R値)は120mmで8Cと同じである(ハウジング幅は60mmで排気量は655cc)。

ゼロベースとはいえ、8Cの開発にあたってはロータリーエンジンの開発に着手した1961年以来、連綿と築き上げてきた知見と資産を有効に活用している。直近の技術としては、2007年の東京モーターショーに次世代ロータリーエンジンとして出展した「16X」の技術が生かされている。

「そうです。あれ(16X)がベースになっています。当時は2ローター(800cc×2)で開発していました。今回は発電用、かつコンパクトさが求められたこともあってシングルローターとして開発しました」

サイドハウジングをアルミにしたのも(13B系は鋳鉄)、燃料噴射を直噴にしたのも(13B系はポート噴射)、16Xに起源を求めることができる。アルミハウジングの採用は軽量化のため。直噴化は燃焼改善(異常燃焼の回避)による高圧縮比化のためで、圧縮比は13B-MSPの10.0に対し、8Cは11.9となっている。展示用エンジンには反映されていないが、8CはクールドEGRを適用。これも異常燃焼を抑えるため(とポンピングロス低減)だ。

8Cは発電用エンジンとして(効率が高くなる)負荷の高い状態を多用するので、アペックスシールの幅を従来の2mmから2.5mmに拡げた。接触する面積を拡げて面圧を落とし、摩耗を抑えるためだ。サイドハウジングの表面にはサーメット溶射を施したという。サーメット(cermet)とはセラミックス(ceramics)と金属(metal)の複合材料のことで、8Cの場合は高温摩耗に強いクロムカーバイドニッケルクロム(CrC-NiCr)を高速フレーム溶射(粉末を溶融させつつ高速で吹きつける)している。

ロータリーエンジンのキモでもあるアペックスシールは2.5mm幅に拡げている。
青く光って見える部分がいわゆる「燃焼室」にあたる。
ここだ。
インポート/エキゾーストは、サイドに配置。燃料供給は直噴(DI)だ。

「(サイドハウジングが)アルミだとサイドシールやオイルシールの摺動に負けてハウジングを削ってしまうのです。レシプロエンジンで使っているような(鉄系)溶射もありますが、それでは全然持ちません。ロータリーの場合はそこが厳しく、今回は社内にオールニューのラインを作り、高速フレーム溶射もそこで行なっています」

三角おむすび型のローターが繭型をしたハウジングの中を回転することに変わりはないが、8Cは新技術が満載。ディメンジョンの最適化と直噴による高圧縮比化、さらにはその周辺技術によって熱効率向上を果たした高効率ロータリーエンジンだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…